相続税の更正の請求はいつでもできるわけではない 公表裁決から学ぶ実務上の注意点

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

相続税では、一度申告した内容であっても、後から遺産分割がまとまれば税額を見直せる場合があります。そのため、「遺産分割が変われば税金も戻ってくる」と考えている人も少なくありません。

しかし、実際にはすべてのケースで更正の請求が認められるわけではありません。

今回公表された国税不服審判所の裁決は、更正の請求が認められる範囲を改めて明確にしたものとして、相続実務に携わる人だけでなく、将来相続を迎える一般の方にも参考になる内容です。

更正の請求とは何か

更正の請求とは、納め過ぎた税金がある場合に、納税者が税務署へ税額の見直しを求める制度です。

例えば、

・計算誤りがあった場合

・控除の適用漏れがあった場合

・法律上認められた理由により税額が減少した場合

などには、更正の請求が認められる可能性があります。

相続税には一般の更正の請求とは別に、「相続税法第32条」による特則が設けられています。

これは、申告期限までに遺産分割が終わらなかったため、法定相続分で申告したものの、その後正式な遺産分割が成立した場合などに税額を見直せる制度です。

今回の裁決では何が問題になったのか

今回の事案は少し特殊です。

父親が亡くなった一次相続では遺産分割が行われないまま、母親が亡くなる二次相続が発生しました。

そのため二次相続では、

「母親は父親の遺産を法定相続分どおり取得したもの」

として相続税を申告しました。

ところが、その後になって一次相続の遺産分割協議が成立し、

「母親は父親の遺産を取得しない」

という内容になりました。

そうなると、

「母親の遺産は実際には少なかった」

ことになるため、相続税も減額できるのではないかというのが納税者側の主張でした。

審判所が認めなかった理由

国税不服審判所は、更正の請求を認めませんでした。

理由は非常に重要です。

相続税法第32条の特則は、

「申告時点で確定していた遺産の内容を前提として、その未分割財産が分割された場合」

を対象としています。

しかし今回は、

申告後に「前提となる遺産そのもの」が変わってしまっています。

つまり、

未分割財産の配分が変わっただけではなく、

課税対象となる遺産総額自体が変化しているため、相続税法第32条が予定するケースではないと判断されたのです。

そのため、更正の請求の対象にはならないと結論付けられました。

相続では「二次相続」を意識した設計が重要

今回の裁決は、一次相続と二次相続が重なるケースでは、遺産分割のタイミングが大きな影響を及ぼすことを示しています。

相続では、

・誰が取得するか

・いつ分割するか

・次の相続が起きる可能性

まで考えながら手続きを進める必要があります。

特に配偶者が高齢である場合には、一次相続を先送りしたまま二次相続が発生するケースも珍しくありません。

その場合には今回のような問題が起こる可能性があります。

「後で修正できる」と考えるのは危険

相続税の実務では、

「とりあえず申告しておき、後で修正すればよい」

という考え方が通用しない場面があります。

法律には更正の請求が認められるケースが細かく定められており、その要件を満たさなければ税額を変更することはできません。

制度の趣旨や適用範囲を正しく理解していないと、本来期待していた税額の見直しが認められず、結果として大きな負担につながることもあります。

相続税は金額が大きいだけに、「後で何とかなる」という考え方は避けるべきでしょう。

結論

今回の公表裁決は、更正の請求には明確な適用条件があり、遺産分割の内容が変わったからといって必ず税額を見直せるわけではないことを示しました。

特に、複数回の相続が関係するケースでは、一つの相続手続きが次の相続に影響を与えることがあります。相続税の申告では、目の前の相続だけを見るのではなく、家族全体の財産承継を見据えた長期的な視点が欠かせません。

制度を正しく理解し、早い段階から専門家と相談しながら遺産分割を進めることが、後悔しない相続につながるでしょう。

参考

税のしるべ(2026年7月6日)
「【公表裁決】相続税法第55条で確定した遺産が先行相続の遺産分割で減少、更正の請求はできない」

タイトルとURLをコピーしました