働いて得る給与だけが、家計の所得ではありません。
銀行に預けたお金から利子を受け取ることがあります。株式を保有していれば配当を受け取ることもあります。
こうした資産を保有することによって得られる所得が財産所得です。
内閣府によると、家計の可処分所得のうち利子や配当などを指す財産所得は2025年に33.6兆円となり、20年前の1.8倍に達しました。
上場企業の配当総額は2027年3月期に23兆円となる見通しで、新NISAを通じた個人の株式投資も広がっています。
日本の家計にとって、働いて給与を得るだけでなく、保有する金融資産から所得を得るという経路の重要性が高まっています。
財産所得とは何か
財産所得とは、保有する資産から生まれる所得を指します。
代表的なのが利子や配当です。
預貯金を保有していれば利子を受け取ります。
株式を保有していれば企業から配当を受け取ることがあります。
投資信託から分配金を受け取る場合もあります。
つまり、自分自身が働いた対価として受け取る所得ではなく、保有する資産が生み出す所得です。
家計にとっては給与などと並ぶ所得源の一つになります。
給与所得とは何が違うのか
給与は基本的に働くことによって得られます。
会社員であれば、企業に労働力を提供し、その対価として給与を受け取ります。
働く時間や役割、能力などと所得が結び付いています。
これに対して財産所得は、資産を保有することによって生まれます。
例えば100万円を預金して利子を受け取る場合、その利子を得るために毎日一定時間働くわけではありません。
株式も同様です。
企業の株式を保有することで、その企業が生み出した利益の一部を配当として受け取ることができます。
労働を提供して得る所得と、資産を保有して得る所得。
ここに大きな違いがあります。
利子はどのように生まれるのか
財産所得の代表が利子です。
家計が銀行に預金すると、その資金は銀行の金融活動を支える資金になります。
銀行は企業や個人への貸し出しなどを行い、その対価として金利を受け取ります。
家計は預金を提供する代わりに預金金利を受け取ります。
長期間にわたって超低金利が続いた日本では、預金から得られる利子は非常に小さくなっていました。
しかし金利環境が変化すれば、預金や債券などから得られる利子所得も変化します。
金利上昇は住宅ローンなどの借り手には負担になりますが、金融資産を持つ家計には利子所得を増やす方向に働く場合があります。
配当は企業利益が家計へ移る仕組み
もう一つの代表的な財産所得が配当です。
企業が事業活動によって利益を稼ぐと、その利益にはいくつかの使い道があります。
設備投資に使うことができます。
研究開発やM&Aに回すこともできます。
企業内部に利益を残すこともできます。
そして、その一部を株主へ配当として支払うこともできます。
つまり配当は、企業が生み出した利益の一部を株主である家計へ移す仕組みです。
上場企業の利益が増え、株主還元が強化されれば、株式を保有する家計が受け取る財産所得も増える可能性があります。
配当総額23兆円の意味
2027年3月期の上場企業の配当総額は、前期比6%増の23兆円となる見通しです。
6年連続で過去最高となり、集計対象約2200社のうち1010社が増配を予想しています。
企業が稼いだ利益が企業内部だけに蓄積されるのではなく、配当という形で株主へ流れる金額が拡大していることを意味します。
もちろん23兆円のすべてを日本の家計が受け取るわけではありません。
株式は金融機関や事業法人、外国人投資家なども保有しています。
それでも個人の株式保有が広がれば、企業利益と家計所得を結ぶ経路は太くなっていきます。
個人にはどの程度の配当が入るのか
東京証券取引所の株式分布状況調査では、国内上場企業の株式の17%を個人が保有しています。
仮に23兆円の配当総額に単純に17%を掛ければ、約4兆円になります。
実際には企業ごとの株主構成などが異なるため単純計算通りになるわけではありません。
それでも、日本企業の配当拡大が家計所得に無視できない規模の影響を与えるようになっていることが分かります。
企業の好業績が賃上げだけでなく、株主への配当という経路でも家計へ流れるようになっているのです。
財産所得33.6兆円とは何を意味するのか
内閣府によると、2025年の家計の財産所得は33.6兆円に達しました。
20年前の1.8倍です。
これは家計が金融資産などから受け取る所得の存在感が大きくなっていることを示しています。
33.6兆円という規模になると、財産所得は一部の投資家だけの問題とは言い切れません。
家計全体の所得や消費を考えるうえでも重要な要素になっています。
企業の増配や金利環境の変化が、家計の可処分所得に影響する時代になっているのです。
新NISAが財産所得の裾野を広げる
財産所得の拡大を考えるうえで重要なのがNISAです。
株式や投資信託を保有する人が増えれば、企業利益や金融市場から家計へ所得が流れる経路も広がります。
特にNISAでは、制度上の条件を満たせば投資によって得られる配当や売却益を非課税にできます。
