「年金を受け取りながら働くと、年金が減らされるから損をする。」
このような話を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
確かに、一定以上の収入がある場合には、在職老齢年金制度によって老齢厚生年金の一部または全部が支給停止になることがあります。
しかし、「働けば損」という理解は正確ではありません。
支給停止になるのは厚生年金の一部であり、給与収入が増えることや、将来の年金額がさらに増えることまで含めて考える必要があります。
今回は、在職老齢年金制度の仕組みと、誤解されやすいポイントについて解説します。
在職老齢年金とは
在職老齢年金とは、老齢厚生年金を受け取りながら厚生年金の適用を受ける会社などで働く場合に、給与や賞与の額に応じて老齢厚生年金の支給額を調整する制度です。
制度の目的は、現役並みの収入がある人との給付のバランスを図ることにあります。
なお、この制度の対象となるのは老齢厚生年金です。
老齢基礎年金は、収入の多寡にかかわらず原則として減額されません。
この点は、制度を理解するうえで重要なポイントです。
支給停止になっても収入全体は増える場合が多い
「年金が減るなら働かない方が得」と考える人もいます。
しかし、多くの場合はそうではありません。
仮に老齢厚生年金の一部が支給停止になったとしても、その分以上の給与収入を得られるケースが一般的です。
つまり、年金だけを見れば減額でも、給与と年金を合わせた年間収入では増えることが少なくありません。
制度は「働くと損をする」ことを目的にしたものではなく、一定以上の収入がある人について年金給付を調整する仕組みなのです。
働き続けることで将来の年金も増える
在職老齢年金を考える際に見落とされがちなのが、働き続けることで将来の年金額が増えるという点です。
厚生年金に加入して働けば、その期間の給与に応じて年金額が上積みされます。
つまり、現役時代の収入を得ながら、将来受け取る年金も育てることができます。
一時的な支給停止だけを見るのではなく、生涯を通じた受給額という視点で考えることが大切です。
制度は時代に合わせて見直されている
日本では高齢者の就業率が年々上昇しています。
そのため、在職老齢年金制度も、高齢者が働きやすい環境を整える方向で見直しが進められています。
支給停止となる基準額は制度改正によって変更されることがあり、以前よりも働きながら年金を受け取りやすくなっています。
制度は固定されたものではなく、社会経済の変化に合わせて改善が続けられています。
最新の制度内容を確認することが重要です。
働く目的は年金だけではない
定年後に働く理由は人それぞれです。
生活費を補うためという人もいれば、健康維持や社会とのつながり、生きがいを求める人もいます。
収入だけでなく、生活の充実という面でも、働くことには大きな価値があります。
さらに、厚生年金への加入によって将来の年金額も増える可能性があります。
定年後の働き方は、「年金が減るかどうか」だけで判断するのではなく、人生全体の豊かさという視点から考えることが大切です。
自分に合った働き方を考える
在職老齢年金制度には一定のルールがありますが、最適な働き方は人によって異なります。
健康状態、家族構成、生活費、貯蓄額、住宅ローンの有無など、置かれている状況はさまざまです。
また、受給開始年齢や繰下げ受給など、他の年金制度との組み合わせも検討する必要があります。
制度だけを見て判断するのではなく、自分自身のライフプラン全体の中で働き方を考えることが、後悔しない選択につながります。
結論
在職老齢年金は、一定以上の収入がある場合に老齢厚生年金を調整する制度ですが、「働くと損をする制度」ではありません。
給与収入の増加や将来の年金額の上積みまで含めて考えれば、働き続けることには多くのメリットがあります。
人生100年時代では、定年はゴールではなく新たなスタートです。年金制度を正しく理解し、自分に合った働き方を選ぶことが、経済的にも精神的にも充実したセカンドライフにつながるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年7月18日 朝刊
<メインストーリー>厚生年金、就労延ばし増額 少子化、過度に不安視せず