複数後継者制度は広がるのか 制度研究編

経営

事業承継というと、「後継者は一人」という考え方が一般的です。

実際、多くの中小企業では、一人の後継者へ経営権と株式を集中させることで、迅速な意思決定を実現してきました。

しかし近年では、経営環境が複雑化し、企業経営に求められる能力も多様になっています。

そのため、「複数の後継者で会社を支える」という考え方にも注目が集まり始めています。

今回は、複数後継者制度の可能性について考えてみます。

これまで一人の後継者が基本だった理由

中小企業では、経営の最終責任者を一人にすることで、

  • 意思決定を迅速に行う
  • 経営責任を明確にする
  • 株式を集中させる

というメリットがありました。

また、取引先や金融機関から見ても、

「この人が会社の代表者」

ということが明確であるため、信頼関係を築きやすいという利点があります。

そのため、事業承継では一人の後継者へ経営を集中させる方法が主流となってきました。

経営には多様な能力が求められる時代になった

一方で、現在の経営環境は大きく変わっています。

経営者には、

営業力。

財務管理。

DXへの対応。

人材採用。

海外展開。

コンプライアンス。

など、多岐にわたる能力が求められます。

一人ですべてを完璧に担うことは、以前にも増して難しくなっています。

そのため、兄弟姉妹や役員など複数人で経営を支える体制を検討する企業も少しずつ増えています。

複数後継者にはメリットもある

複数後継者には、さまざまな強みがあります。

例えば、

営業が得意な人。

財務に強い人。

技術開発に詳しい人。

それぞれが専門分野を担当することで、会社全体の経営力を高められる可能性があります。

また、一人に負担が集中しないため、経営リスクを分散できるという考え方もあります。

会社が大きくなるほど、チーム経営の重要性は高まっていくでしょう。

一方で慎重な検討も必要である

もちろん、複数後継者には課題もあります。

経営方針が一致しなければ、

意思決定が遅れる。

責任の所在が曖昧になる。

社員が誰の指示に従うべきか迷う。

という問題が起こることもあります。

さらに、株式まで複数人へ分散すると、将来の経営に支障をきたす可能性もあります。

そのため、複数後継者を選ぶ場合でも、

最終的な意思決定者は誰なのか。

役割分担をどうするのか。

株式はどのように保有するのか。

といった点を明確にしておくことが重要です。

制度も多様な承継を検討し始めている

中小企業庁でも、今後の事業承継制度の方向性を検討する中で、複数後継者について議論が行われています。

資料では、

「株式分散によるリスクを避けるため、一人の後継者が望ましい」

という意見がある一方で、

「実際には複数後継者による承継も一定数存在しており、その実態も踏まえて制度を検討すべき」

という考え方も示されています。

つまり、これからの事業承継は、一つの形だけではなく、多様な承継方法を前提とした制度へ発展していく可能性があります。

重要なのは人数ではなく経営体制

後継者が一人か二人かということよりも重要なのは、会社として安定した経営体制を築けるかどうかです。

例えば、

社長は一人でも、

営業担当役員。

財務担当役員。

技術担当役員。

というように、経営チームを組織することもできます。

つまり、「経営を一人で背負う」のではなく、「組織で経営する」という考え方が、これからますます重要になっていくでしょう。

結論

複数後継者制度は、経営環境の変化に対応する新しい選択肢として注目されています。

それぞれの得意分野を生かした経営は、会社の成長につながる可能性があります。

一方で、責任の所在や株式の分散など、慎重に検討すべき課題も少なくありません。

事業承継で最も重要なのは、後継者の人数ではなく、会社が将来も安定して成長できる経営体制を構築することです。

これからの事業承継は、「誰が社長になるか」という視点だけではなく、「どのような経営チームをつくるか」という視点も、ますます重要になっていくでしょう。

参考

北陸税理士会「事業承継税制(特例版)における実務上の論点整理」

中小企業庁「今後の検討の方向性について」

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