これまでの回では、贈与税の制度や税負担の違いを見てきました。
しかし、ここで一度立ち止まる必要があります。そもそも「贈与」とは何かという点です。
実務で問題が起きる多くのケースは、贈与の定義を曖昧に理解していることに起因しています。特に、民法上の贈与と税法上の贈与は必ずしも一致しません。
第4回では、このズレを整理し、みなし贈与の理解につなげていきます。
民法上の贈与の定義
民法において贈与とは、一方が無償で財産を与える意思表示をし、相手方がこれを受諾することによって成立する契約です。
この定義から分かる重要なポイントは次の2つです。
- 当事者双方の合意が必要であること
- 無償であること
つまり、民法上の贈与はあくまで契約です。贈与者の意思だけで成立するものではなく、受贈者の受諾が必要になります。
贈与の成立時期
贈与の成立時期も重要な論点です。
書面による贈与であれば契約時点で効力が生じますが、書面によらない場合は履行時に効力が発生します。
この違いは、税務上の課税時期にも影響します。
例えば、口頭で約束しただけでは贈与は成立せず、実際に財産が移転した時点で初めて課税関係が生じることになります。
税法上の贈与の考え方
一方で、税法における贈与は民法とは異なる視点で捉えられています。
税法では、「財産を取得した事実」に着目します。
つまり、形式的に贈与契約があるかどうかではなく、実質的に経済的利益が移転しているかどうかが重要になります。
この考え方により、民法上は贈与でなくても、税法上は贈与として課税される場合があります。
納税義務者は誰か
贈与税の納税義務者は、財産を取得した者です。
これは直感に反する部分でもありますが、贈与した側ではなく、受け取った側に課税されます。
また、個人だけでなく、一定の団体や人格のない社団なども納税義務者となる場合があります。
この点は、実務で見落とされやすいポイントです。
民法と税法のズレが生む問題
民法と税法の考え方の違いは、実務において様々な問題を引き起こします。
例えば、当事者間では「贈与ではない」と認識している取引であっても、税務上は贈与と判断されるケースがあります。
典型的な例としては以下のようなものです。
- 親族間での低額な売買
- 無利息または低利息の貸付
- 債務の免除
これらは形式上は売買や貸付であっても、経済的利益が移転していると評価されれば課税対象となります。
贈与の事実認定が最も重要
実務上、最も重要なのは「贈与があったかどうか」の認定です。
贈与は形式ではなく実態で判断されるため、証拠や事実関係が非常に重要になります。
例えば、次のような点が確認されます。
- 資金の流れ
- 契約書の有無
- 返済の実態
- 当事者間の関係
これらを総合的に見て、実質的に贈与があったかどうかが判断されます。
みなし贈与につながる考え方
ここまで整理した内容は、次回以降に扱うみなし贈与の理解に直結します。
税法は、形式的な契約にとらわれず、経済的な実態に基づいて課税を行います。
その結果、当事者の意思とは無関係に、贈与があったものとみなされる場合があります。
これが「みなし贈与」です。
結論
贈与は単純な行為のように見えて、民法と税法で異なる意味を持つ概念です。
民法では契約としての合意が重視される一方、税法では経済的利益の移転という実態が重視されます。
この違いを理解していないと、意図しない課税やトラブルにつながる可能性があります。
次回は、みなし贈与の具体的な内容について、低額譲渡・債務免除などの類型ごとに整理していきます。
参考
東京税理士協同組合 教育情報事業 全国統一研修会資料
みなし贈与と事業承継税制(令和8年)
国税庁 公表資料
財務省 公表資料