2027年4月から予定されている飲食料品の消費税率1%への引下げが実施されると、標準税率10%の商品との税率差は9ポイントになります。
注目されるのは、この大きな税率差が消費者の商品選択を変えるのかという点です。
レッドブルは1%でもリポビタンDは10%。
ノンアルコールビールは1%でもビールは10%。
みりん風調味料は1%でも本みりんは10%。
似た用途の商品でも税込価格の差が広がれば、税率の低い商品へ消費者が移る可能性があります。
経済学では、このように相対的に安くなった商品へ需要が移る現象を考えるとき、代替効果という考え方が重要になります。
代替効果とは何か
代替効果とは、ある商品の価格が別の商品と比べて相対的に安くなったとき、消費者が安くなった商品をより多く選ぶようになる効果です。
例えば、よく似た2つの商品がそれぞれ100円だったとします。
一方の商品だけ価格が90円になれば、これまで100円の商品を購入していた人の一部が90円の商品へ移る可能性があります。
重要なのは、絶対的な価格だけではありません。
似た商品との相対的な価格関係が変わることで、消費者の選択も変わるということです。
消費税率の違いも相対価格を変える
消費税率が異なれば、税抜価格が同じでも税込価格は変わります。
税抜価格1,000円の商品を考えてみます。
1%なら税込1,010円です。
10%なら税込1,100円です。
差は90円になります。
現在の8%と10%なら1,080円と1,100円なので差は20円です。
つまり、飲食料品の税率を1%にすると、税率の違いによる相対価格の差が大きくなります。
この変化が消費者の商品選択に影響する可能性があります。
代替しやすい商品ほど影響を受けやすい
ただし、税率差が9ポイントになれば、すべての商品で大規模な乗り換えが起こるわけではありません。
重要なのは、商品同士がどの程度代替できるかです。
例えば、似た味や用途の商品で、消費者がどちらを購入しても構わないと考えている場合は、価格差の影響を受けやすくなります。
一方、それぞれの商品に明確な違いがあり、消費者が特定の商品を強く求めている場合は、価格差が広がっても乗り換えは起こりにくくなります。
税率差そのものより、商品の代替可能性が重要なのです。
ビールとノンアルコールビールは完全な代替品ではない
ビールとノンアルコールビールは分かりやすい例です。
予定されている制度では、酒類であるビールは10%のままですが、飲食料品に該当するノンアルコールビールは1%になります。
しかし、両者は完全に同じ商品ではありません。
アルコールを飲みたい人にとって、ノンアルコールビールは必ずしも代わりになりません。
一方、食事と一緒にビールのような飲み物を楽しみたいだけで、アルコールそのものにはこだわらない人なら、価格差によってノンアルコールビールを選ぶ可能性があります。
同じ9ポイント差でも、消費者によって反応が異なるわけです。
ブランド力が強い商品は価格だけでは動かない
ブランド力も重要です。
長年購入している商品や、味、品質、機能に強いこだわりがある商品では、多少の価格差が生じても購入を続ける人がいます。
例えば指定医薬部外品の商品を、その商品の特徴を期待して購入している人が、税率が低いという理由だけで食品の飲料へ変更するとは限りません。
消費者は価格だけを見ているわけではないからです。
商品の機能やブランドへの信頼が強いほど、税率差による乗り換えは起こりにくくなると考えられます。
価格に敏感な商品では影響が大きくなる
反対に、商品による違いをあまり感じない分野では価格差の影響が大きくなる可能性があります。
日常的に購入し、複数の商品を比較しやすい場合は特にそうです。
1回の買い物では10円や20円の違いでも、毎週購入する商品なら年間では大きな差になります。
物価高によって節約志向が強まっている状況では、税込価格を比較して商品を選ぶ消費者も増える可能性があります。
税率差が相対価格を変え、その結果として販売数量まで変える可能性があるわけです。
価格弾力性という考え方
こうした消費者の反応を考えるときには、価格弾力性という考え方も役立ちます。
簡単にいえば、価格が変わったときに需要量がどの程度変化するのかを表すものです。
価格が少し変わっただけで購入量が大きく変わる商品は、価格に敏感な商品と考えられます。
逆に、価格が上がっても購入量があまり変わらない商品は、価格への反応が小さい商品です。
消費税率が1%と10%に分かれても、実際の販売数量への影響は商品の性質によって大きく異なることになります。
企業が税抜価格を変える可能性もある
さらに複雑なのは、企業が税抜価格を変更する可能性があることです。
消費税率が8%から1%へ下がったからといって、税込価格が機械的に7ポイント分下がるとは限りません。
原材料費や人件費、物流費などが上昇していれば、企業が税抜価格を引き上げることもあります。
反対に、競争が激しい市場では減税分を価格に反映して、安さを強く打ち出す企業もあるでしょう。
消費者が実際に見るのは最終的な税込価格です。
したがって、税率だけでなく企業の価格設定も消費行動を左右します。
2年間限定という条件も重要
今回の飲食料品1%は2年間限定として予定されています。
この点は企業にも消費者にも影響します。
恒久的に9ポイントの差が続くのであれば、企業は商品構成や開発戦略を大きく変更する可能性があります。
しかし、2年後に制度が変わるのであれば、一時的な税率差だけを理由に大規模な投資をすることには慎重になります。
消費者についても、2年間だけ価格関係が変化し、その後再び変わる可能性があります。
税率差の大きさだけでなく、その期間を見ることも重要です。
減税は商品の競争条件まで変える
消費税減税は、一般には家計の負担軽減という視点から語られます。
しかし複数税率の場合、それだけではありません。
一部の商品だけ税率を下げれば、対象商品と対象外商品の相対価格が変わります。
つまり、税制によって商品の競争条件が変わることになります。
同じ市場で競争する商品が1%と10%に分かれる場合、その影響は特に大きくなる可能性があります。
どの商品を減税対象にするかという線引きは、家計だけでなく企業間の競争にも関係する問題なのです。
結論
飲食料品の消費税率が1%になれば、標準税率10%の商品との税率差は9ポイントになります。
この税率差によって税込価格の関係が変われば、消費者が税率の低い商品へ乗り換える可能性があります。
ただし、9ポイント差があるからといって、必ず乗り換えが起こるわけではありません。
商品同士がどれだけ代替できるのか。
ブランドへのこだわりがどの程度あるのか。
消費者が価格にどれだけ敏感なのか。
企業が税抜価格をどのように設定するのか。
こうした要素によって影響は変わります。
消費税減税を見るときには、家計がいくら得をするのかだけでなく、相対価格の変化によって消費者の商品選択や企業の競争条件まで変わる可能性があることにも注目する必要があります。
参考
日本経済新聞 2026年9月20日 朝刊 消費減税、類似品に差
国税庁 消費税の軽減税率制度