海外不動産への投資は、富裕層だけのものではなくなりました。
東南アジアや米国、オーストラリアなどで賃貸住宅やコンドミニアムを購入し、家賃収入を得る個人投資家も増えています。
しかし、海外不動産には国内不動産にはない税務上の難しさがあります。その代表が「円換算」です。
家賃も経費も現地通貨で支払われるため、「どの為替レートで日本円へ換算するのか」によって所得金額が変わることがあります。
今回は、海外不動産投資で押さえておきたい円換算の基本ルールを解説します。
日本ではすべて円で所得を計算する
海外で不動産を所有していても、日本の居住者であれば所得税は日本円で計算します。
そのため、
家賃収入
管理費
修繕費
固定資産税に相当する税金
借入金利息
など、現地通貨で発生した収入や経費は、すべて円へ換算しなければなりません。
海外で帳簿を作成していても、日本で確定申告を行う際には円換算が必要になります。
原則は取引日のTTMで換算する
基本的なルールは、収入や経費が発生した日のTTM(仲値)による換算です。
例えば、
家賃を受け取った日
修繕費を支払った日
管理会社へ送金した日
など、それぞれの取引日における為替レートを使用します。
毎回正確に換算できる点では合理的ですが、取引件数が多い場合には大きな負担になります。
継続適用なら平均レートも利用できる
海外不動産投資では、毎月の家賃や管理費など同じような取引が何度も発生します。
そのため税法では、一定の条件を満たせば、
月平均レート
週平均レート
年平均レート
などを継続して使用することも認めています。
例えば、年間を通じて海外賃貸事業を行っている場合には、年平均レートを利用できるケースがあります。
実務では、この制度によって記帳作業を大幅に効率化できます。
有利なレートだけを選ぶことはできない
「円高の日は経費を大きくして、円安の日は収入を小さくしたい」
そう考える人もいるかもしれません。
しかし、このような都合のよいレート選択は認められません。
税務で重視されるのは継続性です。
一度採用した方法は毎年同じ基準で適用する必要があります。
年度ごとに有利な方法へ変更すると、税務調査で指摘される可能性があります。
海外不動産の売却では取得時のレートも重要
海外不動産を売却するときには、
取得価額
売却価額
譲渡費用
など、すべて円換算して譲渡所得を計算します。
このとき重要なのは、
購入時の為替レート
売却時の為替レート
の両方を把握しておくことです。
長期間保有していると、購入時の資料を紛失しているケースも少なくありません。
将来の売却を見据え、契約書や送金記録、為替レートの記録は大切に保管しておきましょう。
海外の帳簿だけでは申告できない
現地の会計事務所が作成した損益計算書があっても、そのまま日本で提出できるわけではありません。
日本の税法に合わせて、
円換算
必要経費
減価償却
所得区分
などを調整する必要があります。
海外と日本では税制が異なるため、現地資料をそのまま利用すると誤った申告になる可能性があります。
国際税務では、日本のルールに基づく再計算が欠かせません。
税理士にも国際不動産の知識が求められる
海外不動産への投資は今後も増えると考えられます。
顧問先から、
海外マンションを購入した
海外家賃収入がある
海外不動産を売却したい
といった相談を受ける機会も増えていくでしょう。
税理士には、国内不動産だけでなく、円換算や外国税額控除など国際税務の知識も求められる時代になっています。
海外資産を適切にサポートできることは、これからの税理士にとって大きな強みになるでしょう。
結論
海外不動産投資では、家賃収入や経費、売却代金などを日本円へ正しく換算することが所得税計算の基本になります。
原則は取引日のTTMによる換算ですが、継続適用を前提として平均レートを利用できる場合もあります。
海外投資が身近になった現在では、円換算は単なる計算作業ではなく、正しい申告を支える重要な実務です。将来の売却や税務調査にも備え、取引記録や為替レートを日頃から整理しておくことが、安心した資産運用につながります。
参考
近畿税理士会「税法実務講座(所得税) 個人の国際税務~理論と実践~⑥ 円換算・為替差損益・外国人の住民税・個人の国際課税の調査」(講師:税理士 阿部行輝先生)