人生100年時代を迎え、60代、70代になっても海外旅行を楽しむ人が増えています。現役引退後に長期滞在を楽しんだり、夫婦で海外クルーズに参加したりすることも珍しくなくなりました。
しかし、多くの人が見落としているリスクがあります。
それは海外での病気やケガによる医療費です。
国内では健康保険制度が整備されているため、医療費が数百万円になる場面を想像する機会はあまりありません。しかし海外では状況が大きく異なります。
人生100年時代において、海外医療費は老後資金計画を揺るがす最大級の想定外支出になる可能性があります。
日本の常識が通用しない海外医療費
日本では健康保険制度のおかげで医療費負担は比較的抑えられています。
しかし海外では自由診療が一般的な国も多く、医療費は驚くほど高額です。
米国では救急車を呼ぶだけで数万円から十数万円かかることがあります。
救急外来の受診で数十万円、入院や手術となれば数百万円から一千万円を超えるケースもあります。
日本での感覚のまま海外へ出かけると、予想外の請求額に驚くことになります。
旅行費用は事前に把握できますが、医療費だけは発生してからでなければ分かりません。
だからこそ最大の想定外支出になるのです。
円安がリスクをさらに拡大させる
近年は円安が続いています。
同じ医療費でも円換算した負担額は大きく膨らみます。
例えば現地で1万ドルの医療費が発生した場合、1ドル100円なら100万円です。しかし1ドル160円なら160万円になります。
治療内容は同じでも、為替だけで60万円も負担が増える計算です。
旅行者自身では為替相場をコントロールできません。
円安時代の海外旅行は、知らないうちに為替リスクも背負っているのです。
シニア世代ほどリスクが高い理由
若い頃は多少の体調不良でも無理がききます。
しかし年齢を重ねると状況は変わります。
高血圧、糖尿病、心疾患などの持病を抱える人も増えます。
長時間のフライトによる体調変化や環境の違いによるストレスもあります。
人生100年時代では70代や80代で海外旅行を楽しむ人も増えるでしょう。
その一方で医療リスクも高まります。
つまり海外旅行を最も楽しみたい世代が、同時に最も医療費リスクを抱える世代でもあるのです。
保険料より医療費の方がはるかに高い
海外旅行保険の保険料は値上がり傾向にあります。
それでも多くの場合、保険料は数千円から数万円程度です。
一方で海外医療費は数十万円から数百万円になることがあります。
保険料を節約した結果、万一の際に莫大な自己負担が発生する可能性があります。
人は確率の低いリスクを軽視しがちです。
しかし本当に考えるべきなのは発生確率ではなく、発生した場合の損失額です。
海外旅行保険は利益を得るための商品ではありません。
大きな損失を回避するための商品なのです。
老後資金計画に組み込むべき医療リスク
老後資金を考える際、多くの人は生活費や介護費用を意識します。
しかし海外旅行を計画するのであれば、医療リスクも予算に含める必要があります。
旅行費用だけを計算していては不十分です。
航空券代、宿泊費、食事代に加え、保険料も旅行費用の一部として考えるべきでしょう。
人生100年時代では長寿化によって旅行機会も増えます。
旅行回数が増えれば、医療トラブルに遭遇する確率も高まります。
リスク管理は旅行の楽しみを奪うものではなく、安心して旅を続けるための条件なのです。
最大のリスクは医療費ではなく準備不足
実は本当の問題は医療費そのものではありません。
最も危険なのは準備不足です。
保険内容を確認していない。
クレジットカード付帯保険の補償額を知らない。
現地の医療機関の利用方法を調べていない。
こうした準備不足が大きな損失につながります。
海外旅行において重要なのは、事故や病気が起きないことではなく、起きたときに対応できることです。
人生100年時代では、この考え方がますます重要になります。
結論
海外医療費は人生100年時代における最大級の想定外支出の一つです。
円安と医療費高騰によって、そのリスクは年々大きくなっています。
しかし適切な保険加入と事前準備によって、多くのリスクは軽減できます。
旅行費用は計画できますが、病気や事故は計画できません。
だからこそ海外旅行では、観光計画より先にリスク対策を考えることが大切です。
人生100年時代に豊かな旅を続けるためには、旅費を準備するだけでなく、安心を準備することも必要なのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年6月14日朝刊
「東京海上、海外旅行保険2割上げ 円安・医療費高騰で」