国の予算編成に関するニュースを見ていると、「事項要求」という言葉が登場することがあります。
通常、予算を要求する際には必要な金額を明記するのが当然です。しかし事項要求では、あえて金額を記載せず、「こうした政策を実施したい」という内容だけを示します。
一見すると不思議な制度ですが、社会情勢が急速に変化する現代では重要な役割を担っています。今回は、事項要求の仕組みや活用される理由、そして課題について考えてみます。
事項要求とは
事項要求とは、予算の使い道や政策内容は示すものの、具体的な金額を記載せずに行う予算要求のことです。
通常の概算要求では、「この事業には○○億円必要」という形で金額まで示します。
一方、事項要求では「制度改正の内容が決まれば必要額を算定する」「今後の情勢変化を踏まえて予算を確定する」といった考え方から、金額を空欄のまま要求します。
つまり、「何を実施するか」は決めるものの、「いくら必要になるか」は後から決定する仕組みです。
なぜ金額を書かないのか
事項要求が認められる最大の理由は、予算要求時点では必要額を正確に見積もれない政策があるためです。
例えば、新しい法律の制定を前提とする制度や、国際情勢によって内容が変わる安全保障政策などは、夏の概算要求時点では詳細が決まっていないことがあります。
また、人件費のように人事院勧告を待たなければ算定できないものもあります。
こうしたケースで無理に金額を記載すると、実態とかけ離れた予算要求になってしまうため、事項要求という制度が活用されています。
近年は活用の場面が増えている
近年、事項要求が増えている背景には、政策課題の複雑化があります。
AIや経済安全保障、半導体、GX、防衛力強化などは、技術革新や国際情勢の変化が非常に速く、予算要求時点で詳細を固めることが難しい分野です。
また、大規模災害への対応や感染症対策のように、将来の状況を正確に予測できない政策も少なくありません。
そのため、一定の柔軟性を持たせる事項要求は、現代の予算編成には欠かせない制度となっています。
事項要求のメリット
事項要求には、大きく3つのメリットがあります。
1つ目は、政策決定を柔軟に行えることです。
社会情勢の変化に応じて必要な予算を確保しやすくなります。
2つ目は、制度改正と予算編成を並行して進められることです。
法律や制度の内容が固まる前から予算編成を進められるため、行政手続きが円滑になります。
3つ目は、長期的な政策を計画しやすいことです。
新しい技術や安全保障のように変化の激しい分野では、柔軟な制度設計が可能になります。
一方で課題もある
便利な制度である一方、課題もあります。
最大の課題は、要求段階では予算規模が見えにくいことです。
金額が示されないため、国民や国会が財政規模を把握しづらくなる可能性があります。
また、事項要求が増えすぎれば、予算編成の透明性が低下するとの指摘もあります。
そのため、最終的な予算査定では必要性や妥当性を十分に検証し、金額を明確に示すことが重要になります。
柔軟性と透明性のバランスが、今後の課題といえるでしょう。
税理士として感じること
企業でも、新規事業の計画段階では正確な予算を算定できないことがあります。
まず事業方針だけを決め、詳細が固まった段階で投資額を決定するケースは珍しくありません。
事項要求も考え方は似ています。
重要なのは、金額を書かないことではなく、その後の査定で客観的な根拠に基づいて適切な予算へ落とし込めるかどうかです。
柔軟性を持ちながらも説明責任を果たすことが、健全な財政運営につながると感じます。
結論
事項要求は、政策内容は示しながら金額を後で決定する予算要求の仕組みです。
技術革新や国際情勢の変化が激しい現代では、柔軟な予算編成を可能にする重要な制度となっています。
一方で、予算規模が見えにくくなるという課題もあり、透明性や説明責任をどのように確保するかが重要になります。
これからの予算編成では、柔軟性と財政規律の両立が、これまで以上に求められるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年7月31日 朝刊「概算要求、大幅膨張に危惧 財務相『もはやシーリングはない』 来年度予算、市場も注視」