近年、日本企業によるM&A(合併・買収)が急増しています。
かつて日本企業は「買収に消極的」「自前主義」と言われていました。しかし今では国内外を問わず企業買収が活発化し、M&A件数、買収金額ともに過去最高を更新しています。
企業を買うことに慎重だった日本が、なぜM&A大国へと変わろうとしているのでしょうか。
その背景には、企業を取り巻く環境の大きな変化があります。
過去最多となった日本のM&A市場
レコフデータによると、2025年に日本企業が関わったM&A件数は5,115件、買収総額は約38兆円となり、いずれも過去最高を記録しました。
かつての日本企業は、自社で人材を育成し、自社で技術開発を行い、自社で成長することを理想としていました。
しかし現在は状況が大きく異なります。
市場環境の変化は速く、技術革新も加速しています。
ゼロから事業を育てるよりも、既に強みを持つ企業を買収した方が早く成長できるケースが増えているのです。
M&Aは単なる企業売買ではなく、企業成長のための重要な経営戦略へと変化しています。
人口減少が企業変革を迫っている
日本企業がM&Aを活用する大きな理由の一つが人口減少です。
国内市場は長期的な縮小が避けられません。
さらに人手不足も深刻化しています。
これまでのように国内市場だけで成長することが難しくなったため、多くの企業は新たな成長分野や海外市場を求めています。
その際、自力で進出するよりも既存企業を買収する方が効率的です。
人口増加を前提とした経営から、限られた資源を活用する経営への転換が求められているのです。
企業統治改革が後押ししている
近年の企業統治改革もM&A増加の背景にあります。
東京証券取引所による資本効率改善の要請や、社外取締役の増加によって、企業経営は以前より株主を意識するようになりました。
その結果、
・成長性の低い事業を売却する
・競争力のある企業を買収する
・経営資源を集中する
といった判断が進みやすくなっています。
以前であれば温存されていた事業も、現在は企業価値向上の観点から再編対象になるケースが増えています。
企業統治改革は、日本企業の新陳代謝を促進しているのです。
事業承継問題がM&Aを増やしている
中小企業の後継者不足も大きな要因です。
経営者の高齢化が進む一方で、親族や社内に後継者がいない企業は少なくありません。
以前は廃業を選択していた企業も、現在はM&Aによって事業を承継するケースが増えています。
買収によって、
・従業員の雇用を守る
・取引先との関係を維持する
・技術やノウハウを残す
ことが可能になります。
M&Aは大企業だけの話ではなく、中小企業の事業承継手段としても定着しつつあります。
海外投資家が日本企業に注目している理由
日本企業への関心は海外でも高まっています。
その理由は、日本企業の多くが優れた技術やブランドを持ちながら、十分な収益力や資本効率を実現できていないからです。
海外投資家から見ると、
「改善余地が大きい企業」
が数多く存在しているように映ります。
そのため海外企業や投資ファンドによる買収提案が増えています。
近年では対抗TOBや複数企業による買収競争も珍しくなくなりました。
日本企業は世界の投資マネーにとって魅力的な市場になりつつあるのです。
価格重視から企業価値重視へ
M&A市場の拡大とともに、買収に対する考え方も変わっています。
以前は買収価格が最も重要視される傾向がありました。
しかし現在は、
・買収後に成長できるか
・従業員を活かせるか
・技術やブランドを伸ばせるか
・企業価値を向上できるか
といった観点が重視されるようになっています。
経済産業省も企業価値向上を重視する考え方を示しています。
単に高く買う企業ではなく、企業をより成長させられる買収者が選ばれる時代へ移行しているのです。
個人のキャリアにも共通する発想
この変化は企業だけの話ではありません。
私たち個人のキャリア形成にも通じる考え方です。
かつては終身雇用のもとで一つの会社に勤め続けることが理想とされました。
しかし現在は、
・転職
・副業
・独立
・学び直し
などを通じて、自分自身の価値を高めることが求められています。
企業がM&Aで変革するように、個人も新しい知識や経験を取り込みながら成長する時代になっています。
変化を拒むのではなく、変化を活用することが競争力につながるのです。
結論
日本企業がM&A大国になりつつある背景には、人口減少、企業統治改革、事業承継問題、海外投資家の関心拡大など複数の要因があります。
かつての日本企業は自前主義を重視していましたが、現在は変化のスピードに対応するためにM&Aを積極的に活用するようになっています。
重要なのは企業を買うこと自体ではありません。
買収によって企業価値を高め、より強い企業へと変革できるかどうかです。
M&Aの増加は、日本企業が守りの経営から成長志向の経営へと変わりつつあることを示しています。これからの日本経済を考えるうえで、その変化はますます重要になるでしょう。
参考
日本経済新聞 朝刊 2026年6月22日
・買収提案、価格以外も考慮 経産省指針、追加見解の議論大詰め 経営者の保身に懸念も
・日本のM&A、過去最多