貸倒損失と寄附金はどう違うのか 債権管理編

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

企業経営を続けていると、取引先の倒産や子会社の経営悪化によって、貸付金や売掛金が回収できなくなることがあります。

そのような場合に問題となるのが「貸倒損失」です。

しかし、税務調査では会社が貸倒損失として処理したものが、寄附金と認定されるケースが少なくありません。

経営者から見れば、

「どうせ回収できないのだから損失だ」

と思える支出でも、税務署は違う見方をすることがあります。

今回は、貸倒損失と寄附金の違いについて整理してみます。

貸倒損失とは何か

貸倒損失とは、債権の回収が不可能になったことによる損失です。

例えば、

  • 売掛金
  • 貸付金
  • 未収金

などが対象になります。

本来回収できるはずだったお金が回収できなくなったため、その損失を損金として認める制度です。

企業活動には回収不能リスクが伴うため、法人税法でも一定の場合には損金算入が認められています。

寄附金とは何か

一方の寄附金は、

自らの意思で相手方へ利益を与える行為

です。

例えば、

1,000万円の貸付金について、

本来は回収可能であるにもかかわらず、

「返済しなくてよい」

とした場合です。

この場合、

相手方は1,000万円の利益を受けます。

税務上は利益供与と考えられ、

寄附金として扱われる可能性があります。

両者の違いはどこにあるのか

最大の違いは、

回収不能だったのか

それとも

回収を放棄したのか

という点です。

貸倒損失は、

回収したくてもできない状態です。

寄附金は、

回収できる可能性があるにもかかわらず、

自ら回収を諦めた状態です。

税務署はこの違いを厳しく見ています。

取引先倒産の場合

最も分かりやすいケースです。

例えば、

取引先が破産し、

配当見込みもない場合です。

この場合、

債権は事実上回収不能です。

貸倒損失として処理できる可能性があります。

税務署も、

法的手続きによって回収不能が客観的に確認できれば、

通常は貸倒損失として認めます。

子会社への貸付金で問題が起きる理由

実務で最も問題になるのは、

グループ会社間の貸付金です。

例えば、

親会社が子会社へ貸し付けた資金について、

子会社の業績悪化を理由に債権を放棄するケースです。

経営者としては、

「どうせ返済できない」

と考えます。

しかし税務署は、

本当に回収不能だったのか

を確認します。

十分な検討を行わず債権放棄した場合には、

寄附金認定されることがあります。

税務署が重視する回収努力

貸倒損失として認められるためには、

回収努力を行った事実が重要になります。

例えば、

  • 督促状の送付
  • 支払交渉
  • 分割返済協議
  • 法的手続きの検討

などです。

何の対応もせず、

突然債権放棄した場合には、

税務署から

「本当に回収不能だったのか」

と疑われることになります。

形式だけでは判断されない

よくある誤解があります。

「債権放棄契約書を作れば大丈夫」

という考え方です。

しかし税務署は契約書だけを見ているわけではありません。

重要なのは実態です。

例えば、

  • 財務内容
  • 資産状況
  • 資金繰り
  • 事業継続可能性

などを総合的に確認します。

契約書があっても、

実際には回収可能だったと判断されれば、

寄附金認定される可能性があります。

企業再生との関係

企業再生の場面では、

債権放棄が必要になることがあります。

その場合でも、

税務上は経済合理性が求められます。

例えば、

  • 再建計画がある
  • 将来的な事業継続が期待できる
  • 親会社にも利益がある
  • 他の金融機関も支援している

などです。

単なる赤字補填ではなく、

再建のための合理的な支援であることが重要です。

貸倒損失が認められる代表例

一般的には、

次のようなケースで貸倒損失が認められやすくなります。

  • 破産手続開始決定
  • 特別清算
  • 民事再生
  • 会社更生
  • 長期間の回収不能状態
  • 財産の不存在

などです。

客観的に回収不能であることが確認できる場合です。

中小企業で起こりやすい失敗

オーナー企業では、

関係会社への貸付金が多く見られます。

そして、

決算対策や整理目的で貸付金を消してしまうことがあります。

しかし、

十分な資料が残されていない場合には、

貸倒損失ではなく寄附金として否認されることがあります。

これは税務調査でも頻繁に見られる論点です。

結論

貸倒損失と寄附金は似ているように見えますが、その本質は大きく異なります。

貸倒損失は回収したくても回収できない損失です。

一方、寄附金は回収可能性が残るにもかかわらず、自ら利益を放棄した場合に問題となります。

税務調査では、

「本当に回収不能だったのか」

が最大の論点になります。

そのため、債権管理の段階から回収努力の記録を残し、回収不能と判断した根拠を整理しておくことが重要です。

貸倒損失と寄附金の違いを理解することは、単なる税務知識ではなく、企業の債権管理そのものを見直すきっかけにもなるのではないでしょうか。

参考

・東京税理士界 2026年6月1日 第833号 SERIES TAINS解体新書「寄附金を巡る最近の裁判例」

・法人税法第37条(寄附金)

・法人税基本通達9-6-1~9-6-3(貸倒損失)

・国税庁 貸倒損失に関する質疑応答事例

・企業再生実務研究会「企業再生と税務」

・最高裁判所および下級審裁判例(貸倒損失・寄附金認定事案)

タイトルとURLをコピーしました