近年、経営コンサルタントという職業は大きな注目を集めています。企業経営の高度化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展、人材不足への対応など、企業が抱える課題は複雑化しており、専門家への期待はむしろ高まっています。
その一方で、帝国データバンクによると、2026年1~5月の経営コンサルティング業の倒産・休廃業解散件数は過去最多となりました。
一見すると、「コンサル市場が縮小している」とも見えます。しかし本当にそうなのでしょうか。
むしろ今起きているのは市場の衰退ではなく、業界の大きな変革と淘汰の始まりなのかもしれません。
今回はコンサルティング業界の変化から、人生100年時代の専門家の生き残り戦略について考えてみます。
コンサル市場は縮小していない
まず確認しておきたいのは、企業の課題そのものは減っていないということです。
少子高齢化、人材不足、事業承継、DX対応、海外展開、資産運用、相続対策など、経営者や個人が抱える悩みは増え続けています。
むしろ人生100年時代になり、
「何を選択すればよいかわからない」
という相談は増加しています。
つまり、相談需要そのものは消えていません。
問題は、
「どのようなコンサルタントが求められているか」
が大きく変わったことです。
市場が縮小したのではなく、顧客のニーズが変化したと考えるべきでしょう。
知識販売モデルの限界
かつてのコンサルティングは情報格差の上に成り立っていました。
専門家だけが知る情報やノウハウを提供することが価値だったのです。
しかし現在は状況が異なります。
インターネットで検索すれば多くの情報が手に入ります。
さらに生成AIの登場によって、一般的な分析や資料作成、アイデア整理まで短時間でできるようになりました。
その結果、
「知識を教えるだけ」
のコンサルティングは価格競争に巻き込まれやすくなっています。
顧客は高額な報酬を払って情報を買う必要がなくなったからです。
今回の倒産増加は、こうした知識販売モデルの限界を示しているともいえます。
求められるのは実行支援型コンサルティング
現代の企業や個人は情報不足で困っているわけではありません。
むしろ情報が多すぎて、
「何を選ぶべきか」
「どう実行するか」
に悩んでいます。
例えばDXについても、
導入方法を説明するだけでは価値になりません。
実際に現場へ入り込み、社員教育や運用定着まで支援することが求められます。
相続対策でも同様です。
税法の説明だけでなく、家族関係や認知症対策、財産管理まで含めた支援が必要になります。
これからのコンサルタントは、
「知っている人」
ではなく、
「実現できる人」
が選ばれる時代になっていくでしょう。
AIは敵ではなく選別装置になる
コンサルタントの間ではAIへの警戒感もあります。
しかし本当に脅威になるのでしょうか。
実際にはAIは専門家を不要にするというより、専門家の価値を二極化させる存在になる可能性があります。
一般的な知識提供や簡易分析はAIが代替します。
一方で、
・複雑な判断
・人間関係の調整
・長期的な意思決定
・不安への寄り添い
などは人間の役割として残ります。
つまりAIは専門家を消滅させるのではなく、本物とそうでない人を区別する選別装置として機能するのです。
人生100年時代は伴走者が求められる
人生100年時代には、一回限りの相談よりも長期間の支援が重要になります。
退職金の活用、年金受給戦略、住み替え、介護、相続、認知症対策などは数十年にわたるテーマです。
相談者が求めるのは正解ではありません。
安心感です。
不確実な未来に対して、
「一緒に考えてくれる人」
「困った時に相談できる人」
の価値が高まります。
この意味で、コンサルタントは先生から伴走者へと役割が変わりつつあります。
今後は顧問契約や継続相談型サービスの重要性がさらに高まるでしょう。
淘汰後に残る専門家とは
今後の業界再編の中で生き残る専門家には共通点があります。
第一に専門分野が明確であることです。
誰に何を提供する専門家なのかがはっきりしています。
第二に発信力があることです。
専門知識や経験を継続的に発信し、信頼を蓄積しています。
第三に伴走力があることです。
単発のアドバイスではなく、長期的な支援ができます。
そして第四に経験があることです。
人生経験や実務経験そのものが価値になります。
特に人生100年時代では、シニア専門家の経験が大きな強みになるでしょう。
結論
経営コンサルティング業界の倒産や休廃業の増加は、市場の縮小を意味しているわけではありません。
むしろ、知識販売型から伴走支援型への大転換が始まっていると考えられます。
AIやインターネットによって情報の価値は低下しました。しかし、人の不安に寄り添い、複雑な課題を一緒に解決する価値はむしろ高まっています。
人生100年時代に求められるのは、答えを教える専門家ではなく、未来を共に考える伴走者です。
今回の倒産増加は業界の衰退ではなく、本物の専門家が選ばれる時代の幕開けなのかもしれません。
参考
日本経済新聞 2026年6月18日夕刊
「コンサル倒産・休廃業が過去最多 1~5月11%増、242件」