課税によって手取りが減りにくいため、資産形成を続けるうえで大きな意味があります。
これまで預貯金中心だった家計が株式や投資信託を持つようになれば、家計所得の構造そのものが少しずつ変化する可能性があります。
給与と財産所得の二つの経路を持つ
会社員の家計を考えてみます。
これまでは、
働く
給与を受け取る
消費する
貯蓄する
という流れが中心でした。
しかし金融資産を保有する家計では、
働いて給与を受け取る
給与の一部を投資する
企業から配当を受け取る
配当を消費または再投資する
という新しい循環が加わります。
給与が労働から生まれる所得なら、配当や利子は資産から生まれる所得です。
二つの所得源を持つ家計が増えることは、家計所得の構造を変える可能性があります。
財産所得は年齢を重ねても得られる
財産所得には、給与とは異なる特徴があります。
給与を得るには基本的に働き続ける必要があります。
退職すれば給与収入は大きく減ることがあります。
一方、金融資産を保有していれば、退職後でも利子や配当を受け取ることができます。
そのため現役時代に金融資産を形成し、退職後にその資産から所得を得るという考え方があります。
公的年金。
預貯金の取り崩し。
配当や利子。
必要に応じた金融資産の売却。
こうした複数の資金源を組み合わせることが、長寿化する社会では重要になります。
財産所得には元本変動のリスクがある
ただし、財産所得には注意点があります。
特に株式の配当は預金の利子と同じではありません。
企業業績が悪化すれば減配される可能性があります。
株価そのものが大幅に下落することもあります。
年間5万円の配当を受け取っても、保有株式の価値が20万円下落することがあります。
そのため財産所得を見るときには、受け取る利子や配当だけでなく、元本価格の変動も含めて考える必要があります。
高い財産所得を得るために過大なリスクを取ればよいわけではありません。
財産所得が増えても全家計が同じ恩恵を受けるわけではない
財産所得の拡大には、もう一つ重要な問題があります。
資産を多く持つ家計ほど、多くの財産所得を受け取りやすいという点です。
100万円の金融資産を持つ家計と1億円を持つ家計では、同じ利回りでも受け取る所得は大きく異なります。
年3%なら、
100万円では3万円
1億円では300万円
です。
したがって企業の配当が増え、金利が上昇して財産所得全体が増えても、その恩恵がすべての家計に均等に及ぶわけではありません。
財産所得の拡大は、家計所得を押し上げる側面と、資産保有の違いを通じて所得格差に影響する側面の両方を持っています。
配当を消費するか再投資するか
家計が受け取った財産所得を何に使うのかも重要です。
配当を生活費に使えば消費につながります。
企業利益が配当を通じて家計へ移り、その資金が消費として再び企業部門へ戻ります。
一方、配当を再投資すれば金融資産が増えます。
増えた金融資産からさらに配当を受け取れば、将来の財産所得が増える可能性があります。
同じ配当でも、
現在の消費に使う
将来の所得を生み出す資産へ変える
という二つの選択肢があります。
財産所得の増加は日本経済にも影響する
企業の増配によって家計の配当所得が増えれば、その一部は消費へ回る可能性があります。
元の記事では、配当増額による個人消費の刺激を通じてGDPを0.015%程度押し上げるとの試算も紹介されています。
数字としては大きく見えないかもしれません。
しかし、従来は企業利益の増加と家計消費を結ぶ経路として賃金が特に重視されてきました。
そこに配当という別の経路が加わっていることが重要です。
企業が利益を増やす。
配当を増やす。
家計の財産所得が増える。
その一部が消費へ向かう。
こうした循環が強くなれば、企業利益と家計消費の関係も変わっていきます。
結論
財産所得とは、家計が保有する資産から得る利子や配当などの所得です。
給与が働くことで得る所得であるのに対し、財産所得は保有する資産が生み出す所得です。
2025年の家計の財産所得は33.6兆円に達し、20年前の1.8倍になりました。
さらに上場企業の配当総額は2027年3月期に23兆円へ拡大する見通しです。
新NISAを通じて個人の株式投資が広がれば、企業利益が配当として家計へ流れる経路はさらに重要になる可能性があります。
給与を受け取り、その一部で金融資産を形成し、その金融資産から利子や配当を得る。
日本の家計は、労働所得だけではなく財産所得も組み合わせる時代へ少しずつ移っています。
ただし、財産所得は資産を保有する家計ほど多く受け取りやすく、株式には価格変動や減配のリスクもあります。
そして経済全体で重要になるのは、増えた配当所得が実際に消費へ向かうのかという問題です。
企業利益が配当を通じて家計へ移り、それが消費を押し上げるのであれば、企業の株主還元は家計だけでなくGDPにも波及することになります。
参考
日本経済新聞 2026年8月13日 朝刊 上場企業、配当総額23兆円