近年はNISAや海外ETFの普及により、個人投資家が外貨建て資産を保有する機会が増えています。円安が続くなか、米ドルやユーロなどの外貨を保有したまま運用する人も少なくありません。
そのような中、2026年6月16日に最高裁判所は、外貨を別の外貨に交換した場合や、保有する外貨で同じ通貨建ての有価証券を購入した場合に生じる為替差益について、所得税を課税することは適法であるとの初めての判断を示しました。
多くの投資家は「円に戻して初めて利益が確定するのではないか」と考えがちです。しかし今回の判決は、その常識に一石を投じる内容となっています。
為替差益とは何か
為替差益とは、外貨を取得した時と処分した時の為替レートの差によって生じる利益です。
例えば、1ドル100円の時に1万ドルを取得した場合、その取得価額は100万円です。
その後、1ドル150円になった時点で別の外貨へ交換した場合、その1万ドルの価値は150万円になります。
この50万円が為替差益です。
一般的には円に換金した時に利益を実感しますが、税務上は必ずしも円への交換が必要とは限りません。
最高裁が示した考え方
今回の判決で最高裁は、外貨を別の外貨へ交換した時点で、それまで変動していた外貨の価値が確定すると判断しました。
つまり、米ドルからユーロへ交換した場合、その瞬間に米ドルの保有を終了し、新たにユーロを取得したことになります。
そのため、取得時より価値が上昇していれば、その利益は実現した所得と考えるべきであるという理屈です。
また、保有している外貨で同一通貨建ての有価証券を購入した場合も同様とされました。
例えば、米ドルで米国株や米国債を購入した場合も、保有していた米ドルを処分したと考え、その時点で為替差益が認識されることになります。
投資家が誤解しやすいポイント
多くの投資家は「円に戻していないので利益は確定していない」と考えています。
しかし税務上は「円に戻したかどうか」ではなく、「保有していた外貨を処分したかどうか」が重要になります。
例えば次のような取引は課税対象となる可能性があります。
・米ドルをユーロへ交換する
・米ドルを豪ドルへ交換する
・米ドルで米国ETFを購入する
・米ドルで米国株を購入する
一方で、単純に外貨を保有しているだけであれば、一般的には為替差益は実現していないため課税されません。
この違いを理解していないと、思わぬ申告漏れにつながる可能性があります。
なぜ計算が難しいのか
今回の判決を受けて改めて注目されているのが納税者の計算負担です。
外貨投資を長年続けている人は、複数の金融機関に口座を持っていることも珍しくありません。
その場合、
・いつ取得した外貨なのか
・取得時の為替レートはいくらか
・どの外貨を処分したのか
・処分時のレートはいくらか
を一つひとつ管理する必要があります。
さらに円安や円高が繰り返される中で取引回数が増えると、計算は非常に複雑になります。
実際には投資家自身が計算しなければならないケースも多く、税務上の負担は決して小さくありません。
今後の制度見直しの可能性
今回の判決では、裁判官による補足意見も注目されています。
補足意見では、外貨建て投資が一般化する中で、常に円換算で所得を把握する現行制度そのものについて再検討が必要ではないかとの問題提起がなされました。
また、学識経験者からは一定期間の平均レートを活用する方法など、より簡便な計算制度の導入を求める意見も出ています。
今後、税制改正や制度整備の議論が進む可能性があります。
資産形成時代に求められる税務リテラシー
NISAの普及や海外投資の一般化により、多くの個人が外貨を保有する時代になりました。
しかし、投資商品の知識だけでは十分ではありません。
どのタイミングで課税されるのか、どのような記録を残すべきなのかを理解しておかなければ、後から想定外の税負担に直面する可能性があります。
特に人生100年時代では、老後資金の一部を海外資産で運用する人も増えていくでしょう。
だからこそ、投資知識と同じくらい税務知識が重要になっています。
結論
今回の最高裁判決は、「外貨を円に戻していないから課税されない」という考え方を明確に否定したものです。
外貨を別の外貨へ交換した場合や、外貨で有価証券を購入した場合でも、為替差益が実現したと判断されれば所得税の課税対象になります。
今後、海外投資がさらに一般化する中で、投資家には資産運用だけでなく税務管理能力も求められるようになります。資産を増やすことだけでなく、税金を正しく理解することが長期的な資産形成の重要な条件になっていくのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞(2026年6月17日朝刊)
「外国通貨を別の外貨に交換、円で為替差益なら課税適法 最高裁が初判断」