日本はなぜ米国債を大量に持っているのか 過去の円売り介入が外貨準備として残る仕組み編

政策

日本政府は巨額の米国債を保有しています。

外国為替資金特別会計が持つ有価証券は100兆円を超える規模で、その多くが米国債とみられています。

なぜ日本政府はこれほど大量の米国債を持っているのでしょうか。

日本が米国政府を支援するために積極的に米国債を買い続けてきた、と考えると実態を見誤ります。

大きな理由は、過去に行ってきた円売りドル買い介入です。

政府が円高を抑えるために円を売ってドルを買えば、政府の手元には大量のドルが残ります。

そのドルを現金のまま保有するのではなく、安全性と流動性を重視して米国債などで運用します。

つまり現在の巨額の米国債は、過去の為替介入の結果として積み上がった外貨準備という側面があるのです。

円売りドル買い介入とは何か

円売りドル買い介入とは、政府が外国為替市場で円を売り、その代わりにドルを買う取引です。

主に急激な円高を抑えるために行われます。

例えば1ドル100円から急速に90円、80円と円高が進んだとします。

政府が円を売ってドルを買えば、外国為替市場では円を売る力とドルを買う力が加わります。

その結果、円高の勢いを抑える方向に働きます。

実際の介入は財務大臣の判断に基づき、日本銀行が代理人として実施します。

政府が円高を抑えるために買ったドルが、現在の外貨準備につながっています。

ドルを買うための円はどこから用意するのか

円売りドル買い介入では、政府はまず円を用意する必要があります。

しかし一般会計の税収から数兆円、数十兆円の円を取り出して介入するわけではありません。

政府短期証券を発行するなどして円資金を調達します。

その円を外国為替市場で売ってドルを買います。

取引を単純化すると、

政府短期証券で円を調達する

円を外国為替市場で売る

ドルを買う

買ったドルを外貨準備として保有する

という流れです。

この結果、外為特会にはドル建て資産が増える一方、その裏側には政府短期証券などの負債が残ります。

買ったドルは介入後も残る

為替介入というと、一時的に外国為替市場で売買して終わるように感じるかもしれません。

しかし円売りドル買い介入では、政府が取得したドルは介入後も政府の資産として残ります。

例えば政府が10兆円を売ってドルを買ったとします。

介入が終わっても、取得したドルが消えるわけではありません。

政府が保有する外貨資産になります。

こうした取引を何度も繰り返せば、外貨資産は積み上がっていきます。

日本の外貨準備が非常に大きくなった背景には、過去の円高局面で繰り返された円売りドル買い介入があります。

ドルを現金のまま置いておかない

政府が大量のドルを取得したとしても、それをすべてドル紙幣や無利息の預金として保有するのは効率的ではありません。

そこで外貨準備は運用されます。

財務省は外貨資産について、安全性と流動性を重視したうえで運用する考え方を示しています。

安全性とは、資産価値や元本の回収可能性などを重視することです。

流動性とは、必要になったときに大きな支障なく換金できることです。

外貨準備は利益を最大化するための投資資金ではありません。

必要なときに為替介入などへ利用できなければならないため、安全性と流動性が非常に重要になります。

なぜ米国債なのか

外貨準備の運用先として米国債が適している大きな理由は、米国債市場の規模です。

日本政府が運用する外貨資産は100兆円を超える規模です。

これほど巨額のお金を運用する場合、投資できる市場は限られます。

小さな債券市場に数兆円を投資しようとすれば、それだけで価格を大きく動かしてしまう可能性があります。

一方、米国債市場は世界最大級の債券市場です。

日々巨額の取引が行われています。

大量の資金を運用しやすく、必要な場合には売却しやすいという特徴があります。

外貨準備に求められる流動性という点で大きな利点があります。

ドルが国際通貨であることも重要

米国債が中心になるもう一つの理由は、ドルが世界の主要な国際通貨であることです。

国際貿易や金融取引ではドルが幅広く使われています。

外国為替市場でもドルは中心的な通貨です。

円相場についても、円とドルの交換レートは特に重要です。

そのため日本政府が為替介入に備えて外貨を持つ場合、ドル資産を保有する意味が大きくなります。

そして大量のドルを安全性と流動性の高い形で保有しようとすると、米国債が有力な選択肢になります。

安全性が重視される理由

外貨準備では、高い収益を狙うことより資産を確実に利用できることが重要です。

例えば高い利回りが期待できるからといって、外貨準備の大部分を値動きの激しい株式へ投資すればどうなるでしょうか。

急激な円安が起こり、為替介入が必要になったときに株価が暴落しているかもしれません。

介入に必要な資産を大きな損失を抱えた状態で売却することになります。

