株式投資というと、多くの人は東京証券取引所に上場している企業の株式を思い浮かべるでしょう。しかし、日本に存在する会社のほとんどは証券取引所に上場していません。中小企業や同族会社、オーナー企業の多くは「非上場会社」であり、その株式は市場で自由に売買されることはありません。
一方で、相続や事業承継、会社の後継者への引き継ぎ、役員の退任、自己株式の取得など、非上場株式を譲渡する場面は決して珍しくありません。そして、そのたびに大きな問題となるのが「この株式はいくらなのか」という評価です。
今回は、シリーズの第一回として、非上場株式とはどのようなものなのか、上場株との違いを分かりやすく解説します。
上場株式と非上場株式の違い
上場株式とは、証券取引所に上場され、市場で自由に売買できる株式です。
毎日株価が公表されているため、「時価」は誰でも確認できます。ある会社の株価が1株3,000円であれば、その時点の市場価格として広く認識されています。
一方、非上場株式には市場価格がありません。
証券取引所で売買されないため、「今日は1株いくら」という価格が存在しないのです。
この違いは非常に大きく、非上場株式では売買や贈与、相続のたびに「適正な時価」を計算しなければならなくなります。講義資料でも、非上場株式の税務では「時価評価の認識が重要」であり、譲渡・贈与・相続・自己株式の取得などさまざまな場面で株価評価が必要になると説明されています。
なぜ非上場株式の評価が重要なのか
「親から子へ株式を譲っただけだから問題ない」と考える人もいます。
しかし、税務上はそう単純ではありません。
例えば、本来1億円の価値がある株式を1,000万円で譲渡した場合、その差額が実質的な贈与と判断される可能性があります。
逆に、本来より極端に高い価格で売買した場合も、不自然な利益の移転として税務上の問題が生じることがあります。
つまり、株価を正しく評価することは、不要な税負担や税務調査上のリスクを避けるための第一歩なのです。
非上場株式は会社そのものの価値を表す
非上場株式は、単なる紙切れではありません。
その会社が持つ資産や利益を反映した「会社の価値」を表しています。
例えば、同じ売上高の会社でも、
- 多額の現金を保有している会社
- 土地や建物を多く所有している会社
- 毎年安定した利益を上げている会社
- 赤字が続いている会社
では、株式の価値は大きく異なります。
つまり、非上場株式の評価は、会社の財務内容や収益力を総合的に反映した結果なのです。
なぜ税法によって評価方法が違うのか
非上場株式の評価を難しくしている最大の理由は、「一つの評価方法で全てが決まるわけではない」という点です。
税務では、
- 相続税
- 所得税
- 法人税
それぞれで評価の考え方が異なります。
実務では相続税法上の評価方法をベースにすることが多いものの、所得税や法人税では一定の修正を加えて評価することが認められています。土地や上場株式の評価方法、純資産価額の計算方法なども税目によって異なるため、同じ株式であっても税法によって評価額が変わることがあります。
この点が、非上場株式税務の大きな特徴です。
事業承継では避けて通れないテーマ
近年、多くの中小企業で後継者への事業承継が進められています。
その際、会社を引き継ぐには株式も後継者へ移転する必要があります。
株価が高くなれば相続税や贈与税の負担は重くなりますし、安易に低い価格で譲渡すれば別の税務問題が発生する可能性があります。
だからこそ、多くの税理士や中小企業支援の専門家が、非上場株式の評価を重要なテーマとして扱っています。
会社の経営者にとっても、自社株の評価方法を理解しておくことは、将来の事業承継を考えるうえで欠かせない知識といえるでしょう。
今後のシリーズで学ぶこと
今回紹介したのは、非上場株式の全体像にすぎません。
次回以降は、
- なぜ同じ株式なのに人によって評価額が変わるのか
- 同族株主と少数株主の違い
- 原則評価方式と配当還元方式
- 高額譲渡・低額譲渡の税務
- 自己株式取得とみなし配当
など、実務で問題となるテーマを順番に解説していきます。
一つひとつ理解していくことで、非上場株式の税務全体を体系的に理解できるようになるでしょう。
結論
非上場株式には、市場で決まる株価がありません。そのため、譲渡や相続、贈与、事業承継などの場面では、税法に基づいて適正な時価を評価する必要があります。
この評価は、会社の財務内容や株主の立場、適用される税法によって変わるため、上場株式よりもはるかに複雑です。
しかし、その基本的な考え方を理解すれば、事業承継や資産承継に関するニュースや税制改正もより深く理解できるようになります。
本シリーズでは、非上場株式の評価から譲渡、自己株式の取得までを順を追って解説していきます。まずは「非上場株式とは何か」を理解することが、その第一歩になります。
参考
東京地方税理士会「非上場株式を譲渡・移転する場合の税務 自己株式を買取る場合の課税上の注意点」講義資料 江本尚浩税理士・東京国際大学非常勤講師