法人税で赤字が発生した場合、一定の要件を満たせば、その欠損金を過去の所得に繰り戻して、すでに納付した法人税の還付を受けられる制度があります。
ところが、通常の青色欠損金の繰戻還付には法人の規模による制限があります。
そのため、大企業の経理担当者であれば、繰戻還付は自社では使えない制度だと考えているかもしれません。
しかし、地震や豪雨などによって発生した災害損失欠損金額については事情が異なります。
災害損失の繰戻還付には通常の欠損金制度とは異なる特例があり、大法人であっても利用できる可能性があります。
通常の欠損金にも繰戻還付制度がある
まず通常の制度から確認します。
青色申告書を提出する法人に欠損金が生じた場合には、一定の要件のもとで欠損金を前の事業年度へ繰り戻し、過去に納付した法人税の還付を請求する制度があります。
現在の赤字と過去の黒字を対応させる仕組みです。
例えば前年に利益を計上して法人税を納付し、今年赤字になった場合には、一定の範囲で前年の法人税の還付を受けることが考えられます。
通常の繰戻還付には適用停止がある
ただし、通常の青色欠損金の繰戻還付については、租税特別措置法による適用停止があります。
一定の中小企業者等などを除き、通常の欠損金について自由に繰戻還付を利用できるわけではありません。
そのため、大法人では欠損金が発生しても、基本的には将来の所得へ繰り越して利用するという場面が多くなります。
この通常ルールだけを知っていると、大企業は災害時にも繰戻還付を使えないと思ってしまう可能性があります。
災害損失欠損金には別の取扱いがある
災害損失欠損金額については、通常の欠損金とは異なる取扱いがあります。
地震、風水害、火災など一定の災害によって棚卸資産や固定資産などに損失が生じ、その結果として欠損金が発生した場合には、災害損失欠損金額の繰戻還付を検討できます。
そして、この災害損失欠損金額については、通常の青色欠損金の繰戻還付に設けられている適用停止とは異なる仕組みになっています。
そのため、大法人であっても対象になり得ることが大きな特徴です。
なぜ大企業にも認められるのか
災害は企業規模に関係なく発生します。
大企業であっても、大規模な工場や物流拠点が被災すれば巨額の損失が生じることがあります。
さらに、事業を早期に再開するためには設備の修理、商品の再調達、従業員への対応など多額の資金が必要になります。
災害損失の繰戻還付は、通常の企業活動による赤字とは異なる突発的な災害損失に対応する制度です。
企業規模だけを理由に通常の繰戻還付と同じように考えないことが重要です。
大企業なら赤字全額を繰り戻せるという意味ではない
ここは注意が必要です。
大法人でも災害損失欠損金額の繰戻還付を利用できる可能性があるからといって、その事業年度に発生した欠損金全額について自由に繰戻還付を受けられるという意味ではありません。
例えば会社全体で100億円の欠損金が発生したとします。
そのうち20億円が災害による棚卸資産や固定資産などの損失で、残り80億円が通常の営業活動による赤字だったとします。
災害損失の特例を検討するときには、この20億円に対応する災害損失欠損金額を適切に把握することが重要になります。
会社全体の赤字と災害による損失を区分する必要があります。
被災資産ごとに損失を把握する
大企業では被災資産の種類も多くなります。
工場建物、店舗、倉庫、機械設備、商品、原材料、仕掛品などが同時に被害を受けることがあります。
複数の地域に事業所を持つ企業では、一部の拠点だけが被災することもあります。
そのため、会社全体の決算数字だけを見ても災害損失の金額は分かりません。
どの事業所のどの資産が被害を受け、帳簿価額はいくらで、損失額はいくらなのかを整理する必要があります。
保険金などの補填額も確認する
大企業では損害保険の契約も複雑になりやすくなります。
例えば工場建物については保険金が支払われても、商品や原材料については別の契約になっていることがあります。
災害によって100億円の被害が発生していても、80億円が保険金などで補填される場合と、ほとんど補填されない場合では状況が大きく異なります。
災害損失欠損金額を計算するときには、保険金などによって補填される金額との関係を確認する必要があります。
被害額と保険金を資産ごとに対応させて管理することが重要です。
通常の欠損金制度との違いを整理する
通常の青色欠損金の繰戻還付と災害損失欠損金額の繰戻還付には、いくつか重要な違いがあります。
通常の繰戻還付では法人の規模による適用停止が問題になります。
これに対して災害損失欠損金額については、大法人でも利用できる可能性があります。
また、災害損失については一定の場合に仮決算による中間申告の段階で還付を請求できる仕組みがあります。
さらに青色申告法人では、一定の場合に過去2年間を対象として還付を検討できるという特徴もあります。
災害時には通常の欠損金制度とは別に制度を確認する必要があります。
中間申告で還付できる可能性も重要になる
大規模災害が事業年度の前半に発生した場合、決算まで長期間残っていることがあります。
例えば3月決算の会社が5月に大きな災害に遭った場合、翌年3月の決算まで待つと、還付請求までかなり時間がかかります。
災害損失欠損金額については、一定の場合に仮決算による中間申告を利用して還付を請求できる仕組みがあります。
これは企業規模にかかわらず、早期の復旧資金確保という点で重要な意味を持ちます。
大企業ほど初動での情報収集が重要になる
大企業では経理部門と被災現場が離れていることがあります。
本社の経理担当者が被害状況を把握するまでに時間がかかるケースも考えられます。
そのため、災害が発生したときには各拠点から被害情報を集める仕組みが重要になります。
被災資産の名称、取得価額、帳簿価額、被害内容、写真、廃棄の有無、復旧費用、保険金の見込みなどを整理します。
通常の決算作業とは別に、災害関連の情報を一元管理すると、その後の還付請求にも対応しやすくなります。
繰戻還付は企業規模だけで判断しない
税務制度には中小企業だけが利用できる特例が数多くあります。
そのため、大企業では特例という言葉を見ただけで、自社には関係がないと判断してしまうことがあります。
しかし、災害損失欠損金額の繰戻還付については、そのような判断は適切ではありません。
通常の欠損金の繰戻還付が適用停止となる法人であっても、災害損失については別途検討する必要があります。
災害時には通常時の税務知識をそのまま当てはめるのではなく、災害に対応した特例がないかを確認することが重要です。
結論
通常の青色欠損金の繰戻還付には、一定の法人について適用停止があります。
そのため、大法人では欠損金が発生しても、繰戻還付を利用できないケースがあります。
しかし、地震、風水害、火災などによって生じた災害損失欠損金額については、通常の欠損金とは異なる特別な取扱いがあります。
大法人であっても、一定の要件を満たせば過去に納付した法人税の繰戻還付を検討できます。
ただし、その事業年度の赤字全額が対象になるわけではありません。
通常の営業赤字と災害によって棚卸資産や固定資産などに生じた損失を区分し、保険金などによる補填額も確認する必要があります。
災害が発生したときには、企業規模だけで繰戻還付の利用可否を判断せず、災害損失欠損金額に該当する損失がないかを確認することが重要です。
参考
税のしるべ 2026年9月21日 特集 災害発生 そのとき法人税務はどうなる? 災害に伴う支援と損失処理
法人税法 第80条
法人税法施行令 第155条の2
租税特別措置法 第66条の12