税理士の仕事というと、税務申告や税務相談、相続対策などを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし近年、税理士には税務の専門家としてだけではなく、社会の安全を守る役割も求められるようになっています。
その代表例がマネー・ローンダリング対策です。
「マネロン対策は銀行の仕事ではないのか」と思われるかもしれません。しかし現在では税理士も犯罪収益移転防止法に基づく特定事業者に位置付けられています。つまり、一定の取引においては本人確認や記録保存などの義務を負っているのです。
今回は、税理士実務とマネロン対策の関係について考えてみます。
マネー・ローンダリングとは何か
マネー・ローンダリングとは、犯罪によって得た資金の出所を分からなくし、あたかも正当な資金であるかのように見せかける行為です。
薬物犯罪や詐欺、組織犯罪などによって得られた資金は、そのままでは利用しにくいため、複数の口座や会社、不動産取引などを経由して資金の流れを複雑化させます。
犯罪組織にとって重要なのは犯罪そのものではなく、最終的に利益を自由に使える状態にすることです。
そのため世界各国では、犯罪収益の流れを遮断するための仕組みづくりが進められてきました。
なぜ税理士が対象になるのか
以前は金融機関が中心でしたが、現在では税理士、公認会計士、司法書士、行政書士などの専門職も対策の対象になっています。
その理由は、犯罪組織が専門家の知識や社会的信用を利用しようとするケースがあるからです。
例えば、
・会社設立
・不動産取引
・財産管理
・資産移転
などは、本来は合法的な手続ですが、悪意を持つ者が利用すれば資金洗浄の手段にもなり得ます。
税理士が関与する業務の中にも、犯罪収益移転防止法上の対象取引が存在します。
そのため税理士もマネロン対策の重要な担い手と位置付けられているのです。
犯罪収益移転防止法とは何か
マネロン対策の中心となる法律が犯罪収益移転防止法です。
この法律では特定事業者に対して様々な義務を課しています。
税理士を含む特定事業者には主に次のような義務があります。
本人確認を行うこと
確認記録を保存すること
取引記録を保存すること
疑わしい取引を把握すること
適切な内部管理体制を整備すること
税理士にとっては税法だけではなく、このようなコンプライアンス分野の理解も必要な時代になっています。
社会から求められる税理士像
税理士は顧客の財産や経営情報に深く関与します。
そのため不自然な資金移動や不透明な取引に気付く機会も少なくありません。
もちろん税理士は捜査機関ではありません。
しかし専門家として適切な注意を払い、法令に基づく対応を行うことは社会的責任の一つです。
近年は国際的にもマネロン対策が強化されており、日本も国際基準に沿った制度整備を進めています。
税理士事務所においても、従来の税務知識だけでは十分とはいえなくなっています。
税理士業務は大きく変わり始めている
今後の税理士業務では、
税務
会計
相続
事業承継
資産管理
コンプライアンス
これらを総合的に理解することが求められます。
顧客から信頼される税理士であり続けるためには、税法改正だけでなくマネロン対策や本人確認制度などにも関心を持つ必要があります。
税理士は単なる申告書作成者ではありません。
社会インフラを支える専門家としての役割が、これまで以上に重要になっているのです。
結論
マネー・ローンダリング対策は銀行だけの問題ではありません。税理士も犯罪収益移転防止法上の特定事業者として重要な役割を担っています。
これからの税理士には税務知識だけでなく、本人確認や記録保存、コンプライアンスに関する理解も求められます。社会から信頼される専門家であり続けるためには、マネロン対策を自分事として捉えることが重要なのです。
参考
警察庁刑事局組織犯罪対策部組織犯罪対策第一課犯罪収益対策室(JAFIC)
「マネー・ローンダリング対策について」講義資料
警察庁刑事局組織犯罪対策部組織犯罪対策第一課犯罪収益対策室(JAFIC)
「疑わしい取引の届出方法について」補助資料