親が高齢になり、老人ホームへの入居が必要になったとき、本人の年金や預貯金だけでは費用をまかなえないことがあります。
その場合、子どもが不足分を負担するという選択肢が出てきます。
しかし、東京都内の有料老人ホームでは、2026年1月時点の入居時費用の中央値が1001万円、月額費用の中央値も約30万円です。
子どもが毎月数万円を援助するだけでも、それが5年、10年と続けば大きな金額になります。
さらに、親の介護が必要になる時期は、子ども自身も住宅ローンや教育費、自分の老後資金を準備している時期と重なりやすくなります。
親を支えるために子どもの老後資金まで使ってしまえば、今度は子ども世代が高齢になったときに資金不足になる可能性があります。
親の介護費用は、親だけのお金の問題ではありません。
家族全体の長期的な資金計画として考える必要があります。
まず親自身の年金と資産を確認する
老人ホームへの入居が必要になったとき、最初から子どもが費用を負担する前提で考える必要はありません。
まず確認すべきなのは、親自身がどの程度の資金を持っているかです。
毎月の年金はいくらなのか。
預貯金はいくらあるのか。
株式や投資信託などの金融資産はあるのか。
生命保険などから受け取れるお金はあるのか。
持ち家はあるのか。
こうした資産を確認します。
親に3000万円の預貯金があるにもかかわらず、子どもが自分の生活費から毎月老人ホーム代を支払う必要は通常ありません。
基本的には、親の生活費や介護費用は親自身の年金や資産を利用することから考えます。
親の資産を知らない家庭は少なくない
問題は、子どもが親の資産状況を知らないケースです。
親子であっても、お金について詳しく話したことがない家庭は珍しくありません。
日本経済新聞の記事で紹介された調査では、30代から40代の男女の8割が、親と介護費用について話し合ったことがないと回答しています。
親が元気なうちは、介護や老人ホームについて具体的に考える機会が少ないからです。
しかし、親が突然入院し、そのまま老人ホームを探さなければならなくなれば、短期間で多くのことを決める必要があります。
その段階になって初めて、親の年金額も預貯金額も分からないという状態では、どの価格帯の施設を選べるのか判断できません。
子どもの援助は毎月の不足額から始まる
例えば親が入居する老人ホームの費用が月30万円だったとします。
親の年金収入が月20万円なら、毎月10万円不足します。
親に十分な預貯金がなければ、子どもがこの10万円を援助することが考えられます。
月10万円なら年間120万円です。
5年間では600万円になります。
10年間では1200万円です。
月額費用が上昇したり、医療費などが増えたりすれば負担はさらに大きくなります。
毎月10万円という数字だけを見ると負担できそうでも、長期間続いた場合の総額を見ると家計への影響は大きくなります。
兄弟姉妹がいても均等に負担できるとは限らない
子どもが複数いる場合には、兄弟姉妹で費用を分担する方法も考えられます。
例えば毎月12万円不足し、3人の子どもが4万円ずつ負担できれば、一人当たりの負担は小さくなります。
しかし、現実には簡単ではありません。
それぞれ収入が違います。
住宅ローンの有無も違います。
子どもの教育費も違います。
親の近くに住み、日常的な介護や手続きを担当している人もいれば、遠方に住んでいる人もいます。
お金を多く出す人と、介護の手間を多く負担する人が異なることもあります。
そのため、単純に兄弟姉妹で同額を負担すれば公平とは限りません。
介護費用は家族間のトラブルにつながる可能性もあるため、負担方法を早めに話し合うことが重要です。
親の介護と住宅ローンが重なる
親の介護が本格化するのは、子どもが40代、50代、60代になった頃というケースがあります。
この時期には、自分自身の大きな支出もあります。
住宅ローンが残っている人がいます。
例えば毎月10万円の住宅ローンを支払っているところに、親の老人ホーム費用として毎月10万円の援助が加われば、固定的な支出が月20万円になります。
住宅ローンは自分の資産形成につながる面がありますが、親の老人ホーム費用は基本的には親の生活のための支出です。
両方が長期間続けば、子どもの家計に大きな影響を与えます。
教育費と介護費用が重なることもある
親の介護費用と子どもの教育費が重なる家庭もあります。
50代であれば、自分の子どもが高校や大学へ進学する時期と重なる可能性があります。
大学の授業料や仕送りなどで年間100万円以上の支出がある家庭もあります。
そこへ親の老人ホーム費用として年間100万円以上の援助が加われば、家計負担は一気に大きくなります。
