企業が従業員に支給する報酬は、現金だけではありません。食事や住宅の提供といった現物による給付も、社会保険の世界では重要な意味を持ちます。今回、厚生労働省により現物給与の価額が見直され、全都道府県で新たな基準が適用されることになりました。
この改定は一見すると細かな制度変更に見えますが、標準報酬月額の算定や社会保険料に直接影響するため、実務上のインパクトは小さくありません。本稿では、今回の改定の内容と実務上の留意点を整理します。
現物給与とは何か
現物給与とは、通貨以外の形で支払われる報酬を指します。代表的なものとしては以下が挙げられます。
- 食事の提供
- 住宅の提供
- 自社製品の支給
- 被服などの現物支給
社会保険では、これらも報酬として評価され、標準報酬月額の算定に含める必要があります。その際に用いられるのが、厚生労働大臣が定める「現物給与の価額」です。
今回の改定のポイント
全都道府県で価額が見直し
今回の改定では、食事・住宅に関する現物給与の価額が全国すべての都道府県で変更されました。
具体的には、
- 食事:1日あたりの単価(朝・昼・夕)が改定
- 住宅:1か月あたりの評価額が改定
地域ごとに異なる金額が設定されており、例えば東京都では住宅の評価額が比較的高い水準となっています(約25,500円/月)。
住宅評価の算定方法が変更
今回の改定で最も実務上重要なのが、住宅の評価方法の変更です。
従来は
- 畳数ベース(1畳あたり)
で評価していましたが、今後は
- 床面積ベース(1㎡あたり)
で算定する方式に変更されました。
この変更により、同じ住宅でも評価額が変わる可能性があります。
食事・住宅以外は時価評価
なお、食事や住宅以外の現物給与については、従来どおり
- 時価で評価
する取り扱いに変更はありません。
実務への影響
標準報酬月額が変わる可能性
現物給与の価額が変わると、標準報酬月額に影響します。
その結果として、
- 社会保険料の増減
- 等級変更の可能性
が生じます。
特に住宅提供を行っている企業では影響が大きくなる可能性があります。
給与計算の見直しが必要
今回の改定により、以下の対応が必要になります。
- 現物給与の評価額の更新
- 給与計算システムの設定変更
- 社会保険手続きへの反映
特に住宅評価の算定方法変更は、システム上のロジック修正が必要になるケースもあります。
適用時期に注意
改定後の価額は令和8年(2026年)から適用されます。適用開始時期を誤ると保険料計算に誤りが生じる可能性があります。
実務上のチェックポイント
今回の改定を踏まえ、以下の点は必ず確認が必要です。
- 自社で現物給与を提供しているか
- 食事・住宅の評価額が最新基準になっているか
- 住宅の面積情報が正確に把握できているか
- 標準報酬月額への影響を試算しているか
特に住宅については、面積データの管理が重要になります。
結論
現物給与の価額改定は、制度上は定期的に行われる見直しの一つですが、今回のように算定方法が変更されるケースでは実務への影響が大きくなります。
とりわけ住宅評価の「畳→㎡」への変更は、評価額そのものを変動させる可能性があり、社会保険料にも波及します。
単なる数値の更新として処理するのではなく、
評価方法の変更という構造的な変化として捉え、
給与計算・人事制度・コスト管理まで含めた見直しを行うことが重要です。
参考
・企業実務 2026年5月号 現物給与の価額が変更に
・厚生労働省告示第94号(令和8年3月改定)