米国の連邦政府債務が史上初めて40兆ドルを超えました。
40兆ドルという金額はあまりにも大きいため、それだけを見ると「米国は返済できるのか」と考えたくなります。
しかし、政府の借金は家計の住宅ローンとは仕組みが違います。
政府は国債を発行し、満期を迎えた国債を新しい国債で借り換えながら財政を運営しています。
そのため政府債務が40兆ドルになったからといって、40兆ドルを一度に返済する必要があるわけではありません。
それでも債務が増え続ければ問題がなくなるわけではありません。
特に重要なのが金利です。
今回は、政府債務と財政赤字の違いから、米国の借金がどこまで増やせるのかまで整理します。
政府債務とは何か
政府債務とは、政府が過去に借り入れ、まだ返済していない借金の残高です。
米国の場合、その中心になるのが米国債です。
米政府は税金などの収入だけでは支出を賄えない場合、国債を発行して資金を調達します。
国債を購入するのは銀行、年金基金、保険会社、投資信託、海外の政府や中央銀行、個人投資家などです。
つまり米国債を発行するということは、米政府が世界中の投資家からお金を借りることを意味します。
こうして過去から積み上がってきた借金の残高が政府債務です。
財政赤字と政府債務は違う
政府債務を理解するうえで重要なのが、財政赤字との違いです。
財政赤字は一定期間の収入と支出の差です。
政府が1年間に100の収入を得て、120を支出したとします。
この場合、20の財政赤字です。
不足する20を国債発行によって調達すれば、政府債務は20増えます。
翌年も20の財政赤字なら、さらに債務が増えます。
つまり財政赤字は毎年発生する不足額で、政府債務はそれが長年積み上がった残高です。
企業会計に例えるなら、財政赤字はその年の収支に近い考え方で、政府債務は貸借対照表に積み上がっている借入金に近い存在です。
なぜ米国は国債を発行するのか
政府にはさまざまな支出があります。
社会保障。
医療。
国防。
公務員給与。
公共投資。
国債の利払い。
こうした支出を税収などだけで賄えなければ、国債を発行して不足分を補います。
必ずしも国債発行そのものが悪いわけではありません。
例えば大規模な景気後退が起きたとき、政府が支出を増やすことで景気を下支えする場合があります。
戦争や災害など、一時的に巨額の資金が必要になることもあります。
将来世代も利用するインフラを整備するために国債を使うという考え方もあります。
問題になるのは、一時的ではなく構造的に支出が収入を上回り続ける場合です。
国債を発行すると借金が増える
例えば米政府が1兆ドルの財政赤字を出したとします。
その不足額を1兆ドルの国債発行によって賄えば、基本的には政府債務もその分増えることになります。
翌年も財政赤字が続けば、さらに国債を発行します。
こうして毎年の財政赤字が積み重なると、政府債務は大きくなります。
ただし政府債務の動きは、単純にその年の財政赤字だけで決まるわけではありません。
政府が保有する現金残高などの変動によっても数字は動きます。
それでも長期的には、大幅な財政赤字を続ければ政府債務も増えていくという関係があります。
40兆ドルを一度に返すわけではない
政府債務について最も誤解されやすいのが返済方法です。
米政府は40兆ドルをある日突然すべて返済する必要はありません。
国債には満期があります。
短期間で満期になる国債もあれば、10年、20年、30年といった長期間の国債もあります。
満期になった国債について、政府は税収などから返済することもできますが、多くの場合は新しい国債を発行して借り換えます。
例えば100億ドルの国債が満期を迎えたとします。
政府が新たに100億ドルの国債を発行し、その資金で古い国債を返済すれば、借金は継続します。
これを借り換えと考えることができます。
政府債務では、元本をすべてなくすことより、継続的に借り換えられるかどうかが重要になります。
家計の借金とは違う
家計の場合、収入には限界があります。
住宅ローンを借り続け、借金が増え続ければ、やがて返済能力が問題になります。
政府にも同じ面はありますが、重要な違いがあります。
政府には課税する力があります。
経済が成長すれば税収も増える可能性があります。
さらに米国の場合、自国通貨であるドル建てで国債を発行しています。
そしてドルは世界の基軸通貨として広く使われています。
世界中の金融機関や中央銀行が米国債を保有しているため、非常に大きな国債市場があります。
このため政府債務の金額だけを家計の借金と比較して「多すぎるから破綻する」と判断することはできません。
大切なのは経済規模との比較
政府債務を見るときは、絶対額だけではなく経済規模との比較が重要です。
代表的なのが政府債務の国内総生産に対する比率です。
例えば政府債務が100兆円の国でも、年間のGDPが1000兆円なら債務はGDPの10%です。
一方、政府債務が50兆円でもGDPが25兆円なら200%になります。
借金の絶対額は前者の方が大きくても、経済規模との比較では後者の負担が重くなります。
政府の税収は経済活動から生まれるため、債務を支える力を考えるにはGDPとの比較が欠かせません。
米国の政府債務40兆ドルについても、数字だけではなく米国経済の規模や税収と合わせて考える必要があります。
最大の問題は利払い費
政府債務が大きくなったときに重要になるのが利払い費です。
借金には利息がかかります。
仮に政府債務が10兆ドルなら、平均金利が1%の場合の年間利払いは単純計算で1000億ドルです。
ところが債務が40兆ドルなら、同じ1%でも4000億ドルになります。
