同一労働同一賃金というと、基本給や賞与、各種手当など、お金に関する待遇を思い浮かべることが多いでしょう。
しかし、対象になるのは賃金だけではありません。
会社が従業員に提供している福利厚生についても、正社員とパート社員や有期雇用社員との間に不合理な待遇差があれば問題になります。
代表的なのが、給食施設、休憩室、更衣室などの福利厚生施設です。
正社員と非正規社員で仕事内容や責任が違っていても、
正社員だけ社員食堂を利用できる
正社員だけ休憩室を利用できる
といった待遇差について、その仕事の違いが合理的な理由になるとは限りません。
なぜなら、こうした施設を利用する必要性は、仕事の責任の重さとは必ずしも関係しないからです。
2026年の同一労働同一賃金ガイドライン改正でも、福利厚生施設についての記載が充実されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
同一労働同一賃金は、給与明細だけを比較する制度ではないのです。
福利厚生施設とは何か
福利厚生とは、企業が従業員の働きやすさや生活を支援するために提供するさまざまな制度やサービスです。
その中には、従業員が職場で利用する施設もあります。
今回の参考資料では、福利厚生施設として、
給食施設
休憩室
更衣室
が具体的に取り上げられています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
これらは基本給や賞与のように直接お金を受け取る待遇ではありません。
しかし、従業員が働くうえで受ける待遇の一つです。
そのため、
賃金ではないから同一労働同一賃金とは関係ない
というわけではありません。
給食施設とは何か
給食施設とは、社員食堂など、従業員が食事を取るために会社が設けている施設です。
たとえば正社員とパート社員が同じ工場で働いているとします。
正社員は社員食堂を利用できますが、パート社員は利用できないとします。
ここで、
正社員のほうが責任の重い仕事をしている
という違いがあったとしても、それだけで社員食堂の利用を正社員だけに限定する理由になるとは限りません。
食事を取る必要性は、正社員にもパート社員にもあります。
職務上の責任が重い人ほど食堂を利用する必要性が高くなるわけでもありません。
つまり、仕事内容の違いと給食施設を利用できるかどうかという待遇差が結び付きにくいのです。
休憩室も待遇になる
休憩室についても同じように考えることができます。
正社員も非正規社員も、勤務の途中で休憩を取ります。
そのため会社に休憩室が設置されているのであれば、
正社員は利用できるが、契約社員は利用できない
という待遇差については、その理由が問題になります。
たとえば正社員には管理責任があり、契約社員にはないとしても、
管理責任があるから休憩室を利用できる
という説明は、通常は制度の目的と結び付きません。
休憩室は、仕事上の地位や責任に対する報酬として設けられているものではないからです。
同一労働同一賃金では、こうした待遇の目的を見ることが重要になります。
更衣室についても同じように考える
更衣室も福利厚生施設として挙げられています。
たとえば制服や作業着に着替えて働く職場で、正社員と非正規社員の双方が着替えを必要としているとします。
それにもかかわらず、
正社員には更衣室を利用させる
非正規社員には利用させない
という違いがあれば、その理由を考える必要があります。
仕事内容や責任に違いがあったとしても、双方が同じように着替える必要があるのであれば、更衣室を利用する必要性に大きな違いはありません。
ここでも、
正社員だから
という雇用区分そのものを理由として扱いを変えることは難しくなります。
賃金以外の待遇も対象になる理由
なぜ同一労働同一賃金では、賃金以外の待遇まで問題になるのでしょうか。
理由は、正社員と非正規社員の不合理な待遇差をなくすという制度の考え方が、基本給だけに限定されていないからです。
従業員が会社から受ける待遇には、さまざまなものがあります。
基本給だけを同じように扱っても、
正社員だけ福利厚生施設を利用できる
正社員だけ特別な休暇を取得できる
という状態であれば、待遇全体として違いが残ります。
そのため、待遇差の有無を確認するときには、給与明細に載っている項目だけではなく、休暇や福利厚生などについても確認する必要があります。
仕事内容が違えば待遇も全部違ってよいわけではない
福利厚生施設を考えると、同一労働同一賃金の重要なポイントが見えてきます。
正社員と非正規社員の仕事内容や責任が違っていても、すべての待遇を違うものにできるわけではないという点です。
たとえば正社員には、
管理責任がある
転勤がある
幅広い配置転換がある
といった違いがあるとします。
基本給や役職に関係する待遇であれば、こうした違いが重要になります。
しかし、社員食堂や休憩室、更衣室を利用する必要性については、これらの違いがそのまま当てはまるとは限りません。
重要なのは、
