不動産を兄弟や親子で共有しているケースは少なくありません。相続によって土地や建物を共有名義で取得し、その後、それぞれが単独所有にするために共有物分割を行うこともよくあります。
このような共有物分割は、「もともと自分が持っていた権利を整理しただけ」と考えられがちです。しかし、分割の方法によっては、不動産取得税が課税されることがあります。
今回の講義資料では、この共有物分割と不動産取得税をめぐる重要な裁判例が紹介されています。
今回は、その争点と裁判所の考え方について解説します。
共有物分割とは
共有物分割とは、一つの財産を複数人で共有している状態を解消し、それぞれが単独で所有できるようにする手続です。
例えば、
兄と弟が土地を二分の一ずつ共有していた場合、
土地を分筆し、
兄が一筆を、
弟がもう一筆を、
それぞれ単独所有にすることがあります。
これが共有物分割です。
民法では、共有状態はできるだけ解消することが望ましいと考えられており、各共有者は原則としていつでも共有物分割を請求できます。
なぜ不動産取得税が問題になるのか
共有物分割では、
登記上は所有者が変わります。
そのため、
形式だけを見ると、
「新たに不動産を取得した」
ようにも見えます。
しかし、
共有者はもともと共有持分という権利を持っています。
そのため、
「新しい財産を取得したわけではない」
という考え方も成り立ちます。
ここに不動産取得税の課税関係が難しくなる理由があります。
持分どおりの分割ならどう考えるか
例えば、
二人が二分の一ずつ共有している土地を、
評価額がほぼ同じ二筆に分け、
それぞれが一筆ずつ取得したとします。
経済的な価値は、
分割前後でほとんど変わりません。
このような場合には、
新たな財産を取得したというより、
共有状態を整理しただけと考えることができます。
そのため、
従来から判例や実務では、
このような共有物分割については、不動産取得税は課税されないと考えられてきました。
持分を超える取得があればどうなるか
一方、
共有割合を超えて取得した場合は事情が異なります。
例えば、
本来は二分の一しか権利を持っていない人が、
共有物分割によって土地の八割相当を取得したとします。
この場合、
増加した三割部分については、
実質的に他の共有者から新たな財産を取得したことになります。
このような部分については、
不動産取得税の課税対象となる可能性があります。
つまり、
共有物分割という形式ではなく、実際に財産が増えたかどうか
が重要になります。
裁判所が重視した考え方
今回紹介されている裁判例でも、
裁判所は形式だけでは判断しませんでした。
共有物分割によって、
各共有者の経済的利益がどのように変化したのか、
実質的な財産移転があったのかを丁寧に検討しています。
その結果、
単なる共有状態の整理であれば課税すべきではない一方、
持分を超える利益を取得した部分については、
新たな取得として課税され得るという考え方が示されています。
民法と税法は必ずしも同じではない
ここで注意したいのは、
民法上の共有物分割と、
税法上の「取得」は同じ意味ではないということです。
民法では、
共有関係を整理することが目的ですが、
税法では、
新たな経済的利益を取得したかどうかを重視します。
そのため、
民法上は適法な共有物分割であっても、
税法では一部について取得と評価されることがあります。
この違いを理解することが実務では重要です。
税理士が確認すべき実務ポイント
共有物分割について相談を受けた場合には、
次の事項を確認する必要があります。
- 分割前の共有持分
- 分割後に取得する不動産の評価額
- 持分割合と取得割合が一致しているか
- 金銭による調整(代償金)があるか
- 実質的に財産が増加していないか
特に相続後の共有物分割では、
民法だけでなく、
不動産取得税や登録免許税など複数の税目を合わせて検討することが重要です。
相続実務でも重要な論点
共有物分割は、
相続実務でも頻繁に行われます。
相続開始時には共有で登記し、
その後、
遺産整理の一環として共有を解消するケースもあります。
このような場合でも、
分割方法によっては税務上の取り扱いが変わる可能性があります。
そのため、
分割協議を進める前の段階で、
税務面の確認を行うことが望まれます。
結論
共有物分割は、共有状態を整理するための民法上の制度ですが、税法では実質的な財産移転があったかどうかが重要な判断基準になります。
持分に応じた分割であれば新たな取得とは評価されないことが多い一方、持分を超える財産を取得した場合には、その超過部分について不動産取得税が課税される可能性があります。
今回の裁判例は、形式ではなく経済的実態を重視して課税関係を判断するという税法の基本的な考え方を示した重要な事例です。税理士には、民法と税法の双方の視点から共有物分割を検討し、適切な助言を行うことが求められます。
参考
近畿税理士会研修会(周辺専門講座)
「地方税をめぐる最近の動向等―注目すべき裁判例の検討を中心に―」
講師 和歌山大学経済学部教授 片山直子先生
地方税法
民法(共有物分割)
共有物分割と不動産取得税に関する裁判例・講義資料