さらに平均金利が3%なら1兆2000億ドルです。
実際の米国債は満期や金利がそれぞれ異なるため、このような単純計算にはなりません。
それでも債務残高が大きいほど、金利上昇の影響を受けやすくなることは分かります。
金利上昇は時間をかけて財政に効く
市場金利が上昇しても、すべての国債の利払い費が翌日から上がるわけではありません。
すでに発行されている固定金利の国債は、原則として満期まで決められた利率が続きます。
問題は借り換えです。
例えば過去に1%で発行した国債が満期を迎え、新しい国債を4%で発行する必要があるとします。
同じ金額を借りても利払い費は大幅に増えます。
国債の借り換えが進むにつれて、高い市場金利が政府の平均的な資金調達コストに反映されます。
そのため高金利が長く続けば、政府債務が大きい国ほど財政への影響が徐々に大きくなります。
利払いのために国債を増やす問題
利払い費が増えると、政府にはいくつかの選択肢があります。
税金を増やす。
他の支出を削減する。
財政赤字を拡大する。
さらに国債を発行する。
政治的に増税や歳出削減が難しければ、新しい国債発行に依存する可能性があります。
すると債務残高が増えます。
債務が増えると利払い費が増えます。
さらに国債を発行します。
この循環が続くと、債務と利払い費が互いに増加する状態になる可能性があります。
市場が警戒するのは、単純な40兆ドルという数字より、このような債務の増加ペースです。
政府債務はどこまで増やせるのか
政府債務に「40兆ドルを超えたら危険」「GDPの何%なら破綻する」といった明確な一本の線があるわけではありません。
国によって条件が違うからです。
経済成長率。
金利。
インフレ率。
税収。
自国通貨建てか外国通貨建てか。
国内外の投資家から国債需要があるか。
中央銀行や金融制度への信頼があるか。
こうした要因によって持続可能な債務水準は変わります。
特に重要なのが経済成長率と金利の関係です。
経済が十分に成長して税収も増える一方、政府の資金調達金利が低ければ、大きな債務を抱えていても維持しやすくなります。
反対に低成長と高金利が続けば、債務負担は重くなります。
米国にはドルという強みがある
米国には他国にはない大きな強みがあります。
ドルが世界の基軸通貨であることです。
世界の貿易や金融取引ではドルが広く利用されています。
各国の中央銀行も外貨準備としてドルや米国債を保有しています。
金融機関にとっても米国債は重要な運用資産です。
そのため米国には世界中から資金が集まりやすく、大規模な国債発行を支える市場があります。
これは米国政府が巨額の債務を抱えることを可能にしてきた重要な背景です。
しかし、この強みが永遠に無条件で続くとは限りません。
なぜ40兆ドルがドル離れにつながるのか
今回のディベースメント取引との関係では、ここが重要です。
投資家が心配しているのは、米国政府が明日にも債務不履行になるという単純な話ではありません。
巨額の政府債務を長期的にどう管理するのかという問題です。
増税や歳出削減によって財政を立て直すのであれば、政治的な負担が生じます。
高い金利を維持すれば、政府の利払い費が増えます。
一方、低金利やインフレによって実質的な債務負担を軽減しようとすれば、ドルの購買力が低下する可能性があります。
そこで投資家は「ドルだけを持っていてよいのか」と考えます。
金などへ資産を分散するディベースメント取引が意識される理由です。
債務危機と通貨価値低下は別の問題
政府債務の問題を考えるとき、債務不履行と通貨価値低下を分けることも重要です。
自国通貨で国債を発行している政府の場合、外貨建て債務を抱える国とは事情が異なります。
しかし、名目上国債を返済できることと、その通貨の購買力が維持されることは同じではありません。
100ドルを約束通り返済しても、その100ドルで買える商品が以前より少なくなっている可能性があります。
ディベースメント取引で投資家が警戒するのは、まさにこの実質価値です。
国債が返ってくるかだけではなく、返ってきたドルにどれだけの購買力が残っているのかを見るわけです。
結論
米国の政府債務40兆ドルとは、米政府が過去に積み上げ、現在も返済義務を負っている債務の総額です。
毎年の収入より支出が多ければ財政赤字となり、その不足を国債発行で補えば政府債務は増えていきます。
ただし米政府が40兆ドルを一度に返済する必要があるわけではありません。
満期を迎えた国債を新しい国債で借り換えながら、債務を継続的に管理しています。
だからこそ重要なのは、債務の絶対額だけではありません。
経済規模、財政赤字、経済成長率、金利、利払い費、そして国債に対する投資家の信頼を合わせて見る必要があります。
特に債務が巨大になるほど金利上昇の影響は大きくなります。
高い金利で国債の借り換えが進めば利払い費が増え、それを賄うためにさらに国債を発行するという悪循環に入る可能性があります。
米国には基軸通貨ドルと世界最大級の国債市場という強みがあります。
しかし、その強みがあるから政府債務を無制限に増やせるという意味ではありません。
投資家が問題にしているのは、40兆ドルという数字そのものより、今後も債務が増え続けたときに米国がどのような方法で財政を維持するのかです。
その答えとして将来的な金融緩和やインフレが意識されれば、ドルの実質価値低下への警戒が強まり、金などへ資金を移すディベースメント取引につながります。
参考
日本経済新聞 2026年8月26日朝刊 「ドル離れ取引」再燃の芽 金3カ月ぶり高値・仮想通貨も上昇