正社員と非正規社員に違いがあるか
だけではありません。
その違いが、問題となっている待遇と関係しているかどうかなのです。
待遇の性質と目的を見る
同一労働同一賃金では、待遇の性質と目的が重要になります。
参考資料では、待遇差を判断するときには、業務内容や責任、配置変更の範囲などの仕事側の事情と、それぞれの待遇の性質や目的という待遇側の事情を考慮することが説明されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
社員食堂であれば、従業員が勤務中に食事を取れるようにすることが考えられます。
休憩室であれば、勤務途中に休憩する場所を提供することです。
更衣室であれば、業務に必要な着替えを行う場所を提供することです。
こうした目的が正社員だけに当てはまるのかを考える必要があります。
非正規社員にも同じ必要性があるのであれば、雇用形態だけを理由として利用を認めないことには説明が必要になります。
福利厚生施設以外の待遇にも同じ考え方が使われる
今回の参考資料では、福利厚生施設だけでなく、病気休職や休暇などについてもガイドラインの記載が追加、充実されています。
つまり、
賃金ではない待遇
について幅広く確認する必要があります。
たとえば病気になったときの休職制度や夏季冬季休暇についても、
正社員と非正規社員の仕事内容が違うから待遇も違ってよい
とは一律には判断できません。
病気休職であれば継続雇用を確保するという目的が考えられます。
休暇であれば、心身を休ませるなどの目的があります。
待遇ごとに目的が異なるため、一つずつ判断する必要があるのです。
待遇差は一項目ずつ確認する
企業が同一労働同一賃金への対応を点検するときには、待遇を一つずつ洗い出す必要があります。
参考資料でも、待遇差の不合理性は基本的に待遇ごとに個別に判断することが原則とされています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
そのため、
基本給には合理的な違いがあるから問題ない
と判断して終わることはできません。
賞与はどうか。
住宅手当はどうか。
家族手当はどうか。
休暇はどうか。
給食施設はどうか。
休憩室はどうか。
更衣室はどうか。
それぞれについて正社員と非正規社員の待遇を比較します。
そのうえで待遇差があれば、その理由を確認します。
福利厚生は見落としやすい
企業にとって注意したいのは、福利厚生が同一労働同一賃金の点検から漏れやすいことです。
賃金制度を確認するときには、給与規程や退職金規程を見れば多くの待遇を確認できます。
一方、福利厚生についてはさまざまな社内制度に分散していることがあります。
長年の慣行として、
社員食堂は正社員だけ
この休憩室は正社員だけ
といった運用が残っている場合もあるでしょう。
そのため、規程だけではなく実際の職場でどのように運用されているかまで確認することが重要になります。
同一労働同一賃金への対応では、書面上の制度だけでなく、実態を見る必要があります。
2026年改正を機に総点検する
2026年のガイドライン改正では、福利厚生施設についての記載も充実しました。
参考資料では、企業の実務対応として、まず正社員と非正規社員の間に待遇差が存在するかを改めて確認することが出発点になるとされています。
そして、待遇差がある場合には、改正ガイドラインや裁判例を踏まえて不合理性を検討することが必要とされています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
ここでいう待遇差には、給与だけではなく福利厚生も含まれます。
会社としては、
正社員だけが利用できる施設はないか
非正規社員だけ利用条件が違う施設はないか
その違いにはどのような理由があるのか
を確認する必要があります。
2026年改正は、賃金表だけではなく福利厚生制度まで含めて総点検する機会になるのです。
結論
同一労働同一賃金の対象になるのは、基本給や賞与、手当などの賃金だけではありません。
給食施設、休憩室、更衣室などの福利厚生施設も、正社員と非正規社員の待遇差を確認する対象になります。
特に重要なのは、正社員と非正規社員の仕事内容や責任が違っているからといって、福利厚生まで当然に違ってよいわけではないという点です。
基本給であれば、責任の重さが待遇差の理由になることがあります。
しかし社員食堂を利用する必要性や、休憩室で休む必要性、更衣室で着替える必要性は、仕事上の責任とは必ずしも関係しません。
同一労働同一賃金では、
正社員と非正規社員の働き方に違いがあるか
だけを見るのではなく、
その違いが、その待遇の目的と関係しているか
まで確認する必要があります。
だからこそ、賃金だけを点検しても十分ではありません。
給与明細には現れない福利厚生まで一つずつ確認することが、同一労働同一賃金への対応では重要なのです。
参考
企業実務 2026年9月号 同一労働同一賃金改正対応の総点検