正社員には賞与があるのに、契約社員にはない。
正社員には住宅手当が支給されるのに、パート社員には支給されない。
こうした待遇差について非正規社員から、
なぜ自分には支給されないのですか
と質問されたとき、会社はどのように説明するでしょうか。
昔からそういう制度だから。
正社員と非正規社員では雇用区分が違うから。
正社員のほうが責任が重いから。
その場でこのような説明を考えるだけでは、2026年改正後の対応として十分とはいえません。
重要になるのが、正社員と非正規社員の待遇差について、その内容と理由をあらかじめ整理した説明資料です。
参考資料では、2026年改正後は待遇差について説明を求める労働者が増えることが想定されるため、企業は待遇差の内容や理由を説明する資料を準備しておくことが重要だとされています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
同一労働同一賃金への対応は、待遇差を確認するだけでは終わりません。
その違いを会社自身が説明できる状態にしておく必要があるのです。
説明資料とは何か
同一労働同一賃金の説明資料とは、正社員とパート社員や有期雇用社員との待遇差について、
どのような違いがあるのか
なぜその違いを設けているのか
を整理した資料です。
たとえば賞与について正社員と契約社員に違いがあるとします。
その場合、
正社員の賞与制度はどのようなものか
契約社員の賞与制度はどのようなものか
それぞれの賞与は何を目的としているのか
職務内容や責任にはどのような違いがあるのか
配置変更の範囲にはどのような違いがあるのか
といった内容を整理します。
単に、
正社員には支給する
契約社員には支給しない
という制度の違いを記載するだけではありません。
なぜ違うのかまで説明できるようにすることが重要です。
なぜ事前に作っておく必要があるのか
待遇差について質問されたとき、その場で担当者が説明を考える方法には大きな問題があります。
説明する人によって内容が変わる可能性があるからです。
人事担当者は、
仕事内容が違うからです
と説明する。
上司は、
正社員は転勤があるからです
と説明する。
別の担当者は、
昔からこの制度だからです
と説明する。
これでは会社として待遇差をどのように考えているのかが分かりません。
待遇差の理由を事前に整理しておけば、会社として一貫した説明をしやすくなります。
2026年改正では、この事前準備の重要性がさらに高まります。
2026年10月から説明請求できることを明示する
これまでもパートタイム有期雇用労働法では、非正規社員から求められた場合、会社には待遇差の内容や理由について説明する義務があります。
ところが参考資料では、実際に説明を求めた労働者は調査で約8パーセントにとどまっていたことが紹介されています。
そこで2026年10月1日からは、労働条件の明示事項に、
待遇差の内容や理由について説明を求めることができる
という趣旨の事項が追加されます。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
これまで制度を知らなかった非正規社員にも、
会社に説明を求められる
ということが伝わりやすくなるわけです。
その結果、会社に対する説明請求が増える可能性があります。
説明義務は2026年に初めてできるわけではない
ここは誤解しやすいところです。
2026年10月から初めて待遇差の説明義務が始まるわけではありません。
待遇差について説明を求められた場合に会社が説明する仕組みは、すでに存在しています。
2026年改正のポイントは、その制度をより利用しやすくすることです。
労働条件を明示するときに、
あなたは待遇差について会社に説明を求めることができます
ということを労働者に知らせます。
これによって説明制度の実効性を高めようとしているのです。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
会社側から見れば、
質問されたら考える
という対応ではなく、
質問されることを前提に準備しておく
という対応が必要になります。
待遇の目的を整理する
説明資料を作るうえで特に重要になるのが、それぞれの待遇の目的です。
たとえば住宅手当があるとします。
会社としては、
住宅手当だから正社員に支給している
という説明だけでは十分ではありません。
何のための住宅手当なのかを確認します。
転居を伴う配置転換による住宅費負担を補うためなのか。
従業員の住宅費や生活費を補助するためなのか。
目的によって、非正規社員に支給しない理由の評価も変わる可能性があります。
参考資料では、同じ住宅手当という名称でも、その性質や目的によって裁判例の結論が異なっていることが紹介されています。
つまり、説明資料を作るときには待遇の名称ではなく、
この待遇は何のためにあるのか
まで掘り下げる必要があります。
賞与の目的も確認する
賞与についても同じです。
賞与には会社によってさまざまな性質があります。
仕事の成果に対する対価。
会社業績の分配。
長期間働いたことへの功労報償。
将来の勤務への期待。
正社員を確保し定着させるための待遇。
実際の制度がどのような目的を持っているのかによって、待遇差を説明する内容も変わります。
単に、
正社員だから賞与を支給する
ではなく、
なぜ正社員の賞与制度がこのような内容になっているのか
を説明できるようにしておく必要があります。
正社員人材確保目的も書くだけでは足りない
会社が待遇差を説明するとき、
正社員を確保するためです
という理由を使うことがあります。
しかし、正社員人材確保目的と書いておけば待遇差が合理的になるわけではありません。
2026年改正のガイドラインでは、正社員人材確保目的があることだけで待遇差が当然に合理的になるわけではなく、法定の考慮要素などを踏まえて客観的かつ具体的に判断する必要があるという考え方が示されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
そのため説明資料には、
正社員は将来の管理職候補として採用している
