新NISAの開始以降、多くの個人投資家が米国株や海外ETFへ投資するようになりました。
こうした海外投資でよく受ける質問があります。
「株価が上がった利益と、円安による利益は別々に計算するのでしょうか。」
確かに、外国株には「株価」と「為替」という二つの要素があります。そのため、それぞれ分けて税金を計算するように思えるかもしれません。
しかし、所得税では外国株式の譲渡益について、為替差益だけを切り離して雑所得とすることはありません。
今回は、この考え方について解説します。
海外投資には二つの利益がある
例えば、米国株を1株100ドルで購入し、120ドルで売却したとします。
この間に、
株価が上昇した利益
さらにドル円相場が円安になった利益
の両方が発生することがあります。
投資家の感覚では、
「株の利益」
「為替の利益」
の二つに分けて考えたくなります。
しかし、税法では少し違う考え方を採用しています。
外国株式は一体として利益を計算する
外国株式を売却した場合には、
売却時の円換算額
から
購入時の円換算額
を差し引いて譲渡所得を計算します。
つまり、
株価変動
為替変動
の両方を含めた結果が譲渡所得になるのです。
そのため、為替差益だけを取り出して雑所得として申告する必要はありません。
税法では、外国株という一つの資産を譲渡した利益として一体で取り扱います。
外貨預金とは考え方が異なる
ここで混同しやすいのが外貨預金です。
外貨預金では、
円からドルへ交換
ドルを保有
ドルを円へ戻す
という流れになります。
この場合、円と外貨との交換によって為替差益が発生するため、雑所得として取り扱われます。
一方、外国株式では、
株式そのものを売却している
ため、為替差益だけを独立して認識しません。
同じドル建資産でも、
外貨預金
外国株式
では税法上の考え方が異なることが大きな特徴です。
なぜ別計算しないのか
理由はシンプルです。
外国株式の価値そのものが、
企業価値
市場価格
為替相場
これらすべてを含めた一つの財産だからです。
仮に為替だけを切り離して計算すると、
取得価額
売却価額
譲渡所得
の計算が極めて複雑になります。
そこで税法では、外国株全体を一つの資産として処理する方法を採用しています。
実務上も合理的であり、計算も分かりやすくなります。
円換算は取得時と売却時に行う
もちろん、外国株でも円換算は必要です。
取得した日の為替レート
売却した日の為替レート
それぞれで円換算し、その差額を譲渡所得として計算します。
つまり、
途中でどれだけ円安や円高になったか
を毎日計算する必要はありません。
取得時と売却時、この二つの円換算が基本になります。
海外投資家が注意したいポイント
外国株投資では、
購入日の記録
売却日の記録
取得価額
売却価額
為替レート
を正確に保存しておくことが重要です。
特に海外証券会社を利用している場合は、日本の確定申告用資料が発行されないこともあります。
また、複数回購入した場合には取得価額の計算方法にも注意が必要になります。
日頃から取引履歴を整理しておけば、申告時に慌てることはありません。
税理士にも国際投資の知識が求められる時代
新NISAによって海外投資は一部の富裕層だけのものではなくなりました。
顧問先でも、
米国株
海外ETF
外国債券
海外証券会社
を利用するケースが増えています。
そのため、税理士も国内税制だけではなく、国際税務の基本知識を身に付ける必要があります。
今後は「海外資産があること」が特別ではない時代になるでしょう。
結論
外国株式の譲渡では、株価の値上がりと為替差益を分けて計算する必要はありません。取得時と売却時の円換算額を比較し、一体として譲渡所得を計算します。
一方、外貨預金では為替差益が雑所得となるなど、同じ外貨建資産でも課税方法は異なります。
海外投資が当たり前になった現在では、それぞれの資産ごとの税務ルールを理解することが、正しい申告と安心した資産運用につながります。税理士にとっても、国際税務の知識はますます重要な専門分野になっていくでしょう。
参考
近畿税理士会「税法実務講座(所得税) 個人の国際税務~理論と実践~⑥ 円換算・為替差損益・外国人の住民税・個人の国際課税の調査」(講師:税理士 阿部行輝先生)