円相場が1ドル=162円に迫り、約40年ぶりの歴史的な円安水準となっています。
かつては「円高になるのが当たり前」と考えられていた時代もありました。しかし今、市場関係者の多くは「円が自然に大きく上昇する材料が見当たらない」と指摘しています。
今回の円安は、中東情勢などによる一時的な混乱ではなく、米国経済の強さと金利差という構造的な要因によって進んでいます。
私たちはこの状況をどのように受け止めればよいのでしょうか。
円安は単なる為替ニュースではありません。老後資金や資産形成の考え方そのものを見直す時代に入ったともいえるのです。
円安の主役は円売りではなくドル買い
これまで円安になると、「日本経済が弱いからだ」という説明がよくされました。
しかし今回の円安は少し様相が異なります。
記事によれば、市場では円売りよりもドル買いが主導しています。
米国では雇用や消費が堅調で、景気後退懸念が後退しています。さらにFRB(米連邦準備制度理事会)はインフレ抑制を重視する姿勢を明確にしており、市場では年内追加利上げまで意識され始めています。
一方、日本では日銀が利上げを進めているとはいえ、そのペースは極めて緩やかです。
投資家から見れば、
「ドルを持つと高い金利がもらえる」
「円を持っても利回りは低い」
という状況が続いています。
お金は常に有利な場所へ移動します。
その結果としてドル買いが続き、円安が進んでいるのです。
円だけで資産を持つリスクが高まる
日本人は長年、資産の大半を円で保有してきました。
預金
保険
年金
不動産
いずれも円建て資産です。
国内で生活する以上、それ自体は自然なことです。
しかし円安が長期化すると話は変わります。
海外旅行費用は上昇します。
輸入品価格も高くなります。
エネルギーや食料価格にも影響します。
つまり円の購買力そのものが低下するのです。
資産額が変わらなくても、買えるものが減る可能性があります。
これは見えにくい資産目減りです。
GPIFが示している答え
私たちが参考にすべき存在があります。
世界最大級の機関投資家である
年金積立金管理運用独立行政法人
です。
GPIFは日本の公的年金を運用しています。
その資産配分は、
・国内株式25%
・外国株式25%
・国内債券25%
・外国債券25%
という基本構成です。
重要なのは、年金の専門家集団ですら円資産だけで運用していないという事実です。
将来何が起きるか分からないからこそ、日本だけに集中しない。
これが長期投資の基本原則です。
円安局面を見るたびに、GPIFの運用哲学の重要性が浮かび上がります。
老後資産は通貨分散も必要な時代
老後資金というと、
いくら貯めるか
何%で運用するか
ばかりが話題になります。
しかしこれからは、
「どの通貨で持つか」
も同じくらい重要になります。
例えば新NISAで全世界株式や米国株式に投資している人は、企業への投資だけでなく通貨分散も同時に行っています。
逆に、
預金100%
個人向け国債100%
円建て保険100%
という状態は、日本経済と円に資産を集中させていることになります。
もちろん全資産を外貨にする必要はありません。
生活資金は円で持つべきです。
しかし長期資産については、一定割合を海外資産に振り向けるという考え方が重要になっています。
本当の問題は円安ではなく準備不足
為替相場を予測することは極めて困難です。
162円になるか。
150円に戻るか。
180円へ向かうか。
誰にも分かりません。
しかし一つだけ確かなことがあります。
それは、日本人が円だけを前提に資産形成を考えてきた時代が終わりつつあることです。
人口減少が進み、経済成長率も先進国の中で高いとはいえません。
一方で世界経済は今後も成長を続ける可能性があります。
その中で重要なのは、
為替を当てることではなく、
どちらに動いても困らない資産構成を作ることです。
資産運用の本質は予測ではなく備えなのです。
結論
1ドル162円に迫る円安は、一時的な市場の混乱ではなく、日米の経済力や金利差を背景とした構造的な動きとして捉える必要があります。
私たち個人投資家が注目すべきなのは、「次の為替水準」ではありません。
本当に重要なのは、自分の資産が円だけに偏っていないかを確認することです。
老後資金づくりの時代は、資産分散だけでなく通貨分散の時代へ入りました。
円安に振り回される人と、円安を受け止められる人の差は、為替予想の上手さではなく、事前の準備の差なのかもしれません。
参考
日本経済新聞(2026年6月20日朝刊)
「強いドル」円売り主導 迫る39年ぶり162円 再介入にらみ緊迫