税金について調べていると、
「国税庁通達によれば」
「通達ではこう取り扱われている」
という説明を目にすることがあります。
税理士や経理担当者にとって通達は日常的な存在ですが、一般の人にとっては馴染みの薄い言葉かもしれません。
そして多くの人が疑問に思うのが、
「通達は法律なのか」
という点です。
もし法律であれば従わなければなりませんし、法律でないのであればなぜ税務署は通達に基づいて課税しているのでしょうか。
今回は税務通達の役割と限界について考えてみます。
通達とは何か
通達とは、行政機関が職員に対して出す業務上の指示や解釈指針です。
税務の世界では、国税庁が税務署や国税局の職員に向けて発出しています。
例えば、
・必要経費の判定基準
・福利厚生費の取扱い
・消費税の課税関係
・相続財産の評価方法
などについて、具体的な運用ルールが示されています。
税法は条文だけでは判断できないケースも多いため、全国で統一的な税務行政を行うために通達が活用されています。
通達は法律ではない
まず結論から言えば、通達は法律ではありません。
税金のルールを定めるのは、
法律
政令
省令
です。
これらは法令と呼ばれます。
一方、通達は行政内部のルールに過ぎません。
国税庁長官が全国の税務職員に対して、
「このように解釈しなさい」
「このように処理しなさい」
と指示している文書です。
つまり、通達は税務署職員を拘束するものであり、本来は国民を直接拘束するものではありません。
なぜ通達が必要なのか
それでは、なぜ通達が存在するのでしょうか。
理由は税法が複雑だからです。
例えば所得税法や法人税法は非常に膨大です。
しかも現実の経済活動は法律が想定していなかった取引を次々に生み出します。
法律の条文だけでは判断できないケースも少なくありません。
仮に全国の税務署が独自の解釈を始めれば、
東京では経費になる
大阪では経費にならない
という事態が発生する可能性があります。
これでは課税の公平性が失われます。
そこで国税庁が統一的な解釈基準として通達を発出しているのです。
税理士はなぜ通達を重視するのか
税理士実務では通達は非常に重要です。
なぜなら、税務調査を行う税務職員が通達に従って行動するからです。
法律だけを読んで独自の解釈を行っても、通達と異なる処理をすれば税務調査で指摘される可能性があります。
そのため実務上は、
法律
↓
通達
↓
実務運用
という流れで判断されることが少なくありません。
税理士が通達を熟読する理由もここにあります。
通達と法律が矛盾したらどうなるのか
ここが最も重要な論点です。
仮に通達が法律と矛盾していた場合、どちらが優先されるのでしょうか。
答えは法律です。
日本は租税法律主義を採用しています。
税金は法律によって課されなければなりません。
行政機関が通達によって新しい税金を作ることはできません。
そのため、通達が法律の範囲を超えていると判断された場合には、裁判所が通達を採用しないことがあります。
税務訴訟では、
「通達に書いてあるか」
ではなく、
「法律に基づいているか」
が最終的な判断基準になります。
裁判所は通達をどう見ているのか
裁判所は通達を参考資料として扱います。
しかし、絶対視しているわけではありません。
実際に過去の税務訴訟では、
通達の解釈が否定された事例
通達の適用が認められなかった事例
通達より法律の文言を優先した事例
が存在します。
裁判所は国税庁の部下ではありません。
独立した司法機関として法律を解釈します。
そのため、通達が存在しても必ずしもその内容が正しいとは限らないのです。
信託型ストックオプション問題との関係
近年の信託型ストックオプション課税問題は、通達や行政解釈の影響力を考える上で興味深い事例です。
国税庁はQ&Aを公表し、権利行使時に給与所得課税が生じるとの考え方を示しました。
これに対して企業側からは、
「法律が変わったわけではない」
「行政解釈が変更された」
という指摘がありました。
現在も法的な評価が争われていますが、この問題は通達や行政解釈が実務に大きな影響を与えることを示しています。
一方で、その解釈が最終的に正しいかどうかは裁判所が判断することになります。
通達をどう理解すべきか
通達は法律ではありません。
しかし、単なる参考資料でもありません。
税務行政の現場では極めて大きな影響力を持っています。
そのため、
「通達だから無視してよい」
という考え方も、
「通達だから絶対に正しい」
という考え方も適切ではありません。
重要なのは、
法律は何を定めているのか
通達はどう解釈しているのか
裁判所はどう判断しているのか
を総合的に考えることです。
結論
通達は法律ではありません。
国税庁が税務職員に向けて発出する内部的な解釈指針です。
しかし、税務行政の現場では大きな影響力を持ち、多くの税務実務は通達を前提として運営されています。
一方で、日本は租税法律主義を採用しており、最終的に優先されるのは法律です。
通達が法律を超えることはできません。
税務を理解するためには、
法律
通達
税務行政
裁判所
という四つの関係を正しく理解することが重要です。
通達は法律ではありません。しかし、税務の世界を動かしている重要な存在であることも間違いないのです。
参考
・国税庁「法令解釈通達」
・国税庁「税務運営方針」
・日本国憲法第84条
・金子宏『租税法』(弘文堂)
・中里実ほか『租税法概説』(有斐閣)
・最高裁判所 税務訴訟関係判例集
・国税不服審判所「裁決事例集」