地方債を購入するとき、気になることの一つが「自治体の財政が悪化したら元本は返ってくるのか」という問題です。
地方債は国債とは違い、都道府県や市区町村が発行します。
人口が減っている自治体もあります。
税収が減少している地域もあります。
過去には深刻な財政難に陥った自治体もありました。
それでは、自治体が事実上の財政破綻状態になった場合、地方債はどうなるのでしょうか。
2027年4月からデジタル地方債が始まり、個人が地方債を購入する機会が増えるのであれば、自治体の信用力がどのように支えられているのかを知っておくことは重要です。
地方債も借金であることは変わらない
まず基本を確認しておきましょう。
地方債は地方自治体の借金です。
例えば自治体が100億円の地方債を発行した場合、投資家から100億円を借りていることになります。
自治体は発行条件に従って利息を支払い、満期になれば元本を償還します。
自治体が発行するからといって、借金でなくなるわけではありません。
地方債を増やせば、将来の元本返済や利払いの負担も増えます。
そのため自治体には、返済能力を考えながら地方債を発行することが求められます。
自治体には税収という収入がある
一般企業と自治体では収入の構造が異なります。
企業は商品やサービスを販売して利益を得ます。
一方、自治体には住民税や固定資産税などの地方税があります。
さらに国から地方交付税や国庫支出金などが入る場合もあります。
地方財政は国の財政制度とも深く結び付いています。
したがって、地方債の信用力を考える場合には、単純に一つの自治体の税収だけを見るのでは十分ではありません。
日本の地方財政制度全体の中で考える必要があります。
地方債は自由にいくらでも発行できるわけではない
自治体が自由に借金を増やせるのであれば、地方債を購入する投資家は大きな不安を感じるでしょう。
しかし、地方債の発行には制度上の枠組みがあります。
自治体の財政状況によっては、地方債の発行に国の関与が強まる仕組みがあります。
つまり、財政状態が悪化している自治体が無制限に地方債を発行して借金を増やすことを防ぐ仕組みが設けられています。
地方債の信用力は、発行する自治体だけではなく、こうした地方財政制度によっても支えられています。
自治体の財政悪化を早めに把握する仕組みがある
自治体の財政については、財政健全化のための指標があります。
財政状態が一定の基準を超えて悪化した場合には、財政健全化に向けた計画などが必要になります。
重要なのは、完全に資金がなくなってから対応するのではないという点です。
財政状態を数値で確認し、問題が深刻になる前の段階から改善を求める仕組みがあります。
地方債を購入する投資家にとっても、自治体の財政状況を確認する材料になります。
自治体にも財政再建はある
自治体だから絶対に財政問題が起きないわけではありません。
人口減少。
産業の衰退。
大型事業による負担。
税収の減少。
社会保障関係費の増加。
さまざまな要因によって財政が悪化する可能性があります。
財政状態が深刻になれば、自治体は歳出削減や収入確保などを進め、財政を立て直す必要があります。
住民サービスの見直しや公共料金などの負担増につながる場合もあります。
地方債の信用力を考えるときには、「自治体だから財政問題は起こらない」と考えるのではなく、「財政問題が起きた場合にどのような制度で立て直すのか」を見ることが重要です。
夕張市の事例が示したこと
日本で自治体の財政問題を考えるときに、よく知られているのが北海道夕張市の事例です。
夕張市は深刻な財政難に陥り、財政再建に取り組むことになりました。
自治体の財政悪化が住民サービスや行政運営に大きな影響を及ぼすことを社会に示した事例です。
一方で、自治体の財政が悪化したからといって、企業の倒産とまったく同じ形で自治体そのものが消滅するわけではありません。
住民が暮らしている以上、行政サービスを継続する必要があります。
そのため地方自治体の財政問題は、一般企業の倒産とは異なる枠組みで考える必要があります。
地方債と社債は信用リスクの性格が違う
企業が発行する社債では、企業が経営破綻すれば元本や利息の支払いに影響する可能性があります。
地方債も債券ですから、信用リスクという考え方はあります。
ただし、地方自治体には課税権があり、国を含めた地方財政制度の中で財政運営が行われています。
自治体の行政そのものも継続する必要があります。
このため、地方債の信用リスクは一般企業の社債とは性格が異なります。
地方債を理解するときには、「債券だから社債と同じ」と単純に考えないことが重要です。
国債とまったく同じでもない
