贈与税の税優遇はなぜ富裕層優遇と批判されるのか 資産を持つ家庭ほど非課税制度を使える仕組み編

税理士
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贈与税には、結婚や子育て、住宅取得など特定の目的で親や祖父母から子や孫へ資金を渡した場合、一定額を非課税にする制度があります。

若い世代の住宅取得や子育てを支援し、高齢世代に偏っている資産を早い段階で次世代へ移すことには政策的な意味があります。

一方、こうした制度には富裕層優遇ではないかという批判もあります。

最大の理由は単純です。

贈与税の優遇を利用するためには、そもそも贈与できる財産を持っている必要があるからです。

本人の所得が同じでも、親や祖父母がどれだけ資産を持っているかによって利用できる税制優遇に大きな差が生まれます。

贈与できる家庭とできない家庭がある

例えば同じ30歳、同じ年収500万円の人が二人いるとします。

一人の親には十分な金融資産があり、住宅購入時に1000万円を援助できます。

もう一人の親には、子どもへ贈与できる余裕がありません。

本人たちの所得や働き方が同じでも、住宅購入時の条件は大きく異なります。

親から1000万円を受け取れる人は、その資金を頭金にできます。

親から援助を受けられない人は、自分の貯蓄を増やすか、その分だけ住宅ローンを多く借りなければなりません。

さらに前者が住宅取得資金の贈与税非課税制度を利用できれば、一定の要件のもとで税負担も軽減できます。

親の資産格差が子世代の経済条件に影響する仕組みです。

贈与税はなぜ存在するのか

贈与税を考えるには、相続税との関係を見る必要があります。

仮に相続税だけが存在し、生前贈与には税金がかからないとします。

多額の財産を持つ人は、生きている間に子や孫へ財産を渡すことで、死亡時に残る相続財産を減らすことができます。

そうなれば相続税を簡単に回避できてしまいます。

そこで生前の財産移転にも贈与税を課し、相続税を補完しています。

相続と贈与を通じて、資産移転に一定の税負担を求める仕組みになっているわけです。

非課税制度は贈与税の例外になる

一方、政策的に促したい資金移転については贈与税の特例があります。

例えば住宅取得等資金の贈与では、一定の条件を満たすと通常の贈与税とは別の非課税枠を利用できます。

結婚や子育てのための資金についても、一括贈与に対する非課税措置が設けられてきました。

こうした制度には、

若い世代の住宅取得を支援する

結婚や子育ての負担を軽減する

高齢世代から若い世代への資産移転を促す

消費を活性化する

といった政策目的があります。

問題は、その政策効果を誰が受けられるのかです。

資産を持つ家庭ほど非課税枠を使いやすい

例えば最大1000万円の非課税制度があったとします。

親に3000万円や5000万円の金融資産があれば、子どもへ1000万円を贈与する選択肢があります。

しかし親自身の老後資金に余裕がなく、預貯金が数百万円しかなければ、1000万円の非課税枠があっても利用できません。

税制上はすべての対象者に同じ制度が用意されていても、実際に利用できるかどうかは家庭の資産状況によって異なります。

非課税枠が大きいほど、まとまった資産を保有する家庭にメリットが集中しやすくなります。

所得格差だけではなく資産格差が重要になる

経済格差というと年収の違いが注目されがちです。

しかし贈与や相続では資産格差が重要になります。

例えば年収600万円の二人がいたとしても、

親から住宅資金1000万円を受け取れる人

親への経済的援助が必要な人

では家計の状況が大きく違います。

前者は住宅ローンを減らせるだけではありません。

支払利息を抑え、その後の貯蓄や投資に多くのお金を回せる可能性があります。

資産格差は一度の贈与で終わらず、その後の家計にも影響します。

住宅取得では差が長期間続く

住宅取得資金の贈与を例に考えてみます。

6000万円の住宅を購入する二つの世帯があるとします。

一方は親から1000万円の援助を受け、残りを自己資金と住宅ローンで賄います。

もう一方は親からの援助がなく、その1000万円分も住宅ローンで借ります。

金利や返済期間が同じなら、後者は借入額が1000万円多くなります。

その結果、毎月の返済額だけでなく長期間に支払う利息にも差が生じます。

親からの資産移転による格差が、数十年間の住宅費負担の差につながる可能性があります。

贈与された資産がさらに資産を生む

親から受け取った資産は、使って終わるとは限りません。

住宅購入資金として利用すれば不動産という資産になります。

金融資産を受け取れば、運用によって利益を生む可能性があります。

例えば1000万円を早い時期に受け取れる人と、自分で1000万円を貯めなければならない人では、その後の資産形成のスタート地点が違います。

資産は、

住宅

株式

投資信託

事業

などを通じて新しい資産を生み出すことがあります。

このため世代間の資産移転は、将来の資産格差にも影響します。

