ふるさと納税というと、自治体に寄付をして肉や魚、果物などの返礼品を受け取る制度というイメージが強いかもしれません。
しかし、ふるさと納税では寄付金の使い道を指定できる場合があります。その仕組みを利用して、大学への支援を目的とした寄付を受け付ける自治体が増えています。
いわゆる大学版ふるさと納税です。
卒業した大学や応援したい大学へ直接寄付するのではなく、大学が所在する自治体などへふるさと納税を行い、その寄付金を大学支援に活用してもらいます。
少子化によって大学経営を取り巻く環境が厳しくなる一方、自治体にとって大学は教育機関であるだけでなく、若者や研究者、企業などを地域に呼び込む重要な存在です。
大学版ふるさと納税は、大学の資金調達と地方創生を結び付ける仕組みとして注目されています。
通常のふるさと納税との違い
大学版ふるさと納税という独立した税制が存在するわけではありません。
基本的には通常のふるさと納税の仕組みを利用します。
ふるさと納税では、個人が自治体へ寄付すると、一定の上限まで寄付額のうち二千円を超える部分について所得税や住民税から控除を受けることができます。
寄付先は自分の出身地である必要はありません。
応援したい自治体を自由に選ぶことができます。
大学版の場合に特徴的なのは、寄付金の使い道として大学支援を選択できることです。
例えば自治体のふるさと納税の申し込み画面で、特定の大学への支援を選択できる仕組みなどがあります。
寄付者から見ると自治体へのふるさと納税ですが、その目的は大学への支援となります。
このため、通常のふるさと納税が地域全体を応援する仕組みだとすれば、大学版ふるさと納税は、その使途を大学支援まで具体化した仕組みと考えることができます。
寄付金は自治体を経由して大学へ渡る
大学版ふるさと納税で重要なのは、お金の流れです。
寄付者が大学へ直接お金を振り込むわけではありません。
まず寄付者が自治体へふるさと納税をします。
自治体が寄付金を受け取り、その後、自治体が定めた仕組みに従って大学へ資金を交付します。
つまり、寄付者から自治体、自治体から大学という流れになります。
自治体によっては、寄付額から事務経費や返礼品に必要な費用などを差し引いた金額を大学へ交付します。
今回の関西大学と大阪府吹田市の事例では、返礼品を伴わない寄付については総額の七割を大学へ交付し、残りを市の諸経費に充てます。
返礼品付きの場合には、寄付額のおよそ四割が大学に支給されます。
したがって、十万円を寄付したからといって、その十万円がそのまま大学へ渡るとは限りません。
大学への交付割合や経費の扱いは自治体の制度によって異なるため、寄付する際には確認しておく必要があります。
なぜ大学を指定して寄付できるのか
ふるさと納税は自治体に対する寄付です。
それにもかかわらず、なぜ特定の大学を指定できるのでしょうか。
理由は、自治体が寄付金の使途として大学支援事業を設けているからです。
自治体はふるさと納税で集めた寄付金を、子育て、教育、福祉、環境保護、地域産業振興など様々な政策に活用しています。
その一つとして大学支援を位置付けることができます。
さらに自治体によっては、支援対象となる大学を複数用意し、寄付者が大学を選択できる仕組みを設けています。
例えば自分の母校が対象となっていれば、卒業生はふるさと納税を通じて母校を支援できます。
大学側から見ても大きなメリットがあります。
従来の大学寄付では、大学が卒業生などへ直接寄付を呼びかける必要がありました。
大学版ふるさと納税なら、広く普及しているふるさと納税の仕組みを利用して、新しい寄付者との接点をつくることができます。
税負担の軽減を受けられることや、自治体によっては返礼品を受け取れることも、初めて寄付する人の心理的なハードルを下げます。
大学ならではの返礼品も登場している
大学版ふるさと納税では、大学の特徴を生かした返礼品を用意する動きもあります。
関西大学では、学生食堂の食事券や講演の聴講権などを用意しました。
高額寄付者には学長や理事長が案内するキャンパスツアーも企画されています。
