介護施設が身元保証人を求める理由 施設側が抱える3つのリスク

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高齢者が介護施設へ入居するとき、身元保証人や身元引受人を求められることがあります。

本人に十分な資産があり、毎月の利用料を自分で支払えるのであれば、保証人は必要ないようにも思えます。しかし、介護施設が身元保証人に期待しているのは、料金の支払いだけではありません。

緊急時の連絡、入院時の対応、死亡後の手続きなど、これまで家族が担ってきた様々な役割があります。

単身高齢者が増えるなか、介護施設の身元保証問題を考えるには、まず施設側が何を心配しているのかを知る必要があります。

身元保証人がいないだけで入居を拒否してよいわけではない

厚生労働省は、高齢者が介護施設などを利用する際、身元保証人などがいないことだけを理由としてサービスの提供を拒否することがないよう周知しています。

つまり、身元保証人がいなければ介護施設には入れないという制度ではありません。

ところが実際には、多くの施設が入居時に身元保証人や身元引受人などを求めています。

総務省が2022年に公表した調査では、回答した1,198カ所の病院や施設の9割以上が身元保証を求めていました。

制度上の考え方と介護現場の実態には差があります。

なぜこれほど多くの施設が身元保証人を必要としているのでしょうか。

大きく3つのリスクから考えると分かりやすくなります。

1つ目は利用料金の未払いリスク

最も分かりやすいのが、お金の問題です。

介護施設へ入居すると、毎月の施設利用料だけでなく、食費、居住費、介護サービスの自己負担など様々な費用が発生します。

有料老人ホームなどでは、入居一時金が必要になる場合もあります。

本人に十分な資産や年金収入があれば問題はないように見えます。

しかし、施設への入居期間は長期間になる可能性があります。

入居当初は十分な資産があっても、医療費や介護費が増加したり、想定以上に長生きしたりすれば資産が減っていくことがあります。

さらに認知症などによって本人の判断能力が低下すると、預金口座に十分なお金があっても、本人が必要な手続きを行えなくなることがあります。

施設側にとっては、単純な資産額だけでは利用料金を継続して回収できるか判断できない場合があります。

そのため、支払いについて連絡や調整ができる人を求めることになります。

2つ目は緊急時の対応リスク

介護施設では、入居者の体調が急変することがあります。

転倒して骨折することもあれば、突然入院が必要になることもあります。

こうした場合、施設は本人だけでなく家族などにも連絡を取る必要が生じます。

入院することになれば、病院側との調整も必要になります。

必要な物を病院へ届けたり、退院後の生活について施設と病院が調整したりすることもあります。

本人の判断能力が低下している場合には、さらに対応が複雑になります。

ここでも従来は家族が重要な役割を担ってきました。

しかし、身寄りのない高齢者の場合、その役割を担う人がいません。

施設側からすると、緊急事態が起きたときに「誰に連絡すればよいのか」が明確になっていることは非常に重要です。

3つ目は死亡後の対応リスク

介護施設にとって特に難しい問題が、入居者が亡くなった後の対応です。

死亡後には様々な手続きが発生します。

葬儀や火葬、納骨だけではありません。

施設の居室に残された衣類、家具、写真、書類などをどうするのかという問題があります。

施設利用料などの精算も必要になります。

本人が亡くなれば、本人自身に判断してもらうことはできません。

施設としても、勝手に遺品を処分できるわけではありません。

従来は家族が遺体や遺品を引き取り、施設との契約を終了させていました。

身寄りのない高齢者が増えるほど、この死亡後の対応が大きな課題になります。

身元保証人や身元引受人を求める背景には、入居中だけではなく死亡後まで含めた施設側のリスクがあります。

1人の保証人に多くの役割を集中させてきた

ここまで考えると、介護施設が求めている「身元保証人」という言葉には、多くの役割が含まれていることが分かります。

利用料金についての連絡先。

緊急時の連絡先。

入院した場合の支援。

退去時の対応。

死亡後の遺体や遺品の引き取り。

これまでは、こうした役割を配偶者や子どもなどの家族がまとめて担ってきました。

そのため、施設側も1人の身元保証人を決めてもらえば、多くの問題に対応できました。

ところが家族構成が変化すれば、この仕組みは成り立ちにくくなります。

これから重要になるのは、1人の保証人を探すことではなく、それぞれの役割を誰が担うのかを整理することです。

子どもがいるから安心とは限らない

身元保証問題は、おひとりさまだけの問題ではありません。

子どもがいても遠方に住んでいることがあります。

海外で生活している場合もあります。

子ども自身が病気になったり、高齢になったりする可能性もあります。

90歳の親を65歳の子どもが支えるというケースも珍しくなくなります。

兄弟姉妹に頼る場合には、さらに年齢が近くなります。

「親族がいる」ということと「長期間にわたり実際に支援できる人がいる」ということは別問題です。

介護施設への入居を考える段階では、親族の有無だけではなく、現実に誰が何を担えるのかを確認する必要があります。

民間の身元保証サービスという選択肢

こうした需要を背景に、民間の高齢者終身サポート事業が広がっています。

サービスによっては、介護施設への入居時の身元保証だけではなく、日常生活支援や病院への同行、緊急時対応、死後事務などをまとめて提供しています。

家族が担ってきた役割を、契約によって第三者へ委ねる仕組みです。

一方で、長期間にわたる契約になるため、事業者選びには注意が必要です。

契約した事業者が将来も存続しているとは限りません。

どこまでのサービスが基本料金に含まれるのか、追加料金が必要になるのか、預けたお金がどのように管理されるのかも確認する必要があります。

身元保証人を確保できれば、それだけで問題がすべて解決するわけではありません。

入居前に確認しておきたいこと

介護施設を選ぶときには、設備や食事、介護体制、料金などに目が向きます。

しかし、単身者や頼れる親族が少ない人の場合には、身元保証についても早い段階で確認しておくことが重要です。

身元保証人が必須なのか。

保証人がいない場合に代替手段があるのか。

緊急連絡先だけでもよいのか。

民間の身元保証事業者を利用できるのか。

成年後見制度などを利用している場合はどう扱われるのか。

死亡後の遺品や居室について、どのような取り決めが必要なのか。

施設によって対応は異なります。

入居直前になって初めて確認するのではなく、施設選びの段階から確認しておくことが大切です。

結論

介護施設が身元保証人を求める背景には、大きく3つのリスクがあります。

利用料金の未払い、緊急時の対応、そして死亡後の対応です。

これまで家族が自然に担ってきたため、あまり意識されてこなかった役割でもあります。

しかし単身高齢者が増え、親族がいても頼ることが難しいケースが増えるなか、家族だけを前提とした仕組みは限界を迎えています。

重要なのは「保証人になってくれる人がいるか」だけではありません。

入居中のお金を誰が管理するのか、緊急時に誰が対応するのか、亡くなった後に誰が手続きをするのか。

それぞれを分けて考え、元気なうちから準備しておく必要があります。

介護施設選びは、どこに住むかを決めるだけではありません。

自分を最後まで誰が、どのような仕組みで支えるのかを決めることでもあるのです。

参考

日本経済新聞 2026年10月3日朝刊 単身シニア、難しい身元保証 入院や介護に民間サービス

日本経済新聞 2026年10月3日朝刊 施設の9割が要請

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