都市部では、空き地や遊休地を活用する方法としてコインパーキング経営が広く普及しています。一方で、土地所有者の立場から見ると、「コインパーキングを経営している」と考えていても、税法上は「土地を貸しているだけ」と評価される場合があります。
この違いは、個人事業税の課税関係に大きく影響します。
東京高等裁判所が判断した駐車場業事件では、「土地所有者は本当に駐車場業を営んでいるのか」が重要な争点となりました。
今回は、コインパーキング経営と土地賃貸の違いについて、税務実務の視点から整理します。
コインパーキングにはさまざまな契約形態がある
「コインパーキング」と一言でいっても、その運営方法は一つではありません。
代表的な形態には、
- 土地所有者が自ら運営する方式
- 専門会社へ土地を一括賃貸する方式
- 売上を分配する共同運営方式
などがあります。
外見は同じコインパーキングでも、契約内容が異なれば税務上の評価も変わります。
そのため、駐車場の外観だけでは判断できません。
土地を貸しているだけの場合
最も多いのが、土地所有者が専門会社へ土地を貸す方式です。
この場合、
土地所有者は毎月一定額の賃料を受け取ります。
一方、運営会社は、
- 精算機の設置
- 利用料金の設定
- 集金
- 清掃
- 故障対応
- 苦情対応
- 利用者募集
などを行います。
土地所有者は、これらの業務には通常関与しません。
このような契約では、土地所有者は「土地賃貸人」と考えられる可能性が高くなります。
自ら運営している場合
これに対し、
土地所有者自身が、
- 精算機を設置する
- 利用料金を決める
- 利用者から料金を受け取る
- 清掃や設備管理を行う
- 営業上のリスクを負う
のであれば、
実際に駐車場事業を営んでいると考えられます。
このようなケースでは、地方税法上の「駐車場業」に該当する可能性があります。
つまり、
事業として運営しているのか、土地を貸しているだけなのか
が重要になります。
駐車場業事件で争われた内容
講義資料で紹介されている事件では、
土地所有者がコインパーキング会社と契約していました。
課税庁は、
「土地所有者も駐車場業を営んでいる」
として個人事業税を課税しました。
しかし裁判所は、
契約内容や実際の運営状況を詳細に検討しました。
その結果、
土地所有者は土地を提供している立場にとどまり、
実際の駐車場事業は運営会社が行っていると判断しました。
そのため、地方税法上の駐車場業には該当しないと結論付けました。
裁判所が重視したポイント
判決では、
次のような事情が重視されました。
- 利用者との契約主体は誰か
- 駐車料金を受け取るのは誰か
- 設備を設置・管理しているのは誰か
- 営業上のリスクを負担するのは誰か
- 日々の運営を行っているのは誰か
これらを総合すると、
実際の事業主体は運営会社であり、
土地所有者ではないと判断されたのです。
裁判所は、契約書の名称ではなく、経済的な実態を重視しました。
売上連動型契約は注意が必要
近年では、
固定賃料ではなく、
売上の一定割合を土地所有者が受け取る契約も増えています。
この場合でも、
直ちに駐車場業になるわけではありません。
重要なのは、
売上の分配方法ではなく、
誰が事業を経営しているかです。
例えば、
売上連動型であっても、
設備管理や営業活動をすべて運営会社が行っていれば、
土地所有者は土地賃貸人と評価される可能性があります。
一方、
土地所有者が経営判断に深く関与していれば、
駐車場業と判断される余地もあります。
実務で確認すべき事項
税理士として相談を受けた場合には、
次の点を確認することが重要です。
- 契約の相手方は誰か
- 固定賃料か売上連動か
- 設備は誰が所有しているか
- 管理業務は誰が行っているか
- 営業上の損益は誰に帰属するか
- 利用者との契約主体は誰か
これらを整理することで、
土地貸付なのか、
駐車場業なのかを適切に判断できます。
今後さらに重要になる論点
遊休地活用の方法は多様化しています。
カーシェアリング、自転車シェア、EV充電施設など、
新しい土地活用サービスも急速に普及しています。
こうした事業でも、
土地を貸しているだけなのか、
自らサービス事業を営んでいるのかが、
税務上の重要な判断ポイントになります。
駐車場業事件の考え方は、こうした新しい土地活用にも応用できる考え方といえるでしょう。
結論
コインパーキングが設置されているからといって、土地所有者が当然に駐車場業を営んでいることにはなりません。
税務上重要なのは、土地所有者が事業主体として運営に関与しているか、それとも土地を貸して賃料を受け取る立場にとどまるのかという実態です。
駐車場業事件は、契約書の名称や施設の外観ではなく、事業の実態を重視して課税関係を判断すべきことを示した重要な判例です。土地活用の方法が多様化する現在、この判例の考え方は今後ますます重要になるでしょう。
参考
近畿税理士会研修会(周辺専門講座)
「地方税をめぐる最近の動向等―注目すべき裁判例の検討を中心に―」
講師 和歌山大学経済学部教授 片山直子先生
地方税法
東京高等裁判所令和3年8月26日判決(個人事業税・駐車場業事件)