会社を解散すると、経営者の関心は資産売却や借入金返済に向かいがちです。
しかし、税務上ではもう一つ重要な変化があります。
それは、これまで利用できていた税制優遇の一部が使えなくなることです。
普段の決算では当たり前のように利用していた制度が、解散した瞬間から適用できなくなる場合があります。
もしこの点を知らずに申告を行うと、思わぬ税務リスクにつながることもあります。
今回は、解散した会社で利用できなくなる税制優遇について考えてみます。
税制優遇は継続企業を応援する制度
まず理解しておきたいのは、税制優遇の多くは会社の成長を支援するために作られているということです。
例えば、
・設備投資を促進する
・研究開発を支援する
・雇用を増やす
・地域活性化を進める
といった政策目的があります。
つまり、将来も事業を継続することが前提になっています。
一方、解散した会社はどうでしょうか。
解散後の会社は新たな成長を目指す存在ではありません。
資産を整理し、債務を返済し、会社を閉じることが目的になります。
この違いが、税制優遇の適用可否に影響するのです。
特別償却が使えなくなる
解散後に利用できなくなる代表的な制度が特別償却です。
特別償却とは、一定の設備投資を行った場合に通常より多く減価償却費を計上できる制度です。
国は企業の設備投資を後押ししたいので、このような優遇措置を設けています。
しかし、解散した会社は今後事業を発展させる予定がありません。
そのため、解散事業年度では多くの特別償却制度が利用できなくなります。
経営者としては、
「設備を持っているのだから使えるのではないか」
と思うかもしれません。
しかし、制度の目的が継続的な事業活動の支援にあるため、解散後は認められなくなるのです。
税額控除も使えなくなる
税額控除も注意が必要です。
税額控除は、計算された法人税額そのものを減らす制度です。
例えば、
・研究開発税制
・賃上げ促進税制
・設備投資促進税制
などがあります。
これらは企業活動を活性化するための制度です。
しかし、解散した会社は将来の成長を目指す主体ではありません。
そのため、解散事業年度ではこれらの税額控除の多くが適用できなくなります。
税額控除は節税効果が大きいため、利用できない影響も小さくありません。
会社をたたむ際には、税額控除が前提になっていないか確認する必要があります。
準備金制度も利用できない
解散すると、各種準備金制度も利用できなくなります。
準備金制度とは、将来のリスクに備えて利益の一部を内部留保できる制度です。
しかし、解散後の会社には「将来」がありません。
そのため、
・海外投資等損失準備金
・中小企業事業再編投資損失準備金
などの制度は適用できなくなります。
さらに重要なのは、過去に積み立てた準備金です。
解散事業年度では、これらを取り崩して益金に算入しなければならない場合があります。
つまり、過去の節税効果が最終局面で戻ってくるケースもあるのです。
特別勘定の取り崩しにも注意
圧縮記帳に関する特別勘定も注意が必要です。
補助金や保険金などを活用した圧縮記帳では、特別勘定を設定して課税を繰り延べることがあります。
しかし、解散事業年度では特別勘定の残高を取り崩し、益金算入が必要になるケースがあります。
経営者の中には、
「昔の処理だから関係ない」
と思う方もいます。
しかし、何年も前に計上した特別勘定が最後の決算で影響することもあります。
解散前には過去の税務処理も確認しておく必要があります。
なぜ解散すると優遇がなくなるのか
経営者の立場から見ると、
「最後まで優遇してくれても良いのではないか」
と思うかもしれません。
しかし税制の考え方は違います。
税制優遇は未来への投資を促進するための制度です。
設備投資も研究開発も雇用拡大も、将来の事業活動が前提です。
解散した会社は、すでに事業継続を前提としていません。
そのため、政策目的に合わなくなるのです。
これは税務上の合理的な考え方と言えるでしょう。
経営者が解散前に確認すべきこと
会社の解散を検討する場合には、次の点を確認しておくことが重要です。
まず、過去に利用した税制優遇を洗い出すことです。
特別償却や準備金、税額控除などが残っていないか確認します。
次に、特別勘定や繰延処理の残高を確認します。
最後に、解散時点で利用できる制度と利用できなくなる制度を整理します。
これによって予想外の税負担を防ぐことができます。
会社を閉じる局面ほど、過去の申告内容が重要になるのです。
税理士に求められる役割
解散税務では、税理士の力量が大きく問われます。
通常の決算では問題にならない論点が次々に出てくるからです。
税理士は、
・どの制度が使えなくなるか
・どの準備金を取り崩す必要があるか
・どの特別勘定が残っているか
を整理しなければなりません。
会社の最後の決算は、過去の税務処理の総決算でもあります。
税理士には、過去から現在までを見渡す視点が求められるのです。
結論
解散した会社では、多くの税制優遇が利用できなくなります。
特別償却、税額控除、準備金制度などは、継続企業を前提としているためです。
また、過去に利用した準備金や特別勘定については、解散事業年度で取り崩しが必要になる場合があります。
会社をたたむ局面では、未来の投資よりも過去の整理が中心になります。
だからこそ、これまで利用してきた税制優遇を一つひとつ確認することが重要です。
会社の終わり方を誤らないためにも、解散前には税理士と十分に相談し、最後の決算を迎える準備を進めることが大切なのです。
参考
近畿税理士会 税法実務講座 法人税
税理士として知っておきたいM&Aの基礎知識⑥ 清算、M&Aをさらに活用するために