北海道江別市の酪農学園大学では、学生らが飼育した牛の乳を使った乳製品などが返礼品となっています。
信州大学では、農学部の学生が育てたヤマブドウを使ったワインなどが、栽培地である長野県南箕輪村への寄付の返礼品となっています。
こうした返礼品は、単なる商品ではありません。
大学で行われている教育や研究を寄付者に知ってもらう役割も果たします。
寄付を入り口として大学の活動を知り、大学に対する関心を深めてもらうことができます。
自治体が大学を支援する理由
大学版ふるさと納税では自治体が重要な役割を担います。
では、なぜ自治体が大学への寄付集めを支援するのでしょうか。
大学は地域経済に大きな影響を与える存在だからです。
大学には学生、教職員、研究者が集まります。
学生が地域で暮らせば、住宅、飲食、小売り、交通など様々な需要が生まれます。
卒業後にその地域で就職したり、起業したりする人が増えれば、人口減少対策にもつながります。
研究面でも大学の存在は重要です。
地域企業と大学が共同研究を行えば、新しい商品や技術が生まれる可能性があります。
農業や観光、医療、福祉など地域が抱える課題について、大学の研究者や学生が解決に参加することもできます。
つまり自治体にとって大学は、単なる学校ではなく地域の人的資本や知的資本を支える拠点でもあります。
大学への寄付を集めることは、長期的には地域そのものへの投資になるわけです。
若者を地域につなぎ留める効果もある
地方自治体にとって特に深刻なのが若年人口の流出です。
高校卒業後に若者が大都市圏へ進学し、そのまま戻ってこない地域は少なくありません。
地域に魅力的な大学が存在すれば、若者を地域へ呼び込むことができます。
さらに大学と地域企業が連携してインターンシップや共同研究、就職支援などを行えば、卒業後も地域に残る人を増やせる可能性があります。
そのため、大学の教育環境や研究力を高めることは自治体の人口政策とも無関係ではありません。
大学版ふるさと納税には、大学への資金援助だけではなく、大学を核として地域に若者や企業を呼び込むという地方創生の側面があります。
母校への寄付の入口を広げられる
大学にとって大きな課題の一つが、卒業生との関係です。
卒業後も同窓会などを通じて大学と関係を持つ人がいる一方、卒業と同時に大学との接点がほとんどなくなる人もいます。
その人たちに突然寄付を求めても、簡単には応じてもらえません。
大学版ふるさと納税では、返礼品などをきっかけとして母校との接点をつくり直すことができます。
最初は数万円程度の寄付だったとしても、大学の教育や研究について継続的に情報を受け取ることで、大学への関心が高まる可能性があります。
その後、返礼品を目的としない直接寄付や継続寄付、さらに企業経営者となった卒業生からの企業寄付へ発展することも考えられます。
大学にとって重要なのは、一回の寄付額を最大化することだけではありません。
長期間にわたって大学を応援してくれる支援者を増やすことです。
大学版ふるさと納税は、その最初の入口として利用できる仕組みです。
結論
大学版ふるさと納税とは、通常のふるさと納税の仕組みを利用し、自治体を通じて大学を支援する方法です。
寄付者は自治体へふるさと納税を行い、寄付金の使い道として特定の大学などを選びます。自治体は必要な経費などを差し引いたうえで、大学への支援に寄付金を活用します。
大学にとっては、新しい寄付者を開拓できるというメリットがあります。
自治体にとっても、大学を支援することによって若者の流入や地域企業との共同研究、地域産業の活性化などにつなげられる可能性があります。
そして寄付者にとっては、ふるさと納税という身近な制度を利用して母校や応援したい大学を支援できます。
大学版ふるさと納税は、寄付者、大学、自治体の三者を結び付ける仕組みです。
少子化と人口減少が進むなか、大学への寄付を単なる資金補填ではなく、地域の教育や研究、人材育成への投資として位置付けられるかどうかが、今後の広がりを左右することになりそうです。
参考
日本経済新聞 2026年8月18日 朝刊 大学、個人寄付呼び込む ふるさと納税活用し文化醸成