生成AIによる議事録作成は、企業にとって魅力的な使い方の1つです。
会議内容を整理する。
長い発言を要約する。
決定事項を抜き出す。
議事録作成にかかる時間を短縮できれば、担当者の負担は大きく減ります。
しかし、すべての会議で同じように生成AIを利用してよいわけではありません。
資料では、取締役会や経営会議、企画会議、マーケティング会議など、会議の種類によって扱われる情報が異なることが指摘されています。
重要なのは「生成AIで議事録を作ってよいか」を会議終了後に担当者が判断するのではなく、会議体ごとにあらかじめ利用の可否を整理しておくことです。
会議は企業の重要情報が集まる場所
企業の会議では、単なる業務報告だけが行われているわけではありません。
資料では、社内の会議体で扱われる情報として、具体的に次のようなものが挙げられています。
取締役会では、M&Aや人事案件。
経営会議では、未開示の決算情報、撤退判断、経営数字。
企画会議では、未発表の商品。
マーケティング会議では、価格戦略や顧客データ。
いずれも企業経営にとって重要な情報です。
議事録作成のために会議内容を生成AIへ入力するということは、こうした情報を生成AIに処理させることでもあります。
単なる事務作業の効率化として考えるだけでは不十分です。
取締役会にはM&Aや人事案件が含まれる
まず注意したいのが取締役会です。
資料では、取締役会で扱われる情報としてM&Aや人事案件が挙げられています。
こうした会議の議事録を作るために、会議内容をそのまま生成AIへ入力することには慎重な判断が必要です。
議事録担当者からすれば、
「会議を要約しているだけ」
かもしれません。
しかし、生成AIへ渡しているのはM&Aや人事案件を含む会議内容です。
議事録という成果物だけを見るのではなく、その成果物を作るために何を入力するのかを見る必要があります。
経営会議には未開示情報が集まる
経営会議も注意が必要な会議です。
資料では、未開示の決算情報、撤退判断、経営数字などが例示されています。
経営会議は、会社の重要な意思決定に関する情報が集まる場所です。
まだ社外に公表されていない情報について議論することもあります。
こうした会議内容を、学習に再利用される設定の生成AIへ入力すれば、企業の意思決定中枢にある情報が外部サーバーに蓄積されることになります。
資料では「議事録の要約を頼んだだけ」であっても、営業秘密そのものを外部に渡すことになり得るという問題が示されています。
企画会議では未発表の商品に注意する
企画会議では、まだ世の中に出ていない商品について話し合うことがあります。
資料でも、未発表の商品が具体例として挙げられています。
新しい商品の内容を議論した会議を生成AIで要約する場合、その商品に関する情報を入力することになります。
生成AIを使う側には、
「会議内容を短くまとめたい」
という目的しかないかもしれません。
しかし、情報管理の観点では、利用目的よりも入力される内容を見る必要があります。
未発表の商品について話し合う会議であれば、その会議内容をどの環境で処理するのかをあらかじめ決めておくことが重要です。
マーケティング会議では価格戦略や顧客データを扱う
マーケティング会議について、資料では価格戦略や顧客データが挙げられています。
価格をどのように設定するのか。
顧客についてどのような情報を持っているのか。
こうした内容も企業にとって重要です。
特に会議の議事録には、発言者が口頭で説明した内容まで記録される可能性があります。
資料だけを見れば分からない情報が、会議では語られることもあります。
そのため、会議名だけではなく、実際にどのような情報を扱う会議なのかを基準に生成AI利用を考える必要があります。
最高機密の会議では利用方法を限定する
では、重要情報を扱う会議では生成AIを一切使えないのでしょうか。
資料では、最高機密の会議体について具体的な方法が示されています。
1つは、人間が手作業でまとめる方法です。
もう1つは、学習に再利用されない法人専用環境に限定する方法です。
つまり「生成AIを使うか、使わないか」という単純な2択だけではありません。
会議の機密性に応じて利用環境を変えるという考え方です。
ただし、法人専用環境を利用する場合でも、会社としてその会議での利用を認めていることが前提になります。
会議が終わってから判断しない
資料で特に注目したいのが、会議招集の段階で生成AI利用の可否を切り分けるという考え方です。
これは非常に実務的です。
会議が終了した後、議事録担当者に、
「この会議は生成AIに入れても大丈夫だろうか」
と判断させるのではありません。
会議を設定するときに、
生成AI利用可。
生成AI利用不可。
利用する場合は法人専用環境に限定。
というように取り扱いを決めておきます。
そうすれば、議事録担当者が個人の判断で重要情報を生成AIへ入力するリスクを減らせます。
会議体ごとの区分を作る
企業では、会議体ごとに扱う情報の重要度がおおむね決まっている場合があります。
そこで、生成AI利用についても会議体ごとの区分を作る方法が考えられます。
