中小企業に法務担当者が必要な時代は来るのか 経営体制編

経営

企業経営では売上や利益ばかりに目が向きがちですが、近年は「法務」が経営を左右する重要な要素になっています。就業規則や個人情報保護、ハラスメント対策、契約書の管理など、法的な対応が不十分だったために企業が大きな損失を被る事例は少なくありません。

日本経済新聞では、就業規則が従業員に適切に周知されていなかったことから、退職金不支給の規定が認められず、会社側が敗訴した事例が紹介されました。この判決は、中小企業にも法務機能の重要性が高まっていることを示しています。

では、中小企業にも法務担当者を置く時代は本当に来るのでしょうか。

法務は大企業だけの仕事ではなくなった

以前は法務部門といえば、大企業だけが持つ組織というイメージがありました。

契約書の審査や訴訟対応、知的財産の管理など、専門性の高い業務を担当する部署として位置付けられてきました。

しかし現在では、中小企業でも法務が関わる場面は急速に増えています。

例えば、

・就業規則の整備

・雇用契約書の作成

・取引基本契約の締結

・秘密保持契約

・個人情報保護

・生成AIの利用ルール

・SNS利用規程

・ハラスメント対応

・下請法やフリーランス法への対応

など、日常業務のあらゆる場面に法的な判断が求められるようになりました。

法務は一部の大企業だけの仕事ではなく、すべての企業経営に必要な機能へと変わりつつあります。

経営者一人では対応しきれない時代になった

中小企業では、契約書も就業規則も社長が自ら判断しているケースがあります。

しかし法改正のスピードは年々速くなっています。

労働法だけでなく、個人情報保護法、電子帳簿保存法、公益通報制度など、企業が理解しておくべき制度は増え続けています。

さらに生成AIの普及によって、情報漏えいや著作権、営業秘密の管理など、新しいリスクも生まれています。

経営者一人がすべてを把握することは現実的ではありません。

だからこそ、法務の視点を持った人材や専門家との連携が重要になります。

専任担当者がいなくても法務機能は作れる

とはいえ、多くの中小企業が専任の法務担当者を採用することは容易ではありません。

そこで重要になるのが、「法務部を作る」のではなく、「法務機能を持つ」という考え方です。

例えば、

・契約書は必ず専門家が確認する

・就業規則は定期的に見直す

・重要な法改正は顧問専門家から情報提供を受ける

・社内でコンプライアンス研修を行う

・相談しやすい専門家との関係を築く

こうした仕組みが整っていれば、専任担当者がいなくても法務機能を十分に果たすことができます。

重要なのは、人ではなく仕組みです。

専門家との連携が企業価値を高める

中小企業にとって法務は、自社だけで完結させるものではありません。

弁護士、社会保険労務士、税理士、司法書士、行政書士など、それぞれの専門家が異なる役割を担っています。

例えば、

税理士は経営数字や税務リスクを把握しています。

社会保険労務士は労務管理や就業規則を支援します。

司法書士は会社法や登記を担当します。

弁護士は契約や紛争対応を担います。

それぞれの専門家が連携することで、企業は一人の担当者を雇う以上の知見を得ることができます。

今後は「社内に専門家を抱える」のではなく、「社外専門家チームを持つ」という考え方が広がっていくでしょう。

税理士にも法務感覚が求められる時代

税理士は法律家ではありません。

しかし、毎月顧問先を訪問し、経営者と継続的に対話する立場だからこそ、法務リスクに気付ける場面があります。

例えば、

「就業規則は何年前に改定しましたか」

「契約書は定型のまま使っていませんか」

「役員変更の登記は済んでいますか」

「個人情報の管理体制は整っていますか」

こうした何気ない確認が、大きなトラブルを防ぐきっかけになることがあります。

税理士自身が法務業務を行うのではなく、必要な専門家につなぐ役割を果たすことも重要な経営支援です。

法務はコストではなく未来への投資

中小企業では「問題が起きたら専門家に相談すればよい」という考え方が根強くあります。

しかし、紛争が起きてからでは時間も費用も大きくかかります。

一方で、契約書や就業規則の見直し、社内ルールの整備などは、問題を未然に防ぐ予防策です。

これは保険と同じように、何も起きないことに価値があります。

法務への投資は利益を直接生むものではありませんが、会社の信用や継続性を守る重要な経営投資なのです。

結論

中小企業に大企業のような法務部門を設置する必要は必ずしもありません。

しかし、法務機能を経営の中に組み込む必要性は、これまで以上に高まっています。

法令順守だけでなく、労務管理、契約管理、情報管理など、企業経営のあらゆる場面で法務の視点が求められる時代になりました。

経営者一人で抱え込むのではなく、税理士、社会保険労務士、司法書士、弁護士などの専門家と連携しながら「社外法務チーム」を構築することが、中小企業の持続的な成長につながるのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年6月25日 朝刊

中小企業リーガル処方箋〉しまい込んだ就業規則の効力は? 退職金不支給、周知めぐり争い

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