AIの進化が止まりません。
税務の世界でも、申告書作成支援、税法検索、文書作成、財産評価の補助など、AIの活用が急速に広がっています。
かつて専門家しか持っていなかった知識が、誰でも簡単に手に入る時代になりました。
そのため、「将来、税理士は不要になるのではないか」という声も聞かれます。
確かに、税理士が行ってきた業務の一部はAIによって代替されるでしょう。
しかし、本当に税理士の価値はなくなるのでしょうか。
私はむしろ逆だと思います。
AI時代だからこそ、人間の税理士にしかできない価値がより鮮明になるのではないでしょうか。
知識の価値は確実に下がる
かつて専門家の価値は情報格差にありました。
税法を知っている。
判例を知っている。
制度を知っている。
その知識自体に価値がありました。
しかし現在は違います。
税法の解説はインターネットで調べられます。
AIに質問すれば制度の概要も分かります。
将来的には複雑な税務論点についても一定水準の回答が得られるでしょう。
つまり知識そのものは希少ではなくなっていきます。
これは税理士だけではありません。
弁護士も医師もコンサルタントも同じです。
知識を持っているだけでは選ばれない時代が始まっています。
相談者が求めているもの
では、相談者は何を求めているのでしょうか。
相続相談を例に考えてみます。
相談者が本当に知りたいのは、相続税の計算式だけでしょうか。
おそらく違います。
兄弟間のトラブルを防ぎたい。
親が認知症になる前に準備したい。
家族が安心できる形で財産を承継したい。
そのために何をすればよいのか知りたい。
つまり相談者が求めているのは情報ではなく判断です。
さらに言えば安心です。
そこに専門家の価値があります。
人生には正解がない
税務の世界には数字があります。
しかし人生には正解がありません。
年金を65歳で受け取るべきか。
70歳まで繰り下げるべきか。
自宅を売却すべきか。
住み続けるべきか。
相続対策を優先すべきか。
老後資金を優先すべきか。
どれも正解は人によって異なります。
AIは選択肢を示すことはできます。
しかし人生の価値観までは決められません。
その人が何を大切にしているのか。
何を不安に思っているのか。
何を守りたいのか。
そこを理解しながら一緒に考えることが専門家の役割です。
信頼はデータでは作れない
本郷尚先生は、税理士は「人に一生付き合っていられる仕事」だと語っています。
この言葉は非常に重要です。
信頼は一日では築けません。
何年もかけて積み重ねるものです。
事業承継の相談。
相続の相談。
老後資金の相談。
そのたびに助言し、支援し、寄り添う。
そうして信頼が生まれます。
AIは知識を提供できます。
しかし信頼関係を築くことはできません。
人が人を信頼するという行為は、これからも変わらないでしょう。
税理士は人生設計の伴走者になる
人生100年時代では、お金に関する意思決定が増えます。
退職金。
年金。
NISA。
iDeCo。
相続。
介護。
認知症対策。
これらは税金だけの問題ではありません。
人生設計そのものです。
だから税理士も変わる必要があります。
申告書を作るだけではなく、
人生設計を支援する。
制度を説明するだけではなく、
意思決定を支援する。
税金を計算するだけではなく、
人生に寄り添う。
そうした役割が求められるようになるでしょう。
人生後半戦ほど専門家の価値が高まる
若い頃は失敗してもやり直せます。
しかし60代、70代になると判断の重みが変わります。
相続対策を先送りした結果、大きな争いになることがあります。
認知症対策を怠った結果、家族が困ることがあります。
退職金の使い方を誤った結果、老後資金が不足することもあります。
人生後半戦ほど専門家の助言が重要になります。
そして、その助言は知識だけでは足りません。
経験と信頼が必要です。
ここにAIには代替できない価値があります。
結論
AIの進化によって税理士の仕事は大きく変わるでしょう。
しかし税理士の価値がなくなるわけではありません。
むしろ知識の価値が下がるからこそ、人間としての価値が問われる時代になります。
相談者の不安に寄り添うこと。
人生の選択を支援すること。
長期的な信頼関係を築くこと。
これらはAIには難しい領域です。
人生100年時代において税理士の価値は、税務知識そのものではなく、人に寄り添いながら人生設計を支援できることにあるのではないでしょうか。
参考
税のしるべ 2026年6月15日
インタビュー等「私が見た 税を巡る 点と線」
本郷尚氏に過去のエピソード、資産税関係の最近の動向を聞く、貸付用不動産の相続税評価額の改正は根本的な問題に触れず