たとえば取締役会や重要な経営会議など、最高機密を扱う会議については、人間による作成または会社が認めた法人専用環境に限定する。
一方、社外公表を前提としている打合せ内容であれば、資料では生成AIを積極的に活用できる用途として示されています。
すべての会議を一律に扱うのではなく、情報の性質によって利用方法を分けることが重要です。
取引先が参加する会議は別の注意が必要
社内会議だけではなく、取引先との打合せにも注意が必要です。
資料では、商談、共同開発、業務委託の進捗確認などが例として挙げられています。
こうした会議には、自社の情報だけでなく、
相手方の営業秘密。
担当者の個人情報。
などが含まれることがあります。
さらに、取引先との間で秘密保持契約を締結している場合もあります。
相手方の同意なく生成AIへ入力すれば、秘密保持義務違反のおそれがあると資料では指摘されています。
社内だけで利用方法を決めれば済む問題ではありません。
取引先情報を含む議事録は原則入力しない
資料では、取引先情報を含む議事録について、原則として生成AIへ入力しないという考え方が示されています。
これは、社内会議との大きな違いです。
自社の情報であれば、自社のルールによって管理方法を設計できます。
しかし、取引先から受け取った情報には相手がいます。
会社が法人向け生成AIを契約しているからといって、相手方の情報まで自由に入力できるわけではありません。
生成AIを使う前に、その情報を自社だけの判断で処理してよいのかを考える必要があります。
社外公表を前提とする内容なら活用できる
一方で、資料は議事録作成への生成AI利用そのものを否定しているわけではありません。
社外への公表を前提とした打合せ内容であれば、積極的に活用してよい用途として示されています。
ここが重要です。
生成AIによる議事録作成をすべて禁止する必要はありません。
機密性の高い会議と、社外公表を前提とした内容を同じように扱わないことです。
生成AIを使ってはいけない会議を決めるだけではなく、安心して使える会議も明確にする。
そうすれば、従業員は判断しやすくなります。
会議名だけでなく扱う情報を見る
ただし「経営会議だから絶対禁止」「普通の打合せだから大丈夫」という会議名だけの判断には注意が必要です。
資料が示しているポイントは、会議でどのような情報が扱われているかです。
M&A。
人事案件。
未開示の決算情報。
撤退判断。
経営数字。
未発表の商品。
価格戦略。
顧客データ。
取引先の営業秘密。
こうした情報が含まれているのであれば、それに応じた管理が必要になります。
会議の名称より、そこで扱われる情報の中身を見ることが重要です。
生成AIの利用可否を会議運営に組み込む
生成AI利用を情報管理担当者だけの問題にしないことも重要です。
会議を招集するときに利用可否を決める。
議事録担当者に利用できる環境を伝える。
取引先情報を含む場合には原則入力しない。
最高機密を扱う場合には、人間による作成か法人専用環境に限定する。
このように、生成AIのルールを通常の会議運営に組み込みます。
そうすれば、毎回ゼロから判断する必要がありません。
生成AIガバナンスを特別な作業として追加するのではなく、既存の業務手順の中に入れることがポイントになります。
「議事録だから大丈夫」という発想を変える
生成AIによる議事録作成で最も注意したいのは、議事録作成を単純な事務作業だと考えてしまうことです。
重要なのは、完成した議事録ではありません。
その議事録を作るために生成AIへ渡す情報です。
取締役会であればM&Aや人事案件。
経営会議であれば未開示の決算情報や撤退判断、経営数字。
企画会議であれば未発表の商品。
マーケティング会議であれば価格戦略や顧客データ。
議事録作成を生成AIに任せるということは、こうした情報を処理させる可能性があるということです。
「議事録を作るだけだから」という理由で判断してはいけません。
結論
生成AIで議事録を作れるかどうかは、すべての会議について同じ答えになるわけではありません。
重要なのは、会議で扱われる情報に応じて利用方法を分けることです。
最高機密を扱う会議では、人間が手作業でまとめるか、学習に再利用されない法人専用環境に限定する。
取引先情報を含む議事録は、原則として生成AIへ入力しない。
社外公表を前提とした打合せ内容であれば、生成AIを積極的に活用する。
そして、その判断を議事録作成時に担当者へ丸投げするのではなく、会議を招集する段階で生成AI利用の可否を切り分けておく。
これが資料で示されている実務的な考え方です。
生成AI時代には、会議の案内に日時や参加者だけを書けばよいとは限りません。
その会議で生成AIを利用できるのか。
利用するなら、どの環境に限定するのか。
会議を始める前から情報管理を設計することが必要になります。
生成AIを使える会議と使えない会議をあらかじめ分けておく。
それが、議事録作成の効率化と企業の重要情報の保護を両立させるための現実的な方法なのです。
参考
企業実務 2026年10月号 生成AI時代における「営業秘密」の漏えいリスクとその対策