外貨準備には、必要なときに使えることが求められます。

そのため運用では安全性が重視されます。

米国債は信用力が高く、巨大な市場で取引されているため、外貨準備の運用先として重要な位置を占めています。

流動性が高いとはどういうことか

流動性が高いとは、必要なときに比較的容易に売買できることです。

例えば100億円の資産を持っていても、買い手がほとんどいなければすぐに現金化できません。

資産価値が100億円あることと、必要なときに100億円近くで売れることは別です。

為替介入では短期間に数兆円規模の取引が行われることがあります。

そのため外貨準備の運用先には、巨額の資産を迅速に換金できる市場が必要です。

米国債市場の厚みは、この点で大きな意味を持っています。

米国債から利子収入も得られる

米国債を保有すると利子を受け取ることができます。

外為特会にとって、この利子は重要な運用収入になります。

外為特会では毎年度、数兆円規模の剰余金が生じることがあります。

その背景の一つが、米国債などから得られる運用収入です。

つまり過去の為替介入によって取得したドルは、

外貨準備として保有される

米国債などで運用される

利子収入を生む

という流れになっています。

この収入の一部は、最終的に一般会計への繰り入れを通じて国の財源にもつながっています。

米国債にも価格変動リスクはある

米国債は安全性が高い金融資産とされていますが、価格がまったく変動しないわけではありません。

特に重要なのが金利です。

債券価格と市場金利は基本的に反対方向に動きます。

米国の長期金利が上昇すると、すでに発行されている債券の市場価格は下落する方向に動きます。

日本政府は大量の米国債を保有しているため、米国の金利変動による影響も大きくなります。

安全性が高いということと、市場価格が変動しないということは同じではありません。

為替変動リスクも非常に大きい

日本政府にとっては、米国債そのものの価格変動だけでなく、ドルと円の為替レートも重要です。

100億ドルの米国債を持っている場合、1ドル100円なら1兆円です。

1ドル150円なら1兆5000億円です。

円安になれば円換算した資産価値は増えます。

円高になれば減ります。

外為特会が巨額の為替換算上の利益を持っているのも、大量のドル建て資産を保有しているためです。

つまり日本政府が米国債を大量に持つことは、同時に大きなドル円の為替変動リスクを持つことでもあります。

日本が米国債を売ることにも意味がある

外貨準備が多すぎるのであれば、米国債を売却すればよいように思えるかもしれません。

しかし日本政府が大量の米国債を保有しているからこそ、売却する場合の市場への影響も大きくなります。

米国債を大量に売れば、米国債価格を押し下げ、米国の長期金利を押し上げる方向に働く可能性があります。

さらに日本は米国にとって重要な経済関係を持つ国です。

日本政府が外貨準備として保有している米国債を大量に売却すれば、市場では単なる資産運用の変更以上の意味を持って受け止められる可能性があります。

巨額の外貨準備は、積み上げるだけでなく減らす場合にも慎重さが求められます。

米国債は政府の自由な貯金ではない

日本政府が100兆円を超える規模の外貨建て証券を持っていると聞くと、巨額の貯金があるように感じるかもしれません。

しかし、その多くは過去の為替政策の結果として積み上がったものです。

さらに外貨資産を取得するための円は、政府短期証券を発行するなどして調達してきました。

つまり、

資産として米国債がある

その裏側には円の負債がある

という構造です。

米国債の残高だけを見て、政府が自由に使える財産が同じ金額だけ存在すると考えることはできません。

結論

日本政府が大量の米国債を持っている大きな理由は、過去の円売りドル買い介入です。

政府は急激な円高を抑えるため、政府短期証券を発行するなどして円を調達し、その円を売ってドルを買ってきました。

取得したドルは介入後も外貨準備として残ります。

そして巨額のドルを現金のまま保有するのではなく、安全性と流動性を重視して米国債などで運用します。

米国債市場は世界最大級の規模を持ち、巨額の資金を運用しやすいうえ、必要になったときに売却しやすいという特徴があります。

さらにドルが国際金融取引の中心的な通貨であることも、米国債が外貨準備の中心になりやすい理由です。

つまり日本政府の巨額の米国債保有は、単なる投資判断の結果ではありません。

過去の為替介入によって取得したドルを、為替政策に必要な外貨準備として安全性と流動性を重視しながら運用してきた結果なのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月29日 朝刊 「外為特会で減税」は悪手

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