「生活が苦しい」と感じる世帯が半数を超えた――。
厚生労働省の2025年国民生活基礎調査は、日本社会が抱える深刻な現実を改めて浮き彫りにしました。
景気や株価、GDP成長率などの経済指標は日々報じられます。しかし、多くの人が実際に感じている暮らしは、それとは異なる景色かもしれません。
経済が成長していても、生活が豊かになったと実感できなければ、その成長は国民に十分届いているとは言えないでしょう。
今回は、生活苦が過半となった背景と、これから政治に求められる視点について考えてみます。
生活が苦しい世帯は55%を超えた
今回の調査では、「生活が苦しい」と回答した世帯は55.4%でした。
つまり、日本では2世帯に1世帯以上が生活に不安や負担を感じながら暮らしています。
さらに内訳を見ると、その深刻さがよく分かります。
母子世帯では8割を超え、子育て世帯でも6割以上、高齢者世帯でも半数を超えています。
一部の人だけが苦しいのではありません。
子育て世代も、高齢者も、現役世代も、それぞれ異なる理由で生活への不安を抱えていることが特徴です。
賃上げだけでは生活は楽にならない
近年、日本では賃上げが続いています。
しかし、多くの家庭では生活が楽になったという実感はあまり広がっていません。
その理由は、物価上昇です。
食品や日用品、電気・ガス料金など生活に欠かせない支出が増え続けています。
家計の中で食費が占める割合を示すエンゲル係数も高水準となり、生活必需品への支出が家計を圧迫しています。
名目賃金が増えても、それ以上に生活コストが上昇すれば、自由に使えるお金は増えません。
数字上は賃上げでも、実生活では「苦しくなった」と感じる人が増える理由はここにあります。
見えにくい相対的貧困という問題
日本では絶対的な貧困よりも、相対的貧困が大きな課題となっています。
相対的貧困とは、社会全体の所得水準と比較して生活が厳しい状態を指します。
十分な教育を受けられない。
習い事を諦める。
進学を断念する。
こうした状況は、将来の所得格差をさらに拡大させる要因にもなります。
特に子どもの貧困は、本人だけでは解決できない問題です。
家庭環境によって将来の選択肢が狭まる社会は、長期的に見れば日本全体の成長力にも影響を及ぼします。
政策は暮らしの改善につながっているか
国会ではさまざまな重要法案が審議されています。
安全保障や憲法、皇室制度など、国家として避けて通れないテーマもあります。
一方で、多くの国民にとって毎日の生活は待ってくれません。
物価高への対応、社会保障制度、子育て支援、賃金政策、税制改革などは、日々の暮らしに直結します。
法律を成立させること自体が目的ではなく、その政策によって国民の生活が改善されたのかを検証する姿勢が重要になります。
政策は「作ること」よりも、「成果を出すこと」が求められる時代に入っていると言えるでしょう。
暮らしの実感を起点に政策を考える時代へ
経済政策を評価するとき、GDPや株価だけを見る時代ではなくなっています。
家計はどう変わったのか。
将来への不安は減ったのか。
子どもを安心して育てられる社会になったのか。
高齢になっても生活できる安心感はあるのか。
こうした「暮らしの実感」こそが、政策を評価する重要な指標になります。
国民生活基礎調査は、その実感を数字として示す貴重な統計です。
生活苦が過半となったという結果は、一時的な数字ではなく、日本社会が抱える構造的な課題を映し出しています。
政治には、目先の議論だけでなく、国民一人ひとりの暮らしを改善するという本来の役割が、これまで以上に求められているのではないでしょうか。
結論
「生活が苦しい」と感じる世帯が半数を超えたという事実は、日本経済の課題が景気指標だけでは測れないことを示しています。賃上げや経済成長が進んでも、それが家計の安心や将来への希望につながらなければ、本当の意味で豊かになったとは言えません。政治や行政には、制度を整えるだけでなく、その成果が国民の暮らしにどう表れているかを常に検証し、生活実感を起点とした政策運営が求められています。
参考
日本経済新聞 2026年7月30日 朝刊 「生活苦」世帯が過半という現実(大機小機)