幅広い配置転換がある
責任の重い業務を担当する
一定の教育研修を行っている
といった実際の人材活用との関係を整理することが重要になります。
説明資料は、もっともらしい理由を書くための資料ではありません。
会社の制度と実態を結び付けるための資料なのです。
待遇を一つずつ整理する
前の記事で説明したように、同一労働同一賃金では、不合理性について原則として待遇ごとに判断します。
そのため説明資料についても、待遇をまとめて一括説明するのではなく、一つずつ整理することが重要です。
基本給。
賞与。
退職金。
家族手当。
住宅手当。
福利厚生。
病気休職。
夏季冬季休暇。
それぞれについて、
正社員と非正規社員に違いがあるか
違いがあるなら何が違うのか
なぜ違うのか
を確認します。
参考資料でも、2026年改正への実務対応では、まず待遇差を洗い出し、待遇ごとに不合理性を検討することが出発点とされています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
分かりやすい資料にする必要がある
説明資料は、法律用語を並べればよいわけではありません。
参考資料では、2026年改正に関連する雇用管理指針の見直しについて、待遇差を説明する際には、労働者が理解できるような資料を活用することが示されています。
口頭で説明する場合でも、可能な限り資料を交付することなどが望ましいとされています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
たとえば社員から、
なぜ私は住宅手当をもらえないのですか
と聞かれたとき、
職務内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮した結果です
とだけ説明されても、普通の社員には分かりにくいでしょう。
具体的に、
正社員には転居を伴う全国転勤があります
この住宅手当は転居に伴う住宅費負担を補助する目的です
あなたの雇用区分では勤務地が限定されています
というように、制度と理由の関係を分かりやすく説明する必要があります。
説明資料が会社の証拠になる場合もある
説明資料には、もう一つ重要な役割があります。
後に待遇差をめぐって紛争になった場合、会社がどのような考え方で制度を設計し、説明していたのかを示す材料になる可能性があることです。
参考資料でも、待遇差の内容や理由を説明する資料が、会社側の主張を支える証拠や材料になる可能性が指摘されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
だからこそ説明資料は、
とりあえず社員に説明するための紙
ではありません。
内容に誤りや矛盾があれば、逆に問題になる可能性もあります。
会社の実際の制度や運用と一致した内容にすることが重要です。
制度と実態が違えば説明できなくなる
説明資料を作る過程で、会社が自ら制度上の問題に気付くこともあります。
たとえば、
正社員には全国転勤があるので待遇を手厚くしています
と説明しようとしたとします。
ところが実際に調べてみると、ほとんどの正社員には長期間転勤実績がありません。
反対に契約社員にも責任の重い仕事を任せています。
この場合、会社が考えていた待遇差の理由と実態が一致していない可能性があります。
説明資料を作ることは、単に説明義務に備えるだけではありません。
自社の待遇差が本当に説明できるものなのかを点検する作業にもなるのです。
説明できない待遇差は見直す
待遇差を整理していくと、
なぜこの手当は正社員だけなのか分からない
昔からそうなっているだけだった
制度を作った当時の目的が分からない
という待遇が見つかることもあります。
このような場合には、説明文を無理に作るのではなく、待遇制度そのものを見直すことが重要です。
参考資料でも、不合理性を払拭できない待遇差については差を解消し、さらに必要に応じて人材活用や賃金制度そのものを見直すことが実務対応として示されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
説明資料を作ることが目的ではありません。
説明資料を作れるだけの制度になっているかを確認することが目的なのです。
2026年改正で重要性が増す理由
2026年10月以降は、非正規社員が待遇差について説明を求められることを、これまで以上に認識しやすくなります。
そのため会社としては、
説明請求はほとんど来ないだろう
という前提で制度を運用することが難しくなります。
社員から質問される。
会社が説明する。
その説明を社員が確認する。
場合によっては、さらに詳しい説明を求められる。
こうした場面が増える可能性があります。
だからこそ改正前に、
どの待遇に差があるのか
その差はなぜ存在するのか
その理由を社員に分かる言葉で説明できるか
を確認しておく必要があります。
2026年改正への対応は、労働条件通知書に一文を追加すれば終わる問題ではないのです。
結論
同一労働同一賃金の説明資料とは、正社員と非正規社員との待遇差について、その内容と理由を会社が事前に整理した資料です。
2026年10月からは、待遇差の内容や理由について説明を求めることができる旨が労働条件の明示事項に加わるため、非正規社員から説明を求められる機会が増えることが想定されます。
そのため会社は、
質問されたら考える
のではなく、
質問される前に整理する
ことが重要になります。
基本給はなぜ違うのか。
賞与はなぜ違うのか。
住宅手当はなぜ違うのか。
休暇はなぜ違うのか。
それぞれについて待遇の性質と目的を確認し、実際の職務内容や責任、配置変更の範囲などと結び付けて説明できるようにしておく必要があります。
そして説明資料を作ろうとしても理由を説明できない待遇差が見つかったのであれば、それ自体が制度を見直す重要なサインになります。
説明資料は、単に社員からの質問に答えるための資料ではありません。
自社の待遇制度が本当に合理的に説明できるものになっているのかを確認するための総点検表でもあるのです。
参考
企業実務 2026年9月号 同一労働同一賃金改正対応の総点検