2027年度から先行導入される就業者負担軽減支援金を理解するうえで、重要なキーワードがあります。
純負担率です。
所得税や住民税の税率とは違います。
社会保険料の負担率とも違います。
税金と社会保険料を合計し、そこから社会保障による現金給付を差し引いた実質的な負担が、収入に対してどの程度になるのかを見る考え方です。
なぜ、このような新しい物差しが必要なのでしょうか。
背景には、働く人の負担を税金だけで判断することが難しくなっている現実があります。
純負担率とは何か
大綱では純負担率について、租税と社会保険料の合計額から、社会保障にかかる現金給付の合計額を控除した額の収入に対する割合としています。
簡単に表すと、次のような考え方です。
税金と社会保険料から現金給付を差し引いた実質負担を収入で割ります。
例えば収入が400万円あり、税金と社会保険料を合わせた負担が80万円、現金給付が10万円だったとします。
実質的な負担は70万円です。
この場合、純負担率は17.5%となります。
重要なのは、税金だけを見ないことです。
社会保険料と現金給付まで含めて、家計から実際にどれだけ負担が出ているのかを捉えようとします。
所得税率とはまったく違う
所得税には所得に応じた税率があります。
しかし、所得税率だけを見ても働く人の実際の負担は分かりません。
給与からは所得税だけでなく、住民税や健康保険料、厚生年金保険料なども差し引かれるからです。
特に会社員にとって社会保険料は手取りを左右する大きな要素です。
所得税が少なくても、社会保険料の負担が大きければ可処分所得はその分少なくなります。
逆に税金や社会保険料を負担していても、一定の現金給付を受けていれば、実質的な負担は軽くなります。
純負担率は、こうした負担と給付をまとめて見るための指標です。
税金と社会保険料を一緒に見る
これまで家計の負担を考えるときには、税金と社会保険料を別々に議論することが少なくありませんでした。
所得税をいくら減税するのか。
住民税をどうするのか。
健康保険料や厚生年金保険料はいくらになるのか。
それぞれ異なる制度だからです。
しかし、家計から見れば財布は一つです。
所得税が1万円減っても社会保険料が2万円増えれば、税と社会保険料を合わせた負担は1万円増えます。
反対に税負担が増えても、それ以上に現金給付が増えれば、実質的な家計負担は軽くなる場合があります。
純負担率という考え方では、制度ごとの負担ではなく、家計全体で最終的にどれだけ負担しているのかを見ます。
現金給付まで差し引く理由
純負担率のもう一つの特徴が、現金給付を差し引くことです。
同じ400万円の収入がある2人でも、受けている現金給付が異なれば実質的な負担は同じとは限りません。
例えば、税金と社会保険料の負担がともに80万円だったとします。
一方が現金給付を10万円受け、もう一方が30万円受けていれば、前者の実質負担は70万円、後者は50万円になります。
税と社会保険料だけを見ると同じ負担ですが、給付まで考えれば状況は違います。
純負担率では、こうした違いを踏まえて所得に応じた支援を考えます。
手取りを見るための物差しになる
働く人にとって重要なのは、額面の年収だけではありません。
最終的に自由に使えるお金がどれだけ残るのかという手取りです。
年収が10万円増えても、税金と社会保険料が合わせて8万円増えれば、手取りの増加は2万円にとどまります。
さらに現金給付が減れば、実質的な手取りがほとんど増えないことも考えられます。
そのため、働くことによって生活がどれだけ改善するのかを考えるには、収入の増加だけを見るのでは不十分です。
収入が増えたときに負担と給付がどう変化するのかまで確認する必要があります。
純負担率は、この関係を捉えるための考え方でもあります。
年収の壁とも深く関係する
純負担率という考え方は、いわゆる年収の壁とも関係しています。
年収の壁が問題になる理由の一つは、一定の収入を超えたところで税や社会保険料などの負担が変化するからです。
収入が増えても、それに伴って負担が大きく増えれば、手取りの増加が小さくなります。
場合によっては、働く時間を増やすことをためらう要因になります。
就業者負担軽減支援金では、純負担率を踏まえて所得などに応じた支援を行います。
働いて収入を増やした人の手取りができるだけ滑らかに増えるようにすることが重要になります。
所得が増えるほど給付を徐々に減らす考え方
所得連動型の給付で難しいのが、どこで給付を終了するかです。
例えば年収400万円以下には10万円を給付し、400万円を1円でも超えたら給付をゼロにするとします。
すると年収399万円の人は10万円を受け取れるのに、401万円の人は受け取れないということが起こります。
収入は2万円多いのに、給付を含めれば逆転する可能性があります。
こうした急激な変化は、給付の崖と呼ばれる問題につながります。
所得に応じて給付額を徐々に変化させれば、この崖を小さくすることができます。
純負担率を踏まえた制度設計では、こうした所得と手取りの関係を滑らかにすることが重要になります。
同じ年収でも負担が同じとは限らない
純負担率を考える際には、単純な年収比較だけでは不十分です。
同じ年収でも、税や社会保険料、現金給付の状況によって実質的な負担が異なる可能性があるからです。
給与所得者なのか。
どの社会保険制度に加入しているのか。
どのような現金給付を受けているのか。
こうした条件によって負担と給付の関係は変わります。
そのため、所得に応じたきめ細かな支援を実現するためには、行政側が税、社会保険、給付に関する情報をどのように把握し、連携させるのかも重要になります。
制度を複雑にしすぎないことも重要になる
純負担率を使えば、従来より細かく家計の状況を把握できる可能性があります。
一方で、精密にしようとすればするほど制度は複雑になります。
どの税を計算に含めるのか。
どの社会保険料を対象とするのか。
どの現金給付を差し引くのか。
どの時点の収入を使うのか。
所得が変化した場合にいつ給付額を変更するのか。
実際の制度に落とし込むためには、多くの論点があります。
きめ細かな支援と、国民にとって分かりやすく行政にとって運用可能な制度を両立できるかが重要になります。
税と社会保障を一体で見る転換
純負担率が注目される最大の理由は、負担を考える物差しそのものを変える可能性があることです。
これまでは所得税を何%にするか、社会保険料率を何%にするかといった個別制度の議論が中心になりがちでした。
しかし働く人が実際に感じるのは、それらをすべて差し引いた後にいくら残るのかという問題です。
さらに給付があるなら、それも含めて生活に使える金額を考える必要があります。
純負担率は、税制と社会保障制度を別々の箱として見るのではなく、家計に対する一つの負担と給付の仕組みとして捉え直す考え方といえます。
結論
純負担率とは、税金と社会保険料の合計から社会保障による現金給付を差し引き、その実質的な負担が収入に対してどの程度になるのかを見る考え方です。
所得税率だけでも、社会保険料率だけでもありません。
税と社会保険料と給付を一体として捉えるところに特徴があります。
2027年度から先行導入される就業者負担軽減支援金では、この純負担率を踏まえて所得などに応じた支援を行うことになります。
目指しているのは、単純に税金を減らすことではありません。
働いて収入が増えれば、それに応じて実際の手取りも増えていく仕組みです。
純負担率という新しい物差しは、2029年度の本格的な給付制度を考えるうえでも重要な考え方になりそうです。
参考
税のしるべ 2026年9月21日 飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱(抜粋)