会社経営において「借金は悪いもの」と考える経営者は少なくありません。確かに借入金が増えれば返済負担は大きくなります。しかし、本当に重要なのは借入金の金額ではなく、「返済できる力」があるかどうかです。
銀行も借入金の総額だけを見て融資を判断しているわけではありません。会社が利益を生み続け、借入金を計画的に返済できるかを重視しています。
今回は、借入金と返済能力のバランスについて考えてみます。
借入金の金額だけでは経営は判断できない
同じ1億円の借入金でも、毎年大きな利益を生み出している会社と、赤字が続いている会社では意味がまったく違います。
借入金は設備投資や新規事業への投資資金です。
利益を生み出す投資であれば借入金は会社を成長させる武器になります。
一方で、赤字補填や資金繰りだけのために借入金が増えていく会社は注意が必要です。
重要なのは、「いくら借りているか」ではなく、「何年で返済できるか」という視点です。
債務償還年数は会社の返済力を示す指標
金融機関が重視する代表的な指標の一つが「債務償還年数」です。
これは現在の利益水準が続いた場合、借入金を何年で返済できるかを示しています。
一般的には、
・10年以内であれば健全
・20年を超えると注意
という目安があります。
もちろん業種や設備投資の状況によって異なりますが、この数字が年々長くなっている場合は利益を生み出す力が落ちている可能性があります。
会社の健康状態を知る重要なサインといえるでしょう。
利益よりキャッシュを重視する理由
債務償還年数を計算する際には、利益だけではなく減価償却費も加えて考えます。
減価償却費は会計上の費用ですが、実際には現金が外へ出ていく支出ではありません。
つまり、返済に充てられる資金として考えることができます。
会社経営では利益だけを見るのではなく、実際に手元へ残るキャッシュを意識することが重要になります。
黒字でも資金不足になる会社がある一方で、利益はそれほど大きくなくても資金繰りが安定している会社があるのは、この違いによるものです。
借入本数が増えるほど資金繰りは苦しくなる
意外に見落とされるのが借入本数です。
資金が不足するたびに新しい借入を行うと、その都度返済が始まります。
すると毎月の返済額は積み重なり、資金繰りは次第に苦しくなります。
必要に応じて借換えを活用し、借入を一本化することで毎月の返済負担を抑えられるケースもあります。
借入金額だけではなく、返済スケジュール全体を設計することも重要な経営判断です。
銀行は金額よりもリスクを見ている
取引銀行の選び方も重要です。
信用保証協会付き融資は保証協会が一定割合を保証するため、銀行のリスクは限定されます。
一方、銀行が保証なしで貸し出すプロパー融資は、銀行自身がリスクを負っています。
つまり、本当に会社を評価している銀行は、プロパー融資を実行している金融機関ともいえます。
経営が苦しくなったときに支援してくれる可能性が高いのも、そのような銀行です。
取引銀行は数ではなく、信頼関係の深さが重要になります。
税理士が確認すべき財務指標
税理士は決算書を作成するだけでは十分ではありません。
毎月の試算表から、
・債務償還年数
・借入残高
・返済予定額
・営業利益
・キャッシュフロー
これらの推移を経営者へ説明することが求められます。
数字の変化を早期に発見できれば、資金繰り悪化を未然に防ぐこともできます。
経営者が安心して設備投資や事業拡大を判断できるよう支援することも、税理士の重要な役割になっています。
人生100年時代は借入金との付き合い方も変わる
これからは人口減少や金利上昇など、企業を取り巻く環境が大きく変化します。
だからこそ、借入金を恐れるのではなく、返済能力とのバランスを見ながら経営する姿勢が重要になります。
適切な借入は企業の成長を支える重要な経営資源です。
一方で、返済能力を超える借入は会社の将来を危険にします。
経営者には、借入金額ではなく「返済できる力」を数字で把握し、金融機関との信頼関係を築きながら持続的な経営を目指していただきたいと思います。
結論
借入金は決して悪いものではありません。重要なのは、利益やキャッシュフローに見合った返済能力を維持できているかどうかです。債務償還年数などの財務指標を定期的に確認し、借入本数や返済計画も含めて管理することで、会社の財務体質は大きく改善します。経営者と税理士が数字を共有しながら、将来を見据えた資金戦略を考えることが、安定した企業経営への第一歩となるでしょう。
参考
企業実務 2026年7月号
借入金と返済能力のバランスに注意しよう