教育費は一定期間で終了する可能性がありますが、親の介護費用がいつまで続くかは分かりません。
5年で終わるかもしれません。
10年以上続くかもしれません。
終了時期が予測しにくいことが介護費用の難しさです。
子どもの老後資金を取り崩す問題
特に注意したいのが、親の介護費用を支払うために子ども自身の老後資金を取り崩すことです。
50代は、自分自身の老後に向けて資産形成を仕上げていく重要な時期です。
例えば60歳までの10年間で1000万円を老後資金として積み増す予定だった人が、親の介護費用として年間100万円を負担するとします。
10年間続けば1000万円です。
本来自分の老後に使う予定だった資金が、そのまま親の介護費用へ移ることになります。
すると、親の介護が終わった後に、自分自身の老後資金が不足する可能性があります。
親世代の資金不足を子世代へ移しただけになってしまうのです。
介護離職が加わるとさらに深刻になる
介護の問題は、お金を支払うだけではありません。
親の介護のために仕事を休んだり、働く時間を減らしたりする場合があります。
さらに、仕事と介護を両立できず、退職する介護離職につながることもあります。
介護離職すると、現在の給与収入が減少またはなくなります。
それだけではありません。
将来受け取る厚生年金にも影響する可能性があります。
退職金や企業年金、会社の福利厚生などにも影響する場合があります。
つまり、介護離職は現在の収入だけでなく、子ども自身の老後資金まで減らす可能性があります。
親の介護費用を負担しながら自分の収入まで失えば、家計への影響は非常に大きくなります。
お金を出す前に介護サービスを利用する
家族だけで介護を抱え込まないことも重要です。
介護保険制度には、訪問介護やデイサービス、ショートステイなどさまざまなサービスがあります。
要介護認定を受け、ケアマネジャーなどと相談しながら必要なサービスを利用できます。
家族が仕事を辞めて介護するよりも、介護保険サービスを利用しながら仕事を続けた方が、家族全体の経済面では有利になる場合があります。
老人ホームについても、高額な民間施設だけが選択肢ではありません。
要介護度などの条件を満たせば特別養護老人ホームを利用できる可能性があります。
親の資産と収入に合った介護方法を探すことが重要です。
親の自宅をどうするかも考える
親が老人ホームへ入居した後、自宅が空き家になる場合があります。
この自宅を残しながら、子どもが老人ホーム費用を負担することが合理的なのかは検討する必要があります。
親名義の自宅に誰も住む予定がなく、本人も戻る可能性が低いのであれば、売却して介護費用に充てる方法があります。
例えば自宅を2000万円で売却できれば、毎月10万円の資金不足なら単純計算で長期間の補填原資になります。
子どもが自分の老後資金から援助する前に、親自身が保有する資産をどのように活用できるのかを考えることが重要です。
家族で負担の上限を決めておく
子どもが親の介護費用を援助する場合には、無制限に負担するのではなく、家計とのバランスを考える必要があります。
例えば毎月3万円まで。
年間50万円まで。
親の預貯金が一定額まで減ったら施設を見直す。
このように一定の基準を考えておく方法があります。
親のためならいくらでも支払いたいという気持ちがあっても、子ども自身にもその後の人生があります。
住宅費があります。
教育費があります。
そして自分自身の老後があります。
親の生活を守ることと、子どもの生活を守ることを両立させる必要があります。
結論
老人ホームの費用を子どもが負担することは、単に親へ仕送りをするという問題ではありません。
毎月10万円の援助でも、5年間なら600万円、10年間なら1200万円になります。
その負担が住宅ローンや教育費と重なる可能性があります。
さらに、親の介護のために仕事を辞めれば、現在の収入だけでなく、子ども自身の将来の年金や老後資金にも影響する可能性があります。
だからこそ、まず確認すべきなのは親自身の年金と資産です。
年金。
預貯金。
金融資産。
自宅。
こうした親自身の資産をどのように介護費用へ充てられるのかを考えます。
そのうえで不足する部分について、家族がどこまで支援できるのかを話し合うことが重要です。
親の老後を支えるために、子どもの老後が立ち行かなくなっては問題を次の世代へ先送りすることになります。
介護費用は親だけの問題でも、子どもだけの問題でもありません。
親の資産と子どもの生活を切り離さず、家族全体で長期的に考えることが、これからの終のすみか選びには必要になります。
参考
日本経済新聞 2026年8月19日朝刊 終のすみかの現実(上)老人ホーム 手届かぬ東京 入居費1000万円、4割上昇