現物給与の価額改定により、社宅制度の見直しを検討する企業が増えています。これまで福利厚生の一環として当然のように提供されてきた社宅ですが、社会保険料への影響やコスト構造を踏まえると、そのまま維持すべきかは改めて検討が必要です。
本稿では、社宅制度を「続けるか・見直すか」という視点から、コストと社会保険の両面で実務的に整理します。
社宅制度の基本構造
社宅制度は、企業が住宅を提供し、その一部または全部を従業員に負担させる仕組みです。社会保険上は、この提供が「現物給与」として評価され、標準報酬月額に算入されます。
ここで重要なのは、
- 評価額は実際の家賃ではない
- 厚生労働省の定める価額で算定される
という点です。
このため、実際の家賃と評価額の差が、企業と従業員双方に影響を与える構造になっています。
社宅制度のメリット
企業側のメリット
- 人材確保・定着に有効
- 転勤対応が容易
- 給与を上げずに実質的な待遇改善が可能
特に都市部では住宅費が高いため、社宅制度は採用競争力に直結します。
従業員側のメリット
- 家賃負担の軽減
- 生活の安定
- 初期費用の削減
現金給与よりも生活実感としてのメリットが大きい点が特徴です。
見落とされがちなコスト構造
社宅制度は一見すると効率的に見えますが、実務的には複数のコストが存在します。
企業側のコスト
- 家賃負担(差額部分)
- 管理コスト(契約・更新・トラブル対応)
- 空室リスク
さらに、現物給与として評価されることで、
- 社会保険料の企業負担が増加
する点も見逃せません。
従業員側のコスト
- 現物給与として社会保険料が増加
- 将来の年金額には影響するが、手取りは減少
つまり、「得をしているようで保険料は増えている」という構造になります。
今回の改定が与える影響
今回の改定により、特に住宅評価の算定方法が変更されました。
- 畳ベース → ㎡ベース
この変更は、次のような影響を生みます。
影響① 評価額の変動
同じ社宅でも、
- 面積が大きい物件
- 都市部の物件
ほど評価額が上がる可能性があります。
影響② 社会保険料の増減
評価額の変動はそのまま
- 標準報酬月額
- 社会保険料
に反映されます。
企業・従業員双方にコスト変動が発生します。
影響③ 制度の歪みの顕在化
従来は有利だった制度設計が、今回の改定により
- 想定外の負担増
につながるケースも出てきます。
社宅制度の見直しパターン
実務上は、以下の3つの方向性が考えられます。
① 維持(現行制度のまま)
最もシンプルな選択ですが、
- コスト増の吸収
- 社会保険料の増加
を前提とする必要があります。
採用競争力を重視する企業に向いています。
② 負担割合の見直し
従業員負担を増やすことで、
- 現物給与額を抑制
- 社会保険料の増加を抑える
設計です。
ただし、
- 従業員満足度の低下
には注意が必要です。
③ 住宅手当への移行
社宅制度を廃止し、
- 現金支給に切り替える
方法です。
この場合、
- 管理コストは削減
- 透明性は向上
しますが、
- 社会保険料は増加
する傾向があります。
最適設計の考え方
社宅制度の是非は「コスト」だけで判断すべきではありません。
重要なのは、以下の3つのバランスです。
① コスト最適化
- 企業負担
- 社会保険料
- 管理コスト
の総額で判断する必要があります。
② 人材戦略との整合性
- 採用競争力
- 定着率
- 転勤制度
との整合性が重要です。
③ 制度の持続可能性
- 将来の制度改正への耐性
- 運用のシンプルさ
も重要な視点です。
実務チェックリスト
見直しにあたっては、以下を確認します。
- 現在の社宅の評価額と実家賃の差
- 社会保険料への影響額
- 従業員ごとの負担割合
- 制度変更時の影響シミュレーション
- 採用・定着への影響
結論
社宅制度は単なる福利厚生ではなく、
- コスト
- 社会保険
- 人材戦略
が交差する制度です。
今回の現物給与の価額改定は、この制度を見直す良い契機となります。
重要なのは、
維持か廃止かという二択ではなく、
自社にとって最適な設計に再構築することです。
制度の本質を理解し、数値と戦略の両面から判断することが、これからの実務に求められます。
参考
・企業実務 2026年5月号 現物給与の価額が変更に
・厚生労働省告示第94号(令和8年3月改定)