企業グループでは、事業の効率化やリスク分散、専門性の強化などを目的として子会社を設立することがあります。こうした組織再編は企業経営において一般的な手法であり、多くの企業で活用されています。
しかし近年、子会社を利用して非上場株式の評価額を引き下げるスキームが問題となっています。
2026年7月に開催された国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」でも、子会社を利用した複数の株価圧縮事例が取り上げられ、制度見直しの重要な論点となりました。
今回は、子会社を利用した株価圧縮スキームがなぜ問題視されているのか、その背景と今後の実務への影響について考えてみます。
子会社を設立すること自体に問題はない
最初に理解しておきたいのは、子会社を設立・保有すること自体は何ら問題がないということです。
例えば、
新規事業を立ち上げる
海外事業を展開する
不動産管理を行う
グループ会社を整理する
といった目的で子会社を設立することは、企業経営としてごく自然な判断です。
税法も、このような事業上の必要性に基づく組織再編を否定しているわけではありません。
問題となるのは評価額だけを目的とした利用
国税庁が問題視しているのは、子会社の設立や取引そのものではありません。
問題なのは、
「非上場株式の評価額を引き下げることだけを目的として子会社を利用するケース」
です。
有識者会議では、
子会社の会社規模を操作する事例
親会社と子会社の評価方法を意図的に変える事例
子会社との取引を利用して親会社の評価額を下げる事例
などが紹介されました。
いずれも会社グループ全体の実態はほとんど変わらないにもかかわらず、自社株の評価額だけが大きく変化する点が問題視されています。
なぜ評価額が変わるのか
非上場株式の評価では、
会社規模
資産構成
利益水準
評価方式
などが評価額に影響します。
子会社を利用してこれらの条件を変更すると、適用される評価方式や計算割合が変わる場合があります。
その結果、
類似業種比準価額方式
純資産価額方式
併用方式
の適用割合が変化し、自社株評価が下がることがあります。
制度上は一定のルールに従った結果であっても、その変更に経済的な意味が乏しければ、本来の制度趣旨とは異なる利用と考えられる可能性があります。
組織再編と租税回避の境界
企業は経営環境の変化に応じて組織再編を行います。
その際、税負担も経営判断の一つとして考慮されることは当然です。
しかし、
税負担だけが目的なのか
事業上の合理性があるのか
企業価値の向上につながるのか
によって評価は大きく変わります。
例えば、
事業の集約
経営効率の改善
ガバナンス強化
リスク管理
など、明確な経営目的があれば、組織再編には十分な合理性があります。
一方で、評価額を引き下げることだけを目的とした再編であれば、税務上のリスクが高まる可能性があります。
有識者会議が目指す制度見直し
今回の有識者会議では、子会社を利用した評価額圧縮スキームについても詳しい資料が示されました。
国税庁は、
評価制度の公平性
納税者間のバランス
制度の信頼性
を維持するため、こうしたスキームを利用しにくい制度へ見直したい考えを示しています。
具体的な制度改正は今後の議論を待つ必要がありますが、形式だけではなく実態を重視する方向性は明確になっています。
実務で求められる視点
今後、事業承継や組織再編を検討する際には、
なぜ子会社を設立するのか
その取引に経済合理性があるのか
組織再編後にどのような経営効果が期待できるのか
を明確に説明できることが重要になります。
税務だけではなく、
経営戦略
資本政策
ガバナンス
企業価値向上
という観点から判断することが求められるでしょう。
税理士に期待される役割
税理士には、制度の隙間を探すことではなく、制度の趣旨を踏まえた助言が求められる時代になっています。
子会社を活用した組織再編を提案する場合でも、
事業目的
経済合理性
税務リスク
将来の事業承継
まで含めて総合的に検討する必要があります。
評価額だけを追い求めるのではなく、企業の持続的な発展につながる提案こそが、これからの税務実務では重要になるでしょう。
結論
子会社を利用した株価圧縮スキームが問題視されているのは、会社グループ全体の実態がほとんど変わらないにもかかわらず、非上場株式の評価額だけを引き下げることを目的とした取引が行われるケースがあるためです。
子会社の設立や組織再編そのものは、経営上の合理的な判断として重要な役割を果たします。しかし、その目的が税負担の軽減だけに偏る場合には、制度の趣旨から外れる可能性があります。
今後の制度見直しでは、形式的な組織再編ではなく、事業目的や経済合理性を備えた取引であるかどうかが、これまで以上に重視されることになるでしょう。事業承継に携わる経営者や税理士には、長期的な企業価値の向上という視点に立った判断が求められています。
参考
税のしるべ 2026年7月13日号(1面)
取引相場のない株式の評価に関する有識者会議に現評価方法を濫用したスキーム8事例、次回8月の会合に議論の「たたき台」を提示
国税庁「財産評価基本通達」