転職市場の二極化とは何か 人手不足でも誰でも給料が上がるわけではない理由編

人生100年時代
ブルー ベージュ ミニマル note ブログアイキャッチ - 1

日本では人手不足が続いています。

少子高齢化で働く人が減り、多くの企業が採用に苦労しています。

こう聞くと、転職市場では求職者なら誰でも有利になり、給料も上がりやすくなるように思えます。

しかし実際には、転職市場の中で差が広がりつつあります。

専門性が高く、すぐに成果を出せる人材には企業が高い年収を提示する一方、未経験者や汎用的な仕事では採用を厳しくする企業もあります。

これが転職市場の二極化です。

人手不足だからといって、すべての人材の価値が同じように上がるわけではありません。

企業が本当に不足しているのは、単なる人数ではなく、特定の能力や経験を持つ人材だからです。

売り手市場とは何か

転職市場では、企業と求職者のどちらが有利かを表す言葉として売り手市場と買い手市場があります。

売り手市場とは、働き手を求める企業が多く、求職者が少ない状態です。

人材を売る側である求職者が有利になります。

企業は応募者を確保するために、給与を上げたり、勤務条件を改善したりする必要があります。

反対に買い手市場では、求人より求職者の方が多くなります。

企業は多数の応募者の中から選ぶことができるため、採用条件を厳しくしやすくなります。

日本全体では人手不足が続いているため、大きく見れば売り手市場の側面があります。

しかし職種や年収帯ごとに見ると状況は異なります。

転職市場全体を一つの売り手市場として考えると、実態を見誤ることがあります。

人手不足でも企業が欲しい人材は限られる

企業が人手不足だからといって、誰でも採用したいわけではありません。

企業には必要な仕事があります。

例えばAIを使って業務を改革したい会社なら、AIを使った実務経験を持つ人を求めます。

海外進出を進めたい会社なら、海外事業の経験者が必要です。

M&Aを増やしたい会社なら、買収や企業統合の経験者を求めるでしょう。

単純に社員数が足りないというより、会社の課題を解決できる人材が足りないのです。

そのため企業の求人が増えていても、自分の経験がその求人と一致しなければ転職しやすくなるとは限りません。

人手不足と、自分の市場価値が上がることは別の問題です。

専門人材では強い売り手市場が続く

転職市場で特に需要が強いのが専門人材です。

2026年4月から6月に転職し、賃金が1割以上増えた人の割合を見ると、IT系エンジニアは57.5%、事務系専門職は52.0%となっています。

専門知識や経験を持つ人材は短期間では増やせません。

企業が必要としても、社内で数カ月研修しただけで育成できるわけではありません。

そのため企業は他社で経験を積んだ人を採用しようとします。

同じ人材を複数の企業が欲しがれば競争になります。

企業は給与や役職、働き方などの条件を引き上げなければ採用できません。

こうした人材では、求職者側が企業を選びやすい強い売り手市場になります。

未経験者では状況が異なる

一方、未経験者の採用では状況が違います。

未経験者を採用すると、企業は仕事を教える必要があります。

研修だけでなく、先輩社員が指導する時間も必要です。

独り立ちするまで生産性が低い期間もあります。

人手不足が深刻であれば、それでも未経験者を積極的に採用する企業はあります。

しかしAIやデジタル技術によって一部の仕事を効率化できるようになると、企業は別の選択肢を持つようになります。

10人採用する代わりに、システム導入によって既存社員の生産性を高める。

単純作業をAIに任せる。

定型業務を外部へ委託する。

こうした対応が可能になります。

その結果、人手不足でも未経験者を大量に採用する必要がなくなる場合があります。

年収400万円から600万円では需給が変化している

今回の記事では、年収600万円以上のハイクラス層で即戦力人材への需要が強まっている一方、年収400万円から600万円未満の層では求人件数と転職希望者数の需給が均衡しつつあると指摘されています。