相続税との関係で批判される理由

贈与税の非課税措置は相続税とも関係します。

多額の財産を持つ人が生前に子や孫へ資産を移せば、死亡時に保有する財産が減る可能性があります。

政策上認められた非課税制度を利用すれば、一定の資産を贈与税の負担を抑えながら次世代へ移転できます。

そのため、

住宅取得を支援する制度なのか

子育てを支援する制度なのか

富裕層の資産移転を支援する制度になっていないか

という議論が生じます。

制度の目的と実際の利用者が一致しているのかを確認する必要があります。

格差の固定化とは何か

資産格差が世代を超えて受け継がれることを、格差の固定化という観点から考えることができます。

親世代に多くの資産がある。

子世代が多額の贈与を受ける。

住宅ローンなどの負担が軽くなる。

余裕資金を貯蓄や投資へ回せる。

子世代の資産がさらに増える。

その資産が次の世代へ移る。

こうした循環が続けば、本人の所得だけでは説明できない資産格差が世代を超えて形成されます。

税制がその資産移転を優遇することが公平なのかという問題です。

高齢世代から若い世代への移転には意味もある

一方、贈与税の優遇には合理的な面もあります。

日本では高齢世代に金融資産が偏っています。

相続まで資産移転を待つと、財産を受け取る子ども自身も高齢になっていることがあります。

一方、住宅購入や子育てで多額のお金を必要とするのは、一般にもっと若い時期です。

そこで高齢世代の資産を早い段階で若い世代へ移せば、

住宅購入

結婚

出産

子育て

消費

などを後押しできます。

富裕層優遇という問題だけでなく、世代間の資産移転を促す政策効果とのバランスを見る必要があります。

利用者を限定する方法もある

制度を全面的に廃止する以外にも方法があります。

例えば、

贈与を受ける人に所得制限を設ける

子育て世帯に限定する

若年世帯に限定する

非課税限度額を引き下げる

対象となる住宅などを限定する

といった方法です。

こうすれば、資産移転を全面的に優遇する制度から、政策的な支援が必要な人へ対象を絞った制度へ変えることができます。

今回、維新が住宅取得資金贈与について、廃止だけでなく低所得層や子育て世帯への限定を提案しているのも、この問題につながります。

税制優遇と給付では対象者が違う

贈与税の優遇と政府からの給付を比較すると、違いが分かりやすくなります。

贈与税の非課税制度は、親や祖父母から財産を受け取れる人が利用します。

一方、所得制限付きの給付制度なら、親に資産がない世帯も対象にできます。

例えば同じ1000億円の財源を使う場合でも、

贈与税を軽減する

子育て世帯へ給付する

住宅取得補助を行う

社会保険料を軽減する

では恩恵を受ける人が大きく異なります。

租特を見直すことは、誰を政策的に支援するのかを見直すことでもあります。

富裕層優遇かどうかは政策効果との比較で考える

資産を持つ家庭が制度を多く利用しているからといって、それだけで制度が不適切だと決まるわけではありません。

例えば非課税措置によって若い世代への資産移転が大幅に増え、住宅投資や消費を強く押し上げているのであれば、政策として一定の意味があります。

逆に利用者が少なく、資産移転の時期を少し早めただけで、追加的な消費や住宅取得がほとんど生まれていないのであれば、税収減に見合う政策効果があるのかが問題になります。

重要なのは、

誰が利用しているのか

どれだけ税収が減っているのか

どのような追加的効果が生まれたのか

を合わせて検証することです。

結論

贈与税の税優遇が富裕層優遇と批判される大きな理由は、制度を利用するためには、そもそも親や祖父母に贈与できる資産が必要だからです。

同じ所得の若い世代でも、親から1000万円を援助してもらえる人と、援助を受けられない人では住宅取得やその後の資産形成に大きな差が生じます。

さらに非課税制度によって資産移転の税負担が軽くなれば、親世代の資産格差が子や孫の世代へ引き継がれやすくなるという問題があります。

一方、高齢世代に偏った資産を、住宅購入や子育てにお金を必要とする若い世代へ早く移すことには政策的な意味もあります。

したがって問題は、贈与を優遇すること自体が良いか悪いかだけではありません。

誰の資産移転を税制で支援し、その税収減によってどれだけ社会全体の利益が生まれているのかを検証する必要があります。

贈与税の租特見直しは、税制の問題であると同時に、日本社会で世代を超えて資産をどのように移転し、資産格差とどう向き合うのかという問題でもあるのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月23日 朝刊 維新が税優遇廃止案 賃上げ税制やサ高住 政府・自民と調整難しく

国税庁 2026年 贈与税の計算と税率

財務省 2026年 相続税・贈与税に関する資料

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