税法の世界では、契約書や登記簿、名義などの形式だけで課税関係が決まるわけではありません。
実際に利益を受けている者が誰なのかを重視する考え方があります。
この考え方を法律上明文化したものが、所得税法第12条と法人税法第11条です。
これらは「実質所得者課税の原則」と呼ばれ、税法全体を支える重要な基本原則の一つとなっています。
今回は、所得税法第12条と法人税法第11条が何を定めているのか、そして実務上どのような意味を持つのかを解説します。
実質所得者課税の原則とは何か
所得税や法人税は、所得を得た者に対して課税されます。
しかし、現実の経済活動では、
- 名義人
- 契約当事者
- 登記上の所有者
と、
- 実際に利益を受ける者
が一致しない場合があります。
そのような場合に、
「形式上の名義人ではなく、実際に利益を受けている者に課税する」
という考え方が実質所得者課税の原則です。
税法は形式だけを見るのではなく、経済的実態を重視しているのです。
所得税法第12条の内容
所得税法第12条は、
「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益はその収益を享受する者に帰属するものとして所得税法を適用する」
という趣旨を定めています。
簡単に言えば、
「名前だけの人ではなく、実際に儲けた人に所得税を課税する」
ということです。
法人税法第11条の内容
法人税法第11条も基本的には同じ考え方です。
法人の資産や事業から生じる収益について、
形式上の帰属者が単なる名義人であり、実際には別の者が利益を受けている場合には、その利益を受けている者に対して法人税法を適用すると定めています。
つまり、
- 所得税法第12条は個人向け
- 法人税法第11条は法人向け
という違いはありますが、基本的な考え方は共通しています。
なぜこの規定が必要なのか
もし名義だけで課税関係が決まるのであれば、さまざまな問題が生じます。
例えば、
- 家族名義の口座に収益を入れる
- 他人名義で不動産を保有する
- 名義会社を利用して利益を移転する
といったことが容易になります。
その結果、本来課税されるべき人に課税できなくなってしまいます。
そこで税法は、
「実際に利益を得ているのは誰か」
という観点から課税関係を判断することにしています。
名義預金の事例
実質所得者課税の原則が問題になる典型例が名義預金です。
例えば、
- 預金名義は子ども
- 預金の管理は親
- 通帳や印鑑も親が保有
- 資金の出し入れも親が行う
という場合があります。
この場合、形式上は子どもの預金ですが、実質的には親の財産と判断されることがあります。
相続税の税務調査でも頻繁に問題となる論点です。
名義株の事例
中小企業では創業時に親族や従業員の名前を借りて株式を保有させるケースがあります。
しかし、
- 配当を受け取るのは実質的なオーナー
- 株式取得資金もオーナーが負担
- 株主としての意思決定もオーナーが行う
のであれば、税務上は名義株と判断される可能性があります。
この場合も形式より実態が重視されます。
所得の分散は認められるのか
納税者の中には、
「家族名義にすれば税金が安くなるのではないか」
と考える人もいます。
しかし税法は、形式的な名義変更だけによる所得分散を認めていません。
例えば、
- 事業は父親が行う
- 売上だけ家族名義にする
というような場合には、実質所得者課税の原則により父親に課税される可能性があります。
重要なのは名義ではなく実態です。
租税回避だけが対象ではない
実質所得者課税の原則は、
「租税回避をした場合だけ適用される規定」
ではありません。
税金を減らそうという意図がなくても、
- 実際の利益帰属者が別にいる
- 名義と実態が一致していない
場合には適用されます。
問題となるのは納税者の意図ではなく、経済的な実態なのです。
消費税法第13条との関係
前回取り上げた消費税法第13条も同じ考え方に基づいています。
所得税法第12条と法人税法第11条が、
「収益を享受する者」
に着目するのに対し、
消費税法第13条は、
「資産の譲渡等の対価を享受する者」
に着目しています。
対象となる税目は異なりますが、
「形式ではなく実質を見る」
という考え方は共通しています。
税務調査で確認されるポイント
税務調査では次のような点が確認されます。
- 誰が資金を出したか
- 誰が意思決定したか
- 誰が利益を受けたか
- 誰がリスクを負担したか
- 誰が資産を管理していたか
契約書や名義だけではなく、実際の管理状況や資金の流れが重視されます。
結論
所得税法第12条と法人税法第11条は、実質所得者課税の原則を定めた規定です。
税法は形式的な名義にとらわれず、実際に利益を受けている者に課税するという考え方を採用しています。
そのため、契約書や登記、預金名義などが整っていても、実態が伴わなければ税務上は別の判断がなされる可能性があります。
実質所得者課税の原則は、租税法律主義と並ぶ税法の重要な基本原則の一つであり、税務調査や税務争訟を理解するうえで欠かせない考え方といえるでしょう。
参考
・所得税法第12条「実質所得者課税の原則」
・法人税法第11条「実質所得者課税の原則」
・国税庁「所得税法基本通達」
・国税庁「法人税法基本通達」
・金子宏『租税法』
・税のしるべ 各種税務解説記事