債券を満期まで持ち切るとは何か 途中で価格が下がっても企業年金が保有を続ける理由編

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国内金利の上昇を受け、企業年金の間で国内債券への投資を増やす動きが出ています。

一方、金利が上昇すると、すでに発行されている債券の市場価格は下落します。

そのため、

これからさらに金利が上がれば、国債を買っても値下がりするのではないか

という疑問も出てきます。

そこで企業年金から注目されているのが、購入した債券を途中で売却せず、満期まで持ち切る運用です。

企業年金には10年後、20年後、30年後と将来にわたって年金を支払うという特徴があります。

この長い時間軸を利用すれば、債券の途中の価格変動に左右されにくい運用を組み立てることができます。

債券には満期がある

株式と債券の大きな違いの一つが満期です。

一般的な株式には満期がありません。

購入した株式を現金化したければ、市場で誰かに売却する必要があります。

そのため売却時の株価が非常に重要になります。

一方、国債や事業債などの多くの債券には満期があります。

例えば10年国債なら、一定期間利息を受け取りながら保有し、満期になれば原則として額面金額が償還されます。

途中で売却しなくても現金が戻ってくる仕組みになっています。

この特徴が満期まで持ち切る運用を可能にします。

市場価格が下がっても満期は変わらない

例えば額面100万円の国債を100万円で購入したとします。

その後、金利が上昇して国債の市場価格が90万円まで下落したとします。

途中で売却すれば、約10万円の損失が発生する可能性があります。

しかし、その国債を売却せず満期まで保有する場合は事情が異なります。

国が債務を履行することを前提とすれば、途中の市場価格が90万円や80万円になったとしても、満期には額面100万円が償還されます。

保有期間中には決められた利息も受け取ります。

つまり途中の市場価格と、最終的に受け取る金額は別の問題なのです。

なぜ金利上昇で価格が下がるのか

満期保有を理解するためには、金利と債券価格の関係を押さえておく必要があります。

例えば年1%の利息を受け取れる古い国債を持っているとします。

その後、金利が上昇して新しい国債から3%程度の利回りを得られるようになったとします。

同じ100万円を投資するのであれば、新しい国債を買いたいと考える投資家が増えます。

そのため古い低金利の国債は、価格を下げなければ市場で売れにくくなります。

これが、

金利上昇

債券価格下落

という関係です。

ただし価格が下がるのは、途中で市場で売買するときの価格です。

満期時に額面で償還されるという契約そのものが、市場金利の上昇によって変わるわけではありません。

含み損と実現損は違う

ここで重要になるのが、含み損と実現損の違いです。

100万円で購入した債券の市場価格が90万円になれば、時価で見ると10万円値下がりしています。

これが含み損です。

しかし、その時点で売却しなければ10万円の損失が現金として確定したわけではありません。

90万円で売却すれば、その損失が実現します。

一方、満期まで保有して額面100万円の償還を受ければ、途中の市場価格下落とは異なる結果になります。

もちろん会計上や年金財政上の評価方法によって、途中の価格変動がまったく無関係になるわけではありません。

それでも投資戦略としては、途中で売る必要がないことには大きな意味があります。

企業年金は満期保有と相性がよい

企業年金が債券を満期まで持ち切りやすい理由は、将来の支出をある程度予測できるからです。

確定給付企業年金では、加入者や受給者の年齢、給付条件などから、将来どの程度の年金支払いが発生するのかを推計します。

例えば、

10年後に一定額

20年後に一定額

30年後に一定額

というように、将来必要になる資金を見積もることができます。

それなら、その支払い時期に合わせて満期の異なる債券を購入することができます。

10年後に必要なお金には10年程度の債券、20年後に必要なお金にはより長期の債券を対応させるという考え方です。

年金支払いと債券償還を合わせる

企業年金の運用では、単に債券から高い利回りを得ることだけが目的ではありません。

将来の年金支払いに合わせて現金が戻ってくるように設計することも重要です。

例えば10年後に100億円程度の年金給付が必要になるとします。

そこで10年後に満期を迎える債券を保有しておけば、その償還金を年金給付の原資として利用できます。

途中で市場価格が下落しても、10年後まで売却する必要がなければ、その価格変動の影響を受けにくくできます。

このように、

将来の年金給付

債券の満期