反対に、地方債を国債とまったく同じものとして考えることも適切ではありません。
国債の発行体は国です。
地方債の発行体はそれぞれの地方自治体です。
自治体ごとに人口、産業構造、税収、財政規模などは異なります。
将来の人口減少率も違います。
大都市と人口減少が進む地方自治体では、財政を取り巻く環境も異なります。
地方債を購入するときには、どの自治体が発行しているのかという視点も必要になります。
人口減少は自治体の信用力にどう影響するのか
今後の地方財政を考えるうえで重要なのが人口減少です。
人口が減れば、住民税などの税収に影響する可能性があります。
一方、道路や上下水道、公共施設などのインフラは人口が減ったからといって簡単になくすことはできません。
高齢化によって行政サービスへの需要が増える場合もあります。
つまり、
収入が伸びにくくなる。
一方で維持しなければならない行政サービスやインフラがある。
という問題が生じます。
今後、地方債を見るときには現在の財政状態だけではなく、将来の人口や地域経済も重要な視点になるでしょう。
金利上昇も自治体財政に影響する
さらに金利上昇も無視できません。
地方債を発行すると、自治体は利息を支払います。
市場金利が上昇すれば、新しく発行する地方債の金利にも上昇圧力がかかります。
同じ100億円を調達しても、金利が高くなれば将来の利払い負担は増えます。
地方債残高が大きい自治体では、借り換えなどを通じて金利上昇の影響が徐々に表れる可能性もあります。
人口減少と金利上昇が重なる環境では、自治体の財政運営はこれまで以上に重要になります。
デジタル地方債では自治体を見る投資が始まる
これまで地方債市場の中心は金融機関などの機関投資家でした。
2024年度末の地方債の証券残高69兆4,000億円に対して、個人の保有額は約980億円、0.14%にすぎません。
しかし、2027年4月からデジタル地方債が始まります。
1万円単位など少額で購入しやすくなれば、これまで地方債を買ったことのない個人が参加する可能性があります。
そのとき個人にも、
この自治体の財政はどうなっているのか。
人口は増えているのか減っているのか。
どのくらい地方債を抱えているのか。
調達したお金を何に使うのか。
といった視点が必要になります。
地域を応援することと信用力の確認は両立する
デジタル地方債では、地域への貢献が購入理由の一つになるでしょう。
自分が住んでいる自治体だから応援したい。
故郷だから投資したい。
防災事業に共感したから購入したい。
こうした動機はデジタル地方債ならではの魅力です。
しかし、地域を応援する気持ちと金融商品としての確認は別です。
地方債は寄付ではありません。
元本と利息の支払いを前提とした投資です。
だからこそ、自治体の財政状態や地方債の条件について理解したうえで購入することが重要になります。
自治体側にも説明責任が求められる
デジタル地方債によって個人から直接資金を集めるのであれば、自治体側にもこれまで以上に分かりやすい情報提供が求められます。
地方債を何のために発行するのか。
自治体の財政状態はどうなっているのか。
どのように返済していくのか。
調達した資金によって何がつくられるのか。
こうした情報を個人投資家にも理解できる形で示すことが重要です。
デジタル化によって地方債を買いやすくするだけではなく、自治体財政を分かりやすく伝えることも必要になります。
結論
地方債は自治体の借金であり、発行した自治体には利息と元本を支払う義務があります。
自治体にも財政悪化の可能性はあり、過去には夕張市のように深刻な財政難に陥った事例もあります。
しかし、地方自治体は一般企業とは異なります。
税収があり、地方財政を支える国の制度があり、財政状態が悪化した場合には健全化や再建を進める仕組みがあります。
そのため、地方債の信用リスクは一般企業が発行する社債とは性格が異なります。
一方で「自治体だから絶対に安全」と考えることも適切ではありません。
人口減少、税収、地方債残高、金利上昇など、自治体を取り巻く環境はそれぞれ異なります。
2027年4月からデジタル地方債が始まり、個人が少額から地域に投資する時代になれば、私たち自身が自治体の財政を見る機会も増えるでしょう。
地方債を購入することは、単に利息を受け取ることではありません。
自分のお金を貸す自治体の将来を見ることでもあります。
デジタル地方債の普及は、住民が自治体の財政にこれまで以上に関心を持つきっかけになる可能性があります。
参考
日本経済新聞 2026年9月29日朝刊 「デジタル地方債の可能性 地域に投資、裾野広げる 個人の購入、増やす契機」