税理士は顧問先の暗黙知を見える化できるのか 経営支援編

効率化

企業には決算書に表れない大切な資産があります。

それは現場で働く人たちの経験やノウハウです。

長年の取引先との関係、営業担当者の提案力、製造現場の改善手法、顧客対応の工夫など、多くの企業はこうした「暗黙知」に支えられています。

しかし、その知識は担当者の頭の中にあるだけで、会社全体の財産になっていないことも少なくありません。

近年、人手不足や事業承継の問題が深刻化する中で、この暗黙知をいかに組織の資産として残すかが重要な経営課題になっています。

そして実は、その支援を行える立場にいるのが税理士なのです。

税理士は会社の内部を最も知る専門家

税理士は単に税金を計算する仕事ではありません。

毎月の試算表を確認し、社長と面談し、経営状況を把握する立場にあります。

金融機関よりも詳しく会社を知り、取引先よりも深く経営課題を理解している場合も少なくありません。

特に中小企業では、

「このお客様との取引は社長しか知らない」

「受注のコツは営業部長の経験頼み」

「原価管理は経理担当者しか理解していない」

というケースがよく見られます。

税理士は数字を通じて、そのような属人化のリスクを発見できる数少ない外部専門家です。

決算書だけでは見えない会社の本当の強み

企業価値は財務諸表だけで決まるわけではありません。

例えば同じ売上高10億円の企業でも、その中身は大きく異なります。

ある会社は特定の営業担当者への依存度が高く、その人が退職すれば売上が大きく減少するかもしれません。

一方で別の会社は営業手法が標準化され、誰が担当しても一定の成果を上げられる仕組みを持っているかもしれません。

決算書には同じ数字が並んでいても、将来性は大きく異なります。

税理士が見るべきなのは、数字の背景にある業務プロセスです。

数字は結果です。

結果を生み出す仕組みを理解してこそ、本当の経営支援が可能になります。

暗黙知を見える化する第一歩

暗黙知の見える化は難しい作業ではありません。

まずは社長や社員へのヒアリングから始まります。

例えば、

なぜその商品が売れるのか

なぜその顧客は長く取引しているのか

なぜ他社より利益率が高いのか

なぜクレームが少ないのか

こうした質問を繰り返すことで、成功の理由が見えてきます。

多くの場合、本人たちは当たり前だと思っているため、その価値に気づいていません。

外部の視点を持つ税理士だからこそ、強みを発見できることがあります。

事業承継で本当に引き継ぐべきもの

近年、事業承継支援は税理士の重要な業務になっています。

しかし、株式や財産を承継しただけでは事業承継は成功しません。

本当に重要なのは経営ノウハウの承継です。

社長しか知らない顧客情報

社長しかできない値決め

社長だけが持つ人脈

これらが引き継がれなければ、会社の価値は大きく下がります。

実際、多くの中小企業で後継者が苦労する原因はここにあります。

税理士は事業承継計画を作る際に、財産だけでなく知識や経験の承継についても支援する必要があります。

AI時代だからこそ重要になる知識の構造化

生成AIの普及により、業務の自動化は急速に進んでいます。

しかしAIは何もないところから知識を生み出すことはできません。

会社の業務が整理され、ルール化され、言語化されて初めて活用できます。

つまり、

暗黙知の整理

業務の標準化

ノウハウの文書化

が前提条件となります。

税理士が顧問先の業務を理解し、その構造化を支援できれば、DXやAI活用の成功確率は大きく高まります。

これからの税理士には税務知識だけでなく、業務設計や知識管理の視点も求められるでしょう。

税理士の役割は記録者から設計者へ

これまでの税理士は過去を記録する専門家でした。

帳簿を作り、決算書を作成し、申告書を提出することが中心でした。

しかし人口減少と後継者不足が進む時代では、それだけでは十分ではありません。

会社の強みを見つける。

経営ノウハウを整理する。

人材育成の仕組みをつくる。

事業承継を成功させる。

こうした役割が求められています。

税理士は企業の数字を最も長く見続ける専門家です。

だからこそ、数字の奥にある知識や経験の価値を発見し、組織の資産へ変える支援ができるのです。

結論

中小企業の最大の資産は、決算書に載っている現預金や設備だけではありません。

長年にわたり蓄積された現場の経験や経営者の知恵こそが、本当の競争力です。

しかし、それが個人の頭の中だけに存在している限り、退職や事業承継とともに失われてしまいます。

これからの税理士は税務申告の専門家にとどまらず、顧問先の暗黙知を見える化し、組織の資産へ変える支援者としての役割を担うことになるでしょう。

税理士が企業の知識を未来へつなぐ存在になれたとき、経営支援の価値はこれまで以上に大きくなるのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 朝刊 2026年6月23日

私見卓見「現場の暗黙知を『組織知』に」

社会構想大学院大学教授・ベーシック代表取締役 田原祐子氏

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