同族会社でファミリーガバナンスを整えるとき、最初に考えておきたいことがあります。
それは、そもそも誰をファミリーとするのかという問題です。
創業者の子どもまでは分かりやすいでしょう。しかし、孫、兄弟姉妹、配偶者、その子どもまで含めるのかとなると、会社によって考え方は異なります。
ファミリーの範囲が曖昧なままでは、誰が一族の意思決定に参加できるのかも曖昧になります。
会社が次の世代、その次の世代へと引き継がれていくほど、この問題は重要になります。
ファミリーの範囲は自動的に決まるわけではない
ファミリーという言葉を聞くと、法律上の親族を思い浮かべるかもしれません。
しかし、ファミリーガバナンスにおけるファミリーの範囲が、必ずしも民法上の親族の範囲と一致するわけではありません。
ガイダンスでは、ファミリーの範囲は一般的には企業の創業家の直系血族を中心に構成されることが多いとされています。
そのうえで、ファミリーとしての意思決定の対象となる人を明確にする観点から、ファミリーの範囲を定義することが推奨されています。
つまり、誰がファミリーなのかについて、一族自身で考える必要があるのです。
なぜ最初に範囲を決める必要があるのか
ファミリーの範囲を決める目的は、単に親族を分類することではありません。
重要なのは、誰がファミリーガバナンスに参加するのかを明確にすることです。
例えば、一族として会社の将来について話し合う場を設けたとします。
創業者の子どもだけが参加するのか。
孫も参加するのか。
会社で働いていない一族も参加するのか。
配偶者にも参加してもらうのか。
この範囲が決まっていなければ、意思決定のたびに参加資格そのものが問題になる可能性があります。
会社経営について話し合う前に、誰が話し合いに参加するのかを決めておく必要があります。
直系血族を中心に考える方法
ファミリーの範囲を考えるとき、一つの基準になるのが創業者から続く直系血族です。
創業者の子ども、孫、さらにその次の世代という考え方です。
ファミリービジネスでは、会社の歴史と一族の歴史が重なっていることがあります。
そのため、創業家の直系血族を中心としてファミリーを構成する考え方は分かりやすい方法です。
しかし、世代が進むほど人数は増えていきます。
創業者に3人の子どもがいて、それぞれに子どもがいれば、次第にファミリーの人数は増えていきます。
全員を同じように意思決定へ参加させるのかという問題も出てきます。
だからこそ、単に血縁関係だけでなく、会社との関係も考える必要があります。
配偶者をどう考えるのか
難しいのが配偶者の扱いです。
一族の人と結婚した配偶者は、生活上は当然家族です。
一方、創業家の血族ではありません。
それではファミリーガバナンスの意思決定にも参加してもらうのでしょうか。
ここに唯一の正解があるわけではありません。
会社の歴史や一族の考え方に応じて決めることになります。
重要なのは、問題が起きたときに初めて考えるのではなく、あらかじめ基本的な考え方を整理しておくことです。
特に相続によって株式を取得する可能性がある人については、会社との関係をどうするのかを考えておく必要があります。
株主とファミリーは同じとは限らない
もう一つ注意したいのが、ファミリーと株主を同じものとして考えないことです。
ファミリーの中には株式を持っている人もいれば、持っていない人もいるでしょう。
反対に、会社が成長して外部資本を受け入れれば、ファミリーではない株主が存在することもあります。
さらに、ファミリー株主の中でも会社経営に参加している人と、経営には参加せず株式だけを持っている人に分かれることがあります。
つまり、ファミリーであること、株主であること、経営者であることは、それぞれ別の立場です。
この違いを整理しておくことが、ファミリーガバナンスを考える第一歩になります。
世代交代すると関係は複雑になる
創業者の時代には、ファミリーの範囲について深く考える必要がないこともあります。
創業者自身が大株主であり経営者でもあれば、意思決定する人が明確だからです。
ところが相続が繰り返されると状況は変わります。
株式が子どもに移り、さらに孫へ移れば、株主の人数が増える可能性があります。
会社で働く一族と働かない一族にも分かれていきます。
経営を優先する人と、株主として配当などを重視する人では、会社に対する考え方が異なることもあるでしょう。
世代交代が進んでからファミリーの範囲を決めようとすると、それ自体が利害対立につながる可能性があります。
早い段階で考えておく意味はここにあります。
誰が意思決定するのかまで考える
ファミリーの範囲を定義したら、次に考えるのが意思決定の仕組みです。
ファミリー全員で決めるのか。
一定のメンバーだけで決めるのか。
会社経営に関する事項と、一族に関する事項を分けるのか。
意見が対立したときに最終判断を誰が行うのか。
こうしたルールを明確にしておけば、感情的な対立を避けやすくなります。
ファミリーの範囲を決めることは、単なる家系図づくりではありません。
会社と一族の意思決定の仕組みをつくるための出発点なのです。
ファミリーの定義も次世代へ引き継ぐ
ファミリービジネスが長く続けば、家族関係も変化します。
結婚する人もいれば、離婚する人もいます。
新しい世代も生まれます。
そのため、一度ファミリーの範囲を決めれば永久に変更しなくてよいとは限りません。
世代交代に合わせて、一族と会社との関係を確認していくことも必要になります。
大切なのは、誰かを排除するためにファミリーを定義することではありません。
誰がどのような立場で会社や一族の意思決定に関わるのかを明確にすることです。
結論
同族会社におけるファミリーとは、単純に法律上の親族すべてを意味するものではありません。
ファミリーガバナンスを機能させるためには、誰をファミリーとして扱い、誰が一族としての意思決定に参加するのかを明確にする必要があります。
創業者の直系血族を中心にするのか。
配偶者をどのように扱うのか。
会社で働いていない一族も意思決定に参加するのか。
株式を持つ人と持たない人をどう考えるのか。
会社が小さく一族の人数も少ないうちは、こうした問題は表面化しにくいでしょう。
しかし、世代交代が進めば進むほど、一族の人数と立場は複雑になります。
だからこそ、問題が起きてから誰がファミリーなのかを議論するのではなく、関係が安定している段階で範囲と基本的なルールを決めておくことが重要です。
ファミリーの範囲を決めることは、ファミリーガバナンスを機能させるための最初の土台なのです。
参考
企業実務 2026年9月 ファミリーガバナンスガイダンスが実務に与える影響