税務行政の世界では、今、大きなデジタル化の波が押し寄せています。
令和8年5月に開催された全国国税局徴収部長会議では、キャッシュレス納付の拡大と滞納整理の高度化が主要テーマとなりました。特に注目されたのが、AIを活用した納税催告と、KSK2徴収システムに搭載される新たなマネジメントアプリです。
税務署の仕事というと、紙の書類や職員の経験と勘に頼るイメージを持つ人も多いかもしれません。しかし実際には、民間企業以上のスピードでデジタル化が進みつつあります。
今回は、徴収部門の最新動向から、これからの税務行政がどのように変わるのかを考えてみます。
キャッシュレス納付は新たな段階へ
国税庁は近年、キャッシュレス納付の利用拡大を重要課題として位置付けています。
特に源泉所得税については、新たな目標として「令和8年度までにオンラインでのキャッシュレス利用率36%」を掲げています。
速報値によれば、令和7年度は32.4%まで上昇しました。
税理士の立場から見ると、この数字は決して小さくありません。かつては金融機関窓口への納付が当たり前でしたが、現在ではダイレクト納付やインターネットバンキング、クレジットカード納付などの利用が急速に広がっています。
国税庁は税務行政だけでなく、金融機関や地方自治体、関係省庁とも連携しながら、社会全体のデジタル化を進めようとしています。
税金の支払い方法の変化は、単なる事務手続きの効率化ではありません。企業や個人の資金管理のあり方そのものを変える可能性を持っています。
滞納整理にもAIが活用される時代
今回の会議で特に興味深かったのは、AIを活用した滞納の未然防止策です。
国税庁は納税コールセンターにおいて、納付期限前後の納税者への電話催告を強化しています。
その際に利用されるのがAIコールリストです。
過去の架電履歴を分析し、
・どの曜日がつながりやすいか
・どの時間帯が応答率が高いか
・どのような納税者が連絡に応じやすいか
といったデータを活用して効率的に電話を行います。
これは民間企業の営業支援システムや顧客管理システムと非常によく似た考え方です。
税務行政も経験や勘だけでなく、データ分析に基づくマネジメントへ移行していることが分かります。
PD発信が徴収現場を変える
さらに活用が進んでいるのがPD発信です。
PD発信とは、事前に登録した電話番号へ自動的に発信を行うシステムです。
コールセンター業界では広く利用されていますが、徴収行政にも導入されています。
限られた人員の中でより多くの納税者に接触し、滞納発生を防止することが目的です。
税収が過去最高を更新する一方で、新規滞納額も増加しています。
徴収部門にとって重要なのは、滞納が深刻化してから対応することではなく、早い段階で接触し、納税者とコミュニケーションを取ることです。
AIとPD発信は、そのための有力な武器となっています。
KSK2とマネジメントアプリがもたらす変化
今回の記事の中で最も注目したいのが、KSK2徴収システムへのマネジメントアプリ導入です。
徴収職員は通常、多数の滞納事案を担当しています。
案件数が増えると、
・進捗管理
・優先順位付け
・処理漏れ防止
が大きな課題となります。
新しいマネジメントアプリでは、
・放置案件がないか
・事務量に偏りがないか
・進行状況が適切か
を担当者と管理者が同時に確認できるようになります。
これは民間企業でいう案件管理システムやプロジェクト管理ツールに近い仕組みです。
従来の「個人管理」から「組織管理」へ進化することで、徴収業務全体の品質向上が期待されています。
GSSパソコンが現場を変える
もう一つ見逃せないのがGSSパソコンの導入です。
これにより、徴収職員は現場訪問中でも局や税務署と連絡を取りながら業務を進めることが可能になります。
これまでは一度署へ戻らなければ確認できなかった事項も、その場で判断できるようになります。
民間企業では当たり前となったモバイルワーク環境が、税務行政にも本格的に導入される時代に入ったのです。
税務行政は「経験」から「データ」へ
税務署の仕事は長年、職員個人の経験や知識に依存する部分が大きいと言われてきました。
しかし現在は、
・AIによる予測分析
・デジタルによる進捗管理
・モバイル環境による即時対応
・キャッシュレスによる納税行動の変革
が急速に進んでいます。
これは単なるシステム更新ではありません。
税務行政そのものが、「経験中心型」から「データ活用型」へ転換していることを意味しています。
結論
令和8年5月の徴収部長会議から見えてくるのは、徴収行政の大きな変革です。
AIコールリスト、PD発信、GSSパソコン、そしてKSK2のマネジメントアプリは、いずれも限られた人員で最大の成果を上げるための仕組みです。
今後の税務行政は、人海戦術ではなくデータ活用による高度なマネジメントが中心になります。
税理士や企業経理担当者にとっても、この変化を理解することは重要です。
なぜなら、納税者が接する税務行政そのものが、今まさにデジタル時代へ進化しているからです。
参考
税のしるべ
2026年6月1日
「令和8年5月・徴収部長会議、KSK2の徴収システムにマネジメントアプリ」