経理を狙った詐欺は、年々巧妙化しています。経営者編で述べたとおり、社長の関与による対策は極めて有効ですが、それだけでは十分とは言えません。
最終的に企業を守るのは、個人の判断ではなく「仕組み」です。
しかし、中小企業の現場では次のような声も多く聞かれます。
人手が足りない
分業ができない
コストをかけられない
その結果、「理想的な内部統制は分かっているが実現できない」という状態に陥りがちです。
本稿では、そうした制約を前提に、中小企業でも実装可能な“最低限の内部統制”を整理します。
内部統制は「完璧」ではなく「破られにくさ」で考える
内部統制というと、
- 職務分掌の徹底
- 多段階承認
- システム統制
といった理想形が思い浮かびます。
しかし、現実にはこれらを完全に実装できる企業は多くありません。
重要なのは考え方の転換です。
内部統制は「不正をゼロにする仕組み」ではなく、
「簡単には破れない仕組み」を作ることです。
詐欺の多くは、
- 例外処理
- 単独判断
- 時間的圧力
によって成立します。
したがって、この3つを断ち切る設計ができれば、実務上は十分に効果があります。
最低限必要な統制は3つだけ
中小企業でも実装可能で、かつ効果の高い統制は次の3つに集約されます。
1人で完結させない仕組み
最も基本であり、最も重要な統制です。
- 振込の作成と承認を分ける
- 承認者が必ず存在する
- 最終実行は別の人が行う
人手不足の企業でも、「最低2人」は関与させる設計が必要です。
ここでのポイントは、形式ではなく実質です。
単なる形式的な承認では意味がなく、「内容を確認する責任を持つ人」を明確にする必要があります。
例外処理を許さないルール
詐欺は必ず例外処理から入ってきます。
したがって、
- 緊急でも通常フローを通す
- 即日送金は原則禁止
- 例外時は追加確認を義務化
といったルールを徹底します。
特に重要なのは、「例外を認めない」ことではなく、
例外時ほど統制を強くすることです。
例外処理が曖昧な企業ほど、詐欺リスクは高くなります。
システムで止める仕組み
最後は人ではなく仕組みで止める統制です。
- 振込限度額の設定
- 未登録口座への送金制限
- インターネットバンキングの権限制御
これにより、仮に人がだまされても、即時送金を防ぐことができます。
特に有効なのは「時間を稼ぐ設計」です。
1日でも時間があれば、冷静な判断に戻る可能性が高まります。
よくある失敗は“形式だけの統制”
内部統制が機能しない企業には共通点があります。
それは「やっているつもり」になっていることです。
例えば、
- 承認はあるが内容を見ていない
- ダブルチェックが形だけ
- ルールはあるが守られていない
この状態では、統制は存在しないのと同じです。
重要なのは、「誰が・何を・どこまで確認するのか」を明確にすることです。
中小企業だからこそ必要な設計思想
大企業のような複雑な統制は不要です。
むしろ中小企業では、次のようなシンプルな設計が有効です。
- 判断を個人に委ねない
- ルールを例外なく適用する
- システムで強制する
これらを徹底することで、少人数でも十分にリスクを抑えることができます。
結論
経理詐欺を防ぐ内部統制は、複雑である必要はありません。
重要なのは次の3点です。
- 1人で完結させない
- 例外処理を管理する
- システムで止める
この3つが機能していれば、実務上のリスクは大きく低減されます。
内部統制の本質は、「性善説に依存しない仕組み」を作ることです。
人は必ずミスをし、時にだまされます。
それを前提に設計することが、現実的で強い統制につながります。
参考
企業実務 2026年5月号
実際に起きた経理にまつわる詐欺被害と実務防衛策