地域分散と海外分散は何が違うのか サプライチェーンをどこまで分散すればよいのか編

経営

企業が災害や供給途絶に強いサプライチェーンをつくる方法の1つが「分散」です。

仕入先や工場を複数持っておけば、1つの拠点が停止しても別の拠点で補える可能性があります。

しかし、単純に拠点の数を増やせば安全になるわけではありません。

同じ地域に複数の工場があれば、1回の災害ですべてが被害を受ける可能性があります。

一方、海外へ広く分散すれば、自然災害だけでなく地政学や為替、物流など別のリスクが生まれます。

そこで重要になるのが「どのように分散するのか」という視点です。

地域分散とは何か

地域分散とは、生産拠点や仕入先などを異なる地域へ配置することです。

例えば、国内の生産拠点を東日本と西日本に分ける方法があります。

ある地域で大規模な災害が発生した場合でも、別の地域にある工場で生産を続けられる可能性があります。

倉庫についても同じです。

在庫を1カ所の物流センターへ集中させるのではなく、複数の地域へ分散して保管すれば、1つの拠点が停止した場合の影響を抑えられます。

重要なのは、単に住所が違うことではありません。

災害リスクが異なる地域へ分けることです。

近くに分散しても同時に止まることがある

例えば、企業が2つの工場を持っているとします。

工場の数だけを見れば、生産拠点は分散されています。

しかし、2つの工場が同じ河川の流域にあれば、大規模な洪水によって同時に被災する可能性があります。

同じ送電網に依存していれば、大規模停電によって両方の工場が停止することも考えられます。

同じ港から原材料を輸入していれば、その港が使えなくなることで両方の工場が影響を受けます。

分散で重要なのは拠点数ではなく、リスクの重なりを減らすことなのです。

海外分散とは何か

海外分散とは、生産拠点や仕入先を複数の国や地域へ配置することです。

例えば、ある重要部品を1つの国だけから調達するのではなく、複数の国から調達できるようにします。

自然災害などによって1つの国の生産が停止しても、別の国から調達できる可能性があります。

世界規模で事業を展開する企業であれば、消費地に近い場所で生産することで物流距離を短くできる場合もあります。

海外分散は、特定地域への集中リスクを下げる方法の1つです。

海外へ広げれば新しいリスクも増える

海外分散にはメリットがありますが、リスクがなくなるわけではありません。

国が変われば法律や税制も変わります。

政治情勢や貿易政策の影響を受ける可能性もあります。

為替相場が変動すれば調達コストが変化します。

海上輸送に依存する場合には、港湾の混乱や輸送ルートの問題も考えなければなりません。

つまり、国内の自然災害リスクを減らすために海外へ分散した結果、地政学リスクや為替リスクが増えることもあるのです。

分散とはリスクをなくすことではなく、特定のリスクへの集中を避けることだと考える必要があります。

仕入先が違っても供給源が同じ場合がある

サプライチェーンの分散では、もう1つ注意すべき点があります。

直接の仕入先が複数あっても、その先の供給網が同じ場合があることです。

例えば、部品をA社とB社の2社から購入しているとします。

一見すると調達先は分散されています。

しかし、A社とB社が同じ原材料メーカーから材料を購入していれば、その原材料メーカーが停止した場合には両社とも生産できなくなる可能性があります。

また、2社が同じ地域に工場を持っている場合もあります。

重要な部品については、直接の仕入先だけでなく、その先の供給網まで確認する必要があります。

国内分散には近さというメリットがある

国内で地域分散する場合には、海外分散とは異なるメリットがあります。

輸送距離を比較的短くできます。

言語や法律、商慣行などの違いも小さく、管理しやすい場合があります。

緊急時に生産を別の工場へ移す場合にも、人員や設備を移動しやすい可能性があります。

一方、日本国内であれば地震や台風など共通する災害リスクもあります。

国内分散だけで十分なのか、海外拠点も必要なのかは、事業の性質によって異なります。

どこまで分散すればよいのか

すべての仕入先や工場を世界中へ分散すれば安全になるように見えるかもしれません。

しかし、分散にはコストがかかります。

仕入先を増やせば品質管理や契約管理の負担が増えます。

工場を増やせば設備、人員、保守などの固定費が増えます。

在庫拠点を増やせば在庫管理も複雑になります。

そのため、すべての製品や部品を同じように分散する必要はありません。

事業への影響が大きいものから優先して考えることが重要です。

重要な部品から確認する

企業が最初に確認したいのは「これが止まると会社全体が止まるものは何か」です。

価格は安くても、その部品がなければ完成品をつくれない場合があります。

そのような部品は、金額ではなく事業への重要度で判断する必要があります。

仕入先は複数あるのか。

生産地域は分かれているのか。

同じ原材料に依存していないか。

輸送ルートは複数あるのか。

代替品を利用できるのか。

こうした点を確認することで、サプライチェーンの弱い部分が見えてきます。

気候リスクと地政学リスクを一緒に考える

これからのサプライチェーンでは、気候リスクだけを見ても十分ではありません。

洪水や渇水のリスクが低い地域でも、政治情勢や貿易政策によって供給が不安定になる可能性があります。

反対に、政治的に安定した地域でも、水不足や洪水などの気候リスクが高い場合があります。

企業は自然災害、地政学、物流、エネルギー、水など複数のリスクを重ねて考える必要があります。

最も安い地域へ集中するのではなく、異なる種類のリスクを分散することが重要なのです。

結論

地域分散とは、工場や仕入先などを異なる地域へ配置し、1つの災害によってすべてが停止するリスクを抑える考え方です。

海外分散では、さらに国をまたいで生産や調達の拠点を分けることができます。

ただし、海外へ分散すれば地政学、為替、物流など新しいリスクも生まれます。

また、仕入先の数が複数あっても、同じ地域や同じ上流企業へ依存していれば、本当の意味で分散されているとは限りません。

重要なのは、拠点の数を増やすことではなく、リスクの重なりを減らすことです。

そして、すべてを分散するのではなく、停止した場合に事業への影響が大きい製品、部品、工程から優先的に対応します。

気候安全保障の時代に求められるのは、単純な国内集中でも海外分散でもありません。

「どこに置けば最も安いか」だけではなく「1つの地域が止まっても事業を続けられるか」という視点で、サプライチェーン全体を設計することが重要になっているのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月25日 朝刊 「気候安全保障」時代の企業経営

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