この年収帯には未経験者や第二新卒なども多く含まれます。

以前は人手不足を背景に、企業が採用人数を増やし続けることで求職者優位になりやすい状況がありました。

しかし企業が生産性向上を重視するようになると、単純な人数拡大を見直します。

採用する場合でも、本当に必要な人だけを選ぶ厳選採用へ変わります。

その結果、年収帯によって転職市場の強さに差が生まれます。

厳選採用とは何か

厳選採用とは、企業が採用人数をむやみに増やさず、必要な条件を満たす人だけを採用する考え方です。

人手不足なら応募者の条件を下げると思われがちですが、企業が採用後の生産性を重視すると逆の動きが起こることがあります。

例えば5人の未経験者を採用する代わりに、経験豊富な2人を高い給与で採用する企業があるかもしれません。

あるいは3人分の業務をAIやシステムで削減し、必要な専門人材だけを採用する方法もあります。

すると会社全体では人手不足でも、採用基準はむしろ高くなります。

企業が求めているのは人数を増やすことではなく、少ない人数でより高い成果を上げることだからです。

AIが転職市場の二極化を進める可能性

AIの普及は、この二極化をさらに進める可能性があります。

生成AIは文章作成、データ整理、簡単なプログラミングなど多くの仕事を支援できます。

これまで人が時間をかけて行っていた定型的な作業が効率化されれば、その作業だけを担当する人の需要は減る可能性があります。

一方でAIを導入し、実際の業務を変えられる人材への需要は増えます。

AIによって仕事そのものがなくなるというより、仕事の中で価値の高い部分と低い部分が分かれていくと考えることができます。

単純作業を多く担当する人と、AIを使って業務全体を設計する人では、市場価値に差が生まれます。

転職市場の二極化は、こうした仕事の再評価とも関係しています。

同じ職種の中でも二極化する

二極化は職種同士の違いだけではありません。

同じ職種の中でも起こります。

例えば経理担当者でも、日常的な伝票処理だけを経験してきた人と、連結決算や海外会計、M&A、システム導入まで経験してきた人では市場での評価が違います。

営業職でも同じです。

決められた商品を既存顧客に販売してきた人と、新市場を開拓し、大口顧客を獲得してきた人では評価が異なります。

ITエンジニアでも、簡単なコードを書く仕事と、システム全体を設計したりAIを事業に実装したりする仕事では希少性が違います。

職種名が同じだから市場価値も同じというわけではありません。

どのような仕事を経験してきたかが重要になります。

給料の差も広がりやすくなる

人材市場が二極化すると、給与にも差が出ます。

専門人材を獲得するためには、企業は他社より高い給与を提示しなければなりません。

その結果、希少性の高い人材では年収が大きく上昇します。

一方、多くの人ができる仕事では企業側に選択肢があります。

応募者が十分にいれば、給与を大きく引き上げる必要はありません。

つまり同じ人手不足の時代でも、給与が一律に上昇するのではなく、市場で不足している能力を持つ人ほど大きく上昇する可能性があります。

転職市場で賃金が1割以上増えた人の割合が高まっていることと、すべての人の給料が同じように増えることは別なのです。

人数不足から能力不足へ変わっている

日本の人手不足を考えるときには、人数だけを見るのでは不十分になりつつあります。

企業が直面しているのは、能力の不足でもあります。

社員はいるがAIを導入できる人がいない。

営業担当者はいるが海外市場を開拓できる人がいない。

管理職はいるが事業変革を進められる人がいない。

こうした状況では、単に採用人数を増やしても問題は解決しません。

必要な能力を持つ人を採用する必要があります。

この変化によって、企業の採用は人数重視から能力重視へ移っていきます。

求職者側も専門性を問われる

転職市場が二極化すると、求職者側にも変化が求められます。

これまでは同じ会社で長く働いていること自体が評価される場面がありました。

しかし外部市場では勤続年数だけでは十分ではありません。

何を経験してきたのか。

何ができるのか。

どのような問題を解決できるのか。

その能力を別の会社でも利用できるのか。

こうした点が重要になります。

人手不足だからいつでも転職できると考えるより、自分の経験が市場で不足している能力と一致しているかを考える必要があります。

二極化は固定されたものではない

現在市場価値が高い仕事が、将来も同じように高いとは限りません。

技術や産業構造が変われば、必要とされる能力も変わります。

現在は希少なAI関連の経験も、将来多くの人が身に付ければ希少性が下がる可能性があります。

逆に現在それほど注目されていない能力が、規制変更や新しい産業の成長によって急に必要になることもあります。

転職市場の二極化は、勝ち組と負け組が永久に固定されるという意味ではありません。

企業が必要とする能力が変化し、その変化に対応できるかによって市場価値も動いていきます。

結論

転職市場の二極化とは、人手不足でありながら、すべての求職者が同じように有利になるのではなく、専門性や経験によって採用条件や給与に大きな差が生まれることです。

ITやAI、経営企画、法務など高度な専門性を持つ即戦力人材では、企業同士の獲得競争が起きています。

そのため高い年収を提示され、転職によって給料が大きく増える人もいます。

一方、未経験者や汎用的な仕事では、企業がAIやデジタル化によって必要人員を見直し、厳選採用を進める可能性があります。

つまり人手不足だから誰でも売り手市場になるわけではありません。

企業が不足しているのは単なる人数ではなく、会社の課題を解決できる能力です。

これからの転職市場では、自分がどの職種にいるかだけではなく、その職種の中でどのような専門性や経験を持っているのかが重要になります。

人材不足の時代であると同時に、人材を選ぶ時代でもある。

この二つが同時に進んでいることが、現在の転職市場の特徴なのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月28日朝刊 転職者の半数、給料1割以上増

日本経済新聞 2026年8月28日朝刊 転職市場、年収引き上げ続く

タイトルとURLをコピーしました