を対応させることが、企業年金の債券運用では重要になります。

高い利回りを長期間固定できる

金利上昇局面で満期保有が注目されるもう一つの理由が、現在の高い利回りを長期間確保できることです。

例えば10年債を一定の利回りで購入して満期まで保有するとします。

その後、市場金利が低下したとしても、その債券から受け取る利息などの条件が途中で市場金利に合わせて下がるわけではありません。

つまり購入時点の条件を長期間確保できます。

超低金利時代には、このメリットがほとんどありませんでした。

低い利回りを長期間固定しても、企業年金にとって魅力が小さかったからです。

しかし国内債券の利回りが2%台から3%台になれば事情は違います。

企業年金の予定利率に近い、あるいは上回る利回りを長期間確保できる可能性が出てきます。

事業債ならさらに高い利回りを期待できる

参考記事では、2025年度に国債より利回りの高い事業債の商品を新規採用する動きが増えたとされています。

事業債は企業が発行する債券です。

国債より信用リスクが高いため、一般的には国債より高い利回りが求められます。

信用力の高い企業の事業債を選び、満期まで保有できれば、企業年金は比較的安定した利息収入を長期間確保できる可能性があります。

ただし事業債には発行企業が経営悪化などによって元本や利息を支払えなくなる信用リスクがあります。

満期まで持てば必ず安全というわけではありません。

発行体の信用力を確認し、複数の債券へ分散することが重要になります。

満期保有にも弱点がある

満期まで持ち切る戦略にも注意点があります。

例えば利回り3%の10年債を大量に購入した直後、市場金利が5%まで上昇したとします。

購入した債券を満期まで持てば3%程度の利回りを確保できます。

しかし市場では5%程度の利回りを得られる新しい債券が購入できます。

つまり3%の債券を長期間保有することで、より高い5%の債券へ投資する機会を逃すことになります。

さらに途中で急に現金が必要になれば、値下がりした債券を売却しなければならない可能性があります。

満期保有が有効なのは、満期まで使う予定のない資金を投資できる場合です。

購入時期を分散する方法もある

将来の金利がどこまで上昇するかは誰にも分かりません。

そこで企業年金が利用できる考え方の一つが、債券を一度に購入しないことです。

例えば投資予定資金を複数回に分けて債券を購入します。

さらに5年債、10年債、20年債など満期の異なる債券を組み合わせる方法もあります。

すると毎年あるいは一定期間ごとに債券が満期になります。

戻ってきた資金を、その時点の金利で新しい債券へ再投資できます。

金利上昇が続けば、徐々に高い利回りの債券へ資金を移すことができます。

将来の金利を一点で予想するのではなく、購入時期や満期を分散することで金利変動に対応するわけです。

企業年金は値上がり益を狙う必要がない

個人投資家の場合、債券を安く買って高く売り、値上がり益を得ることも投資目的になります。

しかし企業年金の目的は違います。

企業年金が最終的に実現しなければならないのは、将来約束した年金を支払うことです。

そのため債券価格が途中で上昇するかどうかより、

必要な時期に

必要なお金を

できるだけ確実に受け取れるか

ということの方が重要になります。

満期まで持ち切る戦略は、この企業年金の性格と非常に相性がよいのです。

結論

債券を満期まで持ち切るとは、購入した債券を途中の市場価格で売却せず、満期まで保有して利息と償還金を受け取る運用方法です。

金利が上昇すると既存債券の市場価格は下落します。

そのため時価で見れば含み損が発生することがあります。

しかし途中で売却する必要がなければ、その価格下落がそのまま最終的な損失になるとは限りません。

企業年金には将来の年金給付という比較的予測可能な支払いがあります。

その支払時期と債券の満期を合わせれば、途中の価格変動に左右されにくい運用を組み立てることができます。

さらに国内金利が上昇したことで、企業年金の予定利率に近い、あるいはそれを上回る利回りを長期間確保できる可能性も出てきました。

超低金利時代には、債券を満期まで保有しても低い利回りしか得られませんでした。

金利のある世界では事情が変わります。

債券を売買して利益を狙うのではなく、将来必要になる年金資金を現在の高い利回りで少しずつ確保していく。

企業年金の国内債券回帰では、この満期まで持ち切るという考え方が重要になっているのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 企業年金、国内債に回帰 配分増加意向、過去最大 利回り回復で投資妙味

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