株主総会を開くとき、会社は株主に「何月何日の何時から、どこで開催するのか」を知らせます。
ホテルの宴会場や会社の会議室、大規模なホールなど、株主が実際に集まる場所を用意するのが従来の株主総会です。
しかし、インターネットを使えば、株主が同じ場所に集まらなくても経営者の説明を聞き、質問し、議決権を行使することができます。
それなら、そもそも株主総会にはなぜ「開催場所」が必要なのでしょうか。
この疑問を考えると、会社法が株主総会という制度をどのように設計してきたのか、そして完全オンライン化がなぜ大きな制度変更なのかが見えてきます。
株主総会は株式会社の重要な意思決定機関です
株式会社では、株主が会社に出資し、取締役などの経営者が実際の経営を行います。
しかし、すべてを経営者だけで決められるわけではありません。
取締役の選任や定款変更など、会社にとって重要な事項については株主総会で決議します。
株主総会は単なる会社説明会ではありません。
法律によって位置づけられた株式会社の重要な機関です。
そのため、いつ、どこで、どのような方法によって開催するのかについてもルールがあります。
株主総会を開くには招集が必要です
株主総会は、会社が突然開催してよいものではありません。
原則として取締役などが株主総会を招集します。
そして株主に対して、株主総会を開催することを事前に知らせます。
これが株主総会の招集です。
なぜ事前に知らせる必要があるのでしょうか。
株主には株主総会へ出席し、議案について検討し、議決権を行使する機会が保障されなければならないからです。
例えば、会社が一部の株主だけに株主総会の日時を知らせ、ほかの株主には知らせなかったらどうでしょうか。
知らせを受けなかった株主は意思決定に参加できません。
株主総会の招集手続きには、すべての株主に適切な参加機会を確保する意味があります。
招集するときには日時や場所などを決めます
従来の株主総会では、会社が招集を決める際に総会の日時や場所などを定めます。
例えば「6月25日午前10時、東京都内のホテル」というように開催場所を明確にします。
株主は招集通知などを確認し、その場所へ行けば株主総会に参加できます。
ここで重要なのは、開催場所が単なるイベント会場ではないことです。
そこが株主と経営陣が集まり、会社として意思決定をする場所になります。
従来の会社法制では、人が物理的な場所に集まって会議をすることを基本に制度がつくられてきました。
なぜリアル会場が前提だったのでしょうか
理由は非常に単純です。
現在のようなインターネット環境が存在しない時代には、離れた場所にいる大勢の人が同時に議論することが難しかったからです。
株主が経営者の説明を聞く。
株主が質問する。
議長が質問に答えるよう取締役に求める。
株主が議案について意思表示する。
その結果を集計して決議を成立させる。
こうした一連の手続きを確実に行うには、同じ場所に集まることが最も分かりやすい方法でした。
法律も当然、その社会的、技術的な前提をもとに整備されてきました。
開催場所には株主の出席機会を保障する意味があります
株主総会の場所をあらかじめ決めることには、株主の権利を守る意味もあります。
会社が自由に開催方法を変えられると、株主が参加しにくい場所を意図的に選ぶことも理論上は考えられます。
株主総会の招集手続きについてルールを設けることで、会社側だけの都合によって株主の参加機会が奪われることを防ぎます。
つまり開催場所に関するルールは、単なる事務手続きではありません。
株主が「そこへ行けば総会に参加できる」という機会を確保する役割があります。
株主は会場で経営者へ質問できます
リアル会場にはもう一つ重要な意味があります。
経営者と株主が直接向き合えることです。
株主総会では、一定の場合に取締役などが株主から求められた事項について説明する義務を負います。
業績が悪化した理由を聞きたい。
巨額の買収を行った理由を聞きたい。
不祥事について経営陣の責任を確認したい。
こうした場面では、経営者が実際に株主の前に立って説明すること自体に意味があると考えることもできます。
リアル会場は、会社の意思決定をする場所であると同時に、経営者が株主から直接問われる場所でもあるのです。
インターネットによって前提が変わりました
ところが、デジタル技術の発達によって「同じ場所に集まらなければ会議ができない」という前提が崩れました。
オンライン会議を考えれば分かりやすいでしょう。
東京、大阪、福岡にいる人が、それぞれのパソコンから同じ会議に参加できます。
映像と音声をリアルタイムで共有できます。
株主総会でも同じことが可能になっています。
株主はオンラインで経営陣の説明を聞き、質問を送り、電子的に議決権を行使することができます。
技術的には、物理的な会場がなくても株主総会の主要な機能を実現できるようになったわけです。
場所をなくすと新しい問題も生まれます
ただし、「インターネットでできるのだから会場は不要」と単純にはいきません。
リアル会場では、株主が会場に入れば総会へ参加できます。
完全オンラインの場合、インターネットに接続できなければ総会に参加できません。
会社側のシステムが停止する可能性もあります。
株主側の通信環境に問題が発生することもあります。
本人確認も必要です。
さらに株主が送った質問を会社がどのように取り扱うのかという問題もあります。
物理的な場所をなくすことで、これまで「会場」が担っていた機能を情報システムによって代替しなければならなくなります。
デジタル空間が新しい株主総会の会場になります
完全オンライン型の株主総会を考えるとき、「会場がなくなる」と考えるより、「会場がデジタル空間へ移る」と考えた方が分かりやすいかもしれません。
株主はホテルの入口で受付をする代わりに、IDやパスワードなどで本人確認をします。
会場で挙手する代わりに、オンラインシステムから質問を送ります。
投票用紙などを利用する代わりに、電子的に議決権を行使します。
物理的な会場が担っていた機能を、一つずつデジタル技術へ置き換えていくわけです。
そのため重要なのは、単に動画を配信できるかどうかではありません。
リアル会場と同じように株主の権利を行使できる環境をつくれるかどうかです。
会社法に恒久的な制度を設ける意味があります
現在、一定の上場会社については産業競争力強化法の特例を利用して、物理的な会場を設けないバーチャルオンリー株主総会を開催できる仕組みがあります。
会社法改正の議論では、こうした完全オンライン総会について会社法そのものの制度として整備することが論点となっています。
これは重要な変化です。
従来は「株主総会には物理的な場所がある」という考え方が基本でした。
完全オンライン型を会社法の一般的な制度として位置づければ、「株主総会を成立させるために物理的な場所が必ずしも必要ではない」という考え方へ転換することになります。
会社法がデジタル時代に合わせて、株主総会という会議そのものの概念を見直すことになります。
大切なのは場所ではなく株主の権利です
こうして考えると、株主総会で本当に重要なのはホテルやホールという物理的な場所ではないことが分かります。
株主が適切に総会の開催を知ることができる。
経営陣の説明を聞くことができる。
必要な質問ができる。
議案について議決権を行使できる。
そして会社がその意思を正確に集計できる。
こうした機能が確保されることが重要です。
リアル会場は長い間、それらを実現するための手段でした。
デジタル技術によって、別の方法でも同じ目的を実現できる時代になってきたのです。
結論
株主総会で開催場所が重視されてきたのは、株主と経営者が一つの場所に集まり、説明、質問、議決権行使、決議という一連の手続きを行うことを会社法制が前提としてきたからです。
開催場所をあらかじめ明らかにすることには、株主が総会へ参加する機会を保障する意味もあります。
しかし、インターネットの普及によって、同じ場所に集まらなくても株主総会の機能を実現できるようになりました。
その結果、株主総会に本当に必要なのは「場所」なのか、それとも「株主が適切に参加して権利を行使できる環境」なのかが改めて問われています。
完全オンライン化によって物理的な会場がなくなっても、株主の参加機会までなくしてよいわけではありません。
これからの会社法に求められるのは、リアル会場を前提として株主を守る仕組みから、リアルでもオンラインでも株主の権利を守れる仕組みへの転換だといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年9月7日 朝刊 会社と株主 変わる会社法下 株主総会の景色変えるか