かつて日本では「土地は持っていれば必ず値上がりする」と信じられていました。土地は最も安全な資産であり、子や孫に残すべき財産の象徴でもありました。
しかし、人口減少が進む現在、その常識は大きく変わりつつあります。
地方では土地の買い手が見つからず、相続した土地を手放したくても手放せないケースが増えています。空き家や所有者不明土地の問題が深刻化している背景には、土地神話の終焉があります。
今回は、土地神話が終わった時代における新しい相続対策について考えてみます。
土地は持っているだけで価値が上がる時代だった
高度経済成長期からバブル経済期にかけて、日本の地価は長期間上昇を続けました。
親世代や祖父母世代にとって土地は預金以上の資産でした。
実際に、
・土地を買えば値上がりする
・相続税対策にもなる
・将来必ず役に立つ
という考え方が一般的でした。
そのため、多くの家庭で「土地は売らずに残すもの」という価値観が形成されました。
しかし、その前提条件は人口増加社会でした。
人口減少社会では土地が余る
現在の日本は人口減少局面に入っています。
総人口だけでなく世帯数も今後は減少に向かうと予測されています。
住宅需要が減れば土地需要も減ります。
地方では既にその現象が起きています。
相続した実家を売ろうとしても、
「買い手がいない」
という状況が珍しくありません。
固定資産税だけが発生し、草刈りや建物管理の負担も続きます。
資産のつもりだった土地が負担だけを生む「負動産」へ変わるケースが増えているのです。
相続税評価額と実勢価格の差に注意
土地相続で見落とされやすいのが評価額と売却価格の違いです。
相続税評価額は一定のルールに基づいて算定されます。
しかし実際の市場価格は需要と供給で決まります。
地方では、
相続税評価額1000万円
実際の売却価格300万円
というケースも珍しくありません。
相続人は高い評価額で相続税を負担したにもかかわらず、売却時には大幅な値下がりに直面することがあります。
今後は評価額だけではなく、実際に売れる資産なのかという視点が重要になります。
残す相続から整理する相続へ
従来の相続対策は財産を増やしながら次世代へ引き継ぐことが中心でした。
しかし今後は考え方が変わります。
重要なのは、
「何を残すか」
ではなく、
「何を残さないか」
です。
利用予定のない土地であれば、
・生前売却する
・隣地所有者へ譲渡する
・自治体制度を活用する
・国庫帰属制度を検討する
といった選択肢を早めに検討する必要があります。
相続発生後では選択肢が限られることも少なくありません。
家族信託や遺言の役割も変わる
土地神話の終焉は家族信託や遺言の役割にも影響します。
これまでは資産承継が主な目的でした。
しかし今後は、
・不要不動産の処分方針
・管理者の指定
・空き家対策
・売却権限の明確化
などが重要になります。
認知症になってからでは売却が困難になる場合があります。
そのため元気なうちから家族信託や遺言を活用し、管理や処分のルールを決めておくことが有効です。
税理士に求められる助言も変わる
これまで税理士の相続相談は節税が中心でした。
しかし今後は、
・相続税が発生しない家庭
・地方の不動産しかない家庭
・空き家を抱える家庭
が増加します。
こうした家庭では節税よりも資産整理のほうが重要です。
税理士には、
・不動産の収益性分析
・将来の管理コスト試算
・家族信託活用提案
・相続土地国庫帰属制度の紹介
・司法書士や不動産会社との連携
などが求められるようになるでしょう。
相続税専門家から資産管理アドバイザーへの進化が期待される時代です。
結論
土地神話が終わった現在、相続対策は大きな転換点を迎えています。
これからの相続対策は、財産を増やして残すことだけではありません。管理できる資産を選び、不要な資産は早めに整理することが重要になります。
人口減少社会では、土地を持つこと自体が価値ではなくなりつつあります。
人生100年時代の相続対策に必要なのは、「残す技術」ではなく「整理する知恵」なのかもしれません。
参考
税のしるべ 2026年6月22日
関係閣僚会議が所有者不明土地等対策の基本方針等を改訂、使用者を所有者とみなす